言い訳無用!!

谷川ベルノー

文字の大きさ
1 / 1

言い訳無用!!

しおりを挟む

 将来、結婚を誓いあっている二人の男女が互いに互いを見つめあっていた。

「………………」
「………………」


 広い部屋の中のたった二人だけの空間。
 ──────だが、そこに甘酸っぱい雰囲気は微塵もない。

 何故なら、屋敷の室内は張り詰めた空気で満たされているのだから。


 男は、今にも失神するんじゃないかと思う程に真っ青な顔で冷や汗を滝のようにダラダラと垂れ流している。

 それとはひどく対照的な少女。
 汗一つ無い顔はとても穏やかなれど、笑みを浮かべている目は全くもって笑っておらず。
 見るもの全てに絶対なる恐怖を与えるオーラが全身から湯気の如く目に見えて立ちのぼっている。


「………………」
「………………ねえ。コレって、一体全体どういうことなのでしょうか?」

 少女が両手に持っている水晶玉。
 それは、遠くの光景を録画して映し出す魔法が込められている道具。
 透明度の高い球体に投影された光景は、男が見知らぬ女性と高級感溢れる品物だけを扱っている豪奢な店内でイチャついている光景だった。

『ねぇねぇ、伯爵様。この宝石とドレスを買って下さいなっ!』
『はははっ! なんでも買ってやるから遠慮をする必要はいらないぞ。なんなら、もっと高い物でも構わん。世間知らずの阿呆な小娘を騙せたからな、今後も金は使い放題だ』
『きゃ──────! 素敵──────!! じゃあじゃあ! コレもコレも、ぜんぶぜ──────んぶ買って下さいなっ!!』
『いいぞいいぞ!! じゃんじゃん選んでくれ! はっはっはっ! はぁっはっはっはっはっ──────!! 』



「………………」
「………………」
「……………………」
「……………………」
「────────で、この『世間知らずの阿呆な小娘』って誰のことでしょうか?」

 どれだけ自ら口を開くのを待っても、男は何一つ発言をしなかった。
 そのことに痺れを切らした少女は、自ら口を開いた。
 抑揚も感情も無い声。


 「ま、待ってくれ! 違う、これは何かの間違いな────────」

 男が言い訳を言い切る前に、魔法によって特大の爆発が屋敷に解き放たれた。


 消し炭になった元伯爵の屋敷後には、生きているのがおかしいんじゃないかと思う程に真っ黒焦げになった伯爵がピクピクと痙攣を繰り返している。


「安心して、命までは取らないから」
 そう言って、ニコリという効果音が鳴りそうなぐらいに微笑む汚れも傷も全く存在していない少女。
 笑ってはいるが、満足している様子はない。


 男が起きていれば、少女の目は変わらず極寒の冷気を纏っていると。
 恐怖の感情を相手から無理矢理にでも引き出すプレッシャーの放出が止まっていないと感じたことだろう。



 その後、男の犯した最低な詐欺と浮気が少女の家族のみならず世間その他色々と広く知れ渡った。
 婚約は当然ながら破棄。
 彼の人生は、一生後ろ指をさされることとなったという。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです

藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。 ――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。 妹は父の愛人の子。 身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、 彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。 婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、 当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。 一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。 だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。 これは、誰かが罰した物語ではない。 ただ、選んだ道の先にあった現実の話。 覚悟のなかった婚約者が、 自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。

「その気になれない」と婚約破棄したあなたの、話を聞く必要がありますか?

さんけい
恋愛
国境を守るために結ばれた婚約を、侯爵家の令息は「その気になれない」という身勝手な理由で壊した。しかも婿入りする立場でありながら、愛人を認めろとまで言い出して――。 侮られ、傷つきながらも、伯爵家の跡取り娘エーディアは立ち止まらない。父とともに次の手を打ち、地に足のついた堅実な男ユリウスと出会い、領地と未来を少しずつ立て直していく。 一方、婚約を軽んじた元婚約者は、家にも王都にも見限られ、じわじわと立場を失っていく。 これは、誰かに苦しみを背負わせようとした男が自滅し、自分の足で立つ女が静かに幸福をつかむ、国境領ざまあ婚約破棄譚。 全44話。予約投稿済みです。

あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません

藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。 ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。 「君は分かってくれると思っていた」 その一言で、リーシェは気づいてしまう。 私は、最初から選ばれていなかったのだと。 これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。 後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、 そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。

婚約破棄の帰り道

春月もも
恋愛
婚約破棄を宣言されたその日、彼女はただ静かに頷いた。 拍手の中を背筋を伸ばして歩き、令嬢としての役目をひとつ終える。 やがて醜聞にまみれ、「傷物」「行き遅れ」と囁かれながらも、 薔薇と風だけを相手に庭でお茶を飲む日々。 気品だけを残して、心はゆっくりと枯れていく。 ――そんな彼女の前に現れたのは、 かつて身分違いで諦めた幼馴染、隣国の若き王だった。 「迎えに来た」 静かな破滅の先に訪れる、軍を率いた一途な求婚。 これは、声を荒げずにすべてを覆す、上品な逆転劇。

婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

うまくやった、つもりだった

ひがん さく
恋愛
四大貴族、バルディストン公爵家の分家に生まれたオスカーは、ここまでうまくやってきた。 本家の一人娘シルヴィアが王太子の婚約者に選ばれ、オスカーは本家の後継ぎとして養子になった。 シルヴィアを姉と慕い、養父に気に入られ、王太子の側近になり、王太子が子爵令嬢と愛を深めるのを人目につかぬよう手助けをし、シルヴィアとの婚約破棄の準備も整えた。 誠実と王家への忠義を重んじるこの国では、シルヴィアの冷徹さは瑕疵であり、不誠実だと示せば十分だった。 かつてシルヴィアはオスカーが養子になることに反対した。 その姉が後妻か商家の平民に落ちる時が来た。 王太子の権威や素晴らしさを示すという一族の教えすら忘れた姉をオスカーは断罪する。 だが、シルヴィアは絶望もせずに呟いた。 「これだから、分家の者を家に入れるのは嫌だったのよ……」  

処理中です...