滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

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奔走 2

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 ドア越しから楽しそうな声が、聞こえて来る。

「クッ・・・」、手を汚した自分に楽しむ資格などあるのだろうか。そう考えるミツヤは、ドアが開けられなくなった。

 ―――全部嘘だった、僕は騙されていただけなんだ。

 今となっては、そんな言い訳などで許されない事をしてしまったのだ。

 信じていた人間に裏切られ居場所を失った自分を敵だと思っていた魔族が受け入れてくれるはずも無い。

 騙された後に芽生えた疑念は、自分自身さえも否定してしまう。

 グランベルノ王国を離れてから、ずっとミツヤは後悔と孤独感に苛まされていたのだ。

「どうした、ミツヤ。もう始まっている見たいだから、中に入ろう」

 そうモーガンに促されたミツヤは、ドアを開けた。

 貸し切りの酒場の中は、みんな楽しそうに仲間達と話をしながら飲み食いしている。知らない顔ばかりの中で、無意識にクリスをキョロキョロと探してしまった。

「やっと来たか、ミツヤ。モーガン館長も一緒に、こっちに来いよ」

 クリスに名前を呼ばれたミツヤは、嬉しくなった。何てことのない呼びかけだったが、彼の孤独感を少し和らげたからだ。

「遅くなりました。今日は、僕も参加して良かったのですか?」

「もちろんだよ。みんなに、君を紹介しなくちゃいけないしな」

 ミツヤとモーガン館長が空いている席に座ると、クリスは同席する仲間の紹介を始めた。

「えーと、俺の右隣に座るのが、ダンディルグ王国の国王でラングスだ。そして左隣に座っているのが、勇者カレンだ」

 自分の左隣に座るのが魔族の王で、向かいに居るのが魔族の勇者だと紹介されたミツヤは、口を開け驚いた。

「えっ・・・、国王と勇者?」

 ミツヤの目の前に居る魔王は、人間族と変わらない容姿の気さくな男だった。

「驚かなくて良いよ。私は、魔族の国で国王をしているラングスだ。クリスの友人に会えて嬉しいよ」

 ラングス王が話し終えると、カレンは微笑みながらミツヤの方を見た。

「私は、カレンです。いつも主人がお世話になっています」

「・・・、主人ですか? クリスさん、勇者が奥さんですか・・・」

 照れくさそうにクリスは、頬を指で掻いている。

「まあ、色々あってな。俺にとっては、良い嫁だよ」

「それにどうして国王が参加しているんですか・・・」

「国王としてでは無く、友人として参加しているのだ。遠慮しなくて良いから」

「は、はい。案外、魔族の王は庶民的なんですね」、あまりにも普通に接してくる王に、ミツヤは緊張してしまった。

「ははは、そうか、庶民的か。クリスと付き合っている内に、城を出るのが当たり前になってきたからな」

「そう言うなよ、城の中で友達付き合いは出来ないだろ。ミツヤも遠慮しないでくれ。ここに集まっているのは、俺の友人だ。お前も彼等と友人になってくれると嬉しい」

「そんな。危うく敵になりそうだった僕が、友人だなんて」

 何も知らずに彼等を敵視していた自分が恥ずかしくなり、ミツヤは下を向いてしまった。

「グランベルノ王国での経緯は、みんな知っているから大丈夫だ。心配するな」

 そんな事を言われても本当に大丈夫なのか、ミツヤは疑心暗鬼になってしまう。

「そうよ、遠慮する必要なんて無いから。クリスの友人なら、あなたは私の友人です。だから、さあ、顔を上げて」

 モーガンが丸く縮こまったミツヤの背中に手を置くと、彼は恐る恐る顔を上げた。ミツヤに注がれる温かい眼差しは、ボロボロに傷ついた彼の心を癒してくれる。

「有り難うございます。改めまして、元人間族の勇者だったミツヤ・タカハシです。これからもよろしくお願いします」

「元か、そりゃ良いや。俺と同じだな。もう人間族の勇者として縛られず、自分の思ったように行動すれば良いよ。それにしても、グランベルノ連中から魔族の事をどんな風に聞いていたんだ?」

