滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

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北の要塞 4

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 クリスに敵の女を任せたカレンは、外から迫りくる難民を装った敵兵を気にしていた。

 早く門を閉めなければ、百人ほどの敵と言っても要塞内に入られればただでは済まない。

 門の横で歯車を回し続けるラダーに向けてカレンは、聖剣を横一線に振り抜いた。門を開ける手を止めさせる為に、衝撃波を出したのだ。

 衝撃波が届くギリギリまで門を開けていたラダーは、タイミングを見計らって真っすぐ上へジャンプした。衝撃波を避け余裕の表情を見せながら宙に舞う。

「あんな遠くから衝撃波を出して、倒せるとでも思ってるのか? ダンディルグの勇者は、ただの間抜けか」

 カレンを軽視する思いは、直ぐに屈辱へと変わる。何故なら、カレンが放った衝撃波は、初めからラダーを狙っていたのでは無かったからだ。

 ガラガラと鎖の落ちる音が、後ろからする。着地したラダーが見返ると、せっかく半分以上開けた門が勢いよく地面に落ちてしまった。そう、カレンが狙っていたのは、初めから門を吊り下げる鎖だったのだ。

 そうとも知らず余裕を見せていたラダーは、顔を真っ赤にして怒りを露わにした。

「この、クソビッチめが!」

 頭に血が上り過ぎたのか、ラダーは後先考えずにカレンの剣を手にするナイフで真正面から受け止めてしまった。

 聖剣の根元に当たるナイフにひびが入る。

 折れてしまえば脳天を直撃するにも関わらず、勇者に真っ向勝負を挑むつもりなのか。無謀にも思えるラダーの行動にカレンは、何か企んでいるかも知れないと思い警戒する。

「ビッチとは失礼ね、あなた。一応、美少女勇者としてファンも多いのに」

「そんな貧相な胸のガキが美少女とは、笑わせてくれる」

 カレンの表情が、見る見るうちに険しくなる。女性に対して、決して言ってはいけない事をラダーは口にしてしまった。特に今のカレンには、強烈に感情を高ぶらせる言葉なのに。

「ふふふ、面白い事を言いましたね。服の上から見ただけで、どうして私の胸が小さいと分かるのよ?」

「はあー、俺の経験則だよ。お嬢ちゃんとは、生きてる年数が違うんだよ」

「何て失礼な奴なの! 戯言は、そこまでよ」

 カレンは、聖剣の柄を握る手に力を入れた。

 このままラダーのナイフを砕き、奴の脳天に聖剣を食らわしてやりたくなったのだ。華奢な女の子と中年男性の力比べは、もちろん勇者の方が勝っている。

 ラダーは上から押しつぶされそうな力に耐えきれなくなり、腕が少しずつ下がり始め足の膝が笑い出した。

「・・・ッ、勇者だけあって、力はあるな」

 勇者との実力の差は、大きすぎる。やっと自分の戦い方で立ち向かおうと考えたラダーは、ナイフを捨てバク転しながら後方へ退いた。

 門を背にして初めて彼は、後ろから聞こえて来る仲間達の断末魔に気が付いた。

 額の汗がこめかみを通り流れ落ちる。まさかと思いつつ壁の上を見ると、弓兵と魔法使いが壁の外に居る仲間達を攻撃していた。

 突入して来た仲間達は寸前の所で門が閉まっても、諦めず外で戦いながら再び門が開くのを待っていたのだ。それなのに、鎖を切断されてしまった。吊り下げ式の門は、もう容易に開けられない。仲間を要塞に引き入れる為には、門を破壊するしか方法は無い。

 しまった、作戦は失敗だ。もう少し時間稼ぎが出来ていれば・・・。不甲斐ない自分のせいで仲間達を死なせてしまうのか、やるせない気持ちになったラダーは、最終手段を行使しようと決断した。