「グランベルノでは、魔族はこの世界を支配しようとする悪の根源と聞かされていました。それに、僕の勝手な思い込みもあって・・・」

「悪の根源か、酷いな。それで、ミツヤは魔族をどう思っていたんだ?」

「えーと、僕の世界に魔族は居ないのですが、物語や想像図があって頭に角が生え牙を剥き出す破壊者となっていたのです。だから、彼等の話を鵜呑みにしてしまいました・・・、ごめんなさい」

 ラングス王とカレンは、目を丸くした。立ち上がり頭を下げたミツヤの行動に驚いたのではない、異世界で想像されている姿に驚いたのだった。

「ふっ、凶悪な存在にされているのだな。世界が違えば、そうなるのか」

「ほら、ミツヤ。私を見て、角なんてないでしょ」

 少々呆れた顔をするラングスと髪を掻きあげてミツヤに見せるカレンに、クリスは面白そうに笑っていた。それに反してモーガンは、気になる事があるのか頷いていた。

「それでは、ミツヤの世界にエルフ族は居たのか」

「いいえ、エルフ族も居ません。住んでいるのは、人間族だけでした」

「そうか、それでは我々の姿は初めて見たのか・・・」

「それが、魔族と同じ様に想像の中の種族として話や絵があるんですが、モーガン館長と全く同じ姿をしていました」

「ほう、存在しないのに想像と姿が一致しているのか。不思議なものだな」

「もしかしたら、ミツヤの世界にエルフ族が迷い込んだとか。どこかで繋がってるんだよ、そう考えた方が納得できるけど」

「そうかも知れないな。興味深い話だから、エルフ族の古い文献を調べてみるか」

「それはそうと、クリス。アルフェリアに行くとカレンから聞いたが。もう、ここには戻らないのか?」と、ラングス王は少し寂しそうな表情をした。

「ああ、ミツヤと一緒にアルフェリアに向かうよ。ちょっと調べたいことがあるから、暫く留守にするかな。心配するなよ、必ずここに戻って来るから」

「戻って来るのか、本当だな」、ラングス王は念を押す様に強い口調になった。

「本当だよ。館でカレンが待っているからな。俺の帰る所は、ここダンディルグだよ」

「その言葉が聞けて、良かった」

 一通り話をした後、クリスはミツヤを他の仲間達に紹介する。みんな彼を友人として快く受け入れてくれた。人懐っこいジルは、ミツヤと直ぐに打ち解け合い話を弾ませていた。

 ジルにミツヤを任せたクリスは、一人カンターで酒を嗜むモーガンの隣に座った。

「良かったな、クリス。彼が尋ねて来た時は、どうなるかと思ったが」

「ええ、モーガン館長も心配してくれてたんですね。ミツヤが、自分の居場所を見つけられるよう手助けしようと思います。だから、彼の事は任せてください」

「彼の為を思うなら、旅のついでに人間族の勇者に用意されている女神の武具を取りに行ったらどうだ」

「何か知っているんですか?」

「あるんだ、元フリント王国に勇者の武具が」

「えっ、聞いた事が無いけど・・・」

「王族が勇者の武具を秘密裏に守っていたのだよ。もしかしたら、今も残っているはずなのだが」

「それは、何処にあるんですか」

「王家の渓谷を知っているか」

「はい、知っています。南にある王家の墓ですよね。何度か王族の護衛で行った事があります」

「本当は、墓じゃないのだ。王家に伝わる秘宝を隠している場所だったのだよ」

「分かりました。アルフェリアから次の目的地として行って見ます」

「ふふふ、健闘を祈るよ」

 更なる目的が出来たクリスが席を立つと、そろそろお暇しなければならないのかカレンが眠そうにウトウトしていた。

 カレンの手を取ったクリスは、みんなに挨拶をしてから酒場を出た。

「ふぁああ、まだ大丈夫だったのに」

「いいや、無理に付き合わなくて良いよ。みんなと楽しむのも良いが、君との時間も大切だろ」

 そんな言葉を聞かされると、思わず嬉しくなる。クリスの腕にしがみついたカレンの視線を感じたクリスは、彼女の方に顔を向けた。

「ねえ、普通が良いよね!」

「そうだな」

 誰も居ない街を二人で独占している気持になる。

 今だけは、普通の男女として幸せな気分を味わいながらわが家へと帰るのであった。
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