「クソが、全てこの女勇者のせいだ。こいつのせいで、仲間達が死んでいく。こうなったら、道連れにしてやる」

 カレンは、いつも相手の実力に合わせて戦う節がある。塔の試練で学んだ教訓を生かそうと、初めから全力で相手を叩きのめすつもりでいた。

 カレンは聖剣を天に掲げた。別に意味のあるポーズでは、無いのだが。気合を入れるための何かが、必要だったのだ。

「はあああ、装着!」と、ビキニアーマーを身に付けた。

 マントを翻し上段で剣を構えたカレンは、目を閉じながら心の中でラダーの暴言に反論していた。全てが20%増しなのよ、これでも貧相な胸と言えるのかしら。

 目を開けたカレンは、ラダーに反撃する機会を与えようとは、微塵にも思っていなかった。

「チッ・・・、まともにやり合っても勝ち目はなさそうだな。それにしても、どうしてビキニアーマーを着てニヤついているんだ。この国の女勇者は痴女か・・・」

 痴女扱いされるとは思っても居なかったカレンに、ラダーの言葉が聞こえなくて良かった。もし、聞こえていたら逆上する彼女は、何をするか分からないからだ。

「それでは、一気に片を付けさせてもらうわよ。剣技! 迦楼羅乱舞【改】」

 ブーンと映像が乱れカレンの姿が歪んで見えたので、ラダーは目を押さえた。もう一度前を見ると、カレンが三人になっていた。小賢しい技を使うとは、中々やるなと言いたい所だったが、勇者を三人相手にするなどそんなのは不可能だ。

 目の前から三人のカレンが、ラダーに切り込んできた。

 ラダーは、上下左右に飛び跳ねながらカレンの攻撃を何とか紙一重で避ける。

 一振り一振り剣を避ける度に、全身の毛穴から汗が噴き出してくる。運動で熱くなった体から出る汗では無い、恐怖から来る冷汗だ。集中して全力で避けなければ、聖剣の鋭い刃が確実にラダーの体を切り裂いてしまう。

 カレンの剣を避ける度に切り傷が深くなる。このままでは、間違いなくやられてしまう。窮地に追い込まれたラダーは、感ずかれないように門の傍に移動して行く。あたかも追い詰められていくような振りをしながら。

「もう、逃げられないわよ」と、分裂していた体が一つになったカレンが立ちはだかる。

 門に背中をピタリとくっ付けたラダーは、薄笑みを浮かべた。

 ―――まだだ、もっと俺の傍にやって来い!

 カレンをもっと近くにおびき寄せたいラダーは、懐に隠し持っていたスローイングナイフをカレンの足元に投げつけた。

 ナイフを目にしたカレンは、前へ飛び出し剣をラダーの胸元に突き出した。

「よし、いい子だ。飛び込んできやがった、・・・ぐふっ・・・」

 剣は心臓を貫いているはずなのに、おぞましほどの執念を見せるラダーは、カレンの腕を掴み前に進もうとした。

「ちょ、ちょっと、放しなさいよ」

「ふ、ははは。まだまだ、経験が浅いな・・・。特殊部隊の定めがどういう物なのか、よく見ておくのだ」と、ラダーは自分のベルトのバックルから出ていた紐を引っ張った。

 ドッ、ドドーンと、バックルに仕込まれていた火薬が爆発した。

 死んでしまっては爆発の威力を確かめる術は無いが、運が良ければ門を爆破出来るかも知れないし、勇者カレンを道連れに出来るかも知れない、そう考えたラダーの最終手段は自決だったのだ。

 そんな可能性の低い期待など、水泡に帰してしまった。

 爆風を受けた門は、びくともしなかった。それどころかラダーの血と砂埃を浴びたカレンが、無傷で土煙の中から姿を現したのだ。

 埃を払うカレンは、改めてビキニアーマーの凄さに驚く。さすが、防御力20%アップしてもらっただけの事はある。それにしても、体に付いた血が気持ち悪いくて、直ぐにでもシャワーを浴びたい気分になった。
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