婚約破棄をしたならば

谷川ベルノー

文字の大きさ
3 / 3

3 ようやく、私だけを見てくれた

しおりを挟む

「デンレーヤ! お前との婚約は破棄だ!!」

「それは……」

「おっと、お前がする返事は『はい』か『分かりました』の2つだけだ。
否定は無駄な時間稼ぎと見なすぞ」

「……イ……サエ」

「……? お前、今なんと言ったんだ。モゴモゴ喋っていてよく聞こえなかったぞ」

 小さく呟やかれては、まともに聞こえないとウワッキは顔をしかめた。

「返事はハッキリと言えっ!
……まったく、俺を不快にさせる醜態ばかり繰り返すのが原因で俺に嫌われたんだとちゃんと理解しているのか?」

 これは彼の嘘。
 本当の理由は、今の女性に飽きたから捨てようとしている。
 ただ、それだけのこと。

 そのくせに、プライドとは名ばかりのちっぽけな自己保身が少しでも自身を正当化しようとしているようだ。


「分かったなら、もっとしっかりとした返事をしろっ!!」

「ニナリーナ・イーニ・ワトサエ」

「……はっ?」


 デンレーヤがハッキリと告げたのは、魔法の呪文。
 それにより、部屋に置かれていた真っ白いキャンバスに魔法が掛かった。


「キャッ! キャッ!」

 キャンバスは、まるで感情があるかのような笑った産声を上げる。
 そして、生き物じみた動きを見せるなり素早くウワッキの腕へと噛みついた。

「痛……くはない?
おいっ、コイツで返事を誤魔化────ひぃっ!?」

 牙の無い口なので痛みはない。
 だが、蛇が蛙を食べるようにウワッキの腕を呑み込み始めだしたではないか。

「な、何をしている! 離せっ! このっ!!」

 得体のしれない存在。
 捕食に似た行動への恐怖。
まだ自由な片手でウワッキはキャンバスを殴りつけた。
 
「おいっ! 下らない悪ふざけをして何のつもりだっ!?」

「残念ですけど、それでは外れませんよ?」

 焦っている怒鳴り声への、妙に上機嫌な返事。
 デンレーヤの言葉通り、ウワッキには殴った痛みもキャンバスが吹っ飛んでいく感触も感じなかった。

「……な、何だとっ!?」

 底なし沼に手を突っ込んだかのようなズブズブとめり込む感触がするだけ。
 状況が好転するどころか、むしろ悪化してしまっていた。

「うわああああぁぁぁ──────!?!?」

 完全な悪手。
 ウワッキはそのままどうすることも出来ず、情けない悲鳴と共に完全に呑み込まれてしまった。



「……」

 悲鳴が無くなり静かになった後には、完成したウワッキの肖像画とそれを持つデンレーヤ。
 彼女は、部屋の中で一人きりになって佇んでいた。

「……うふふっ……」

 デンレーヤは、魔法によって絵となったウワッキに向けて心の底から嬉しそうに笑った。

「ようやく、私だけを見てくれた」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

婚約破棄された私と侯爵子息様〜刺繍も私も、貴方が離さない〜

ナナミ
恋愛
「ディアナ!お前との婚約を破棄する!」  ディアナ・コヴァー伯爵令嬢は、婚約者である伯爵子息に断罪され、婚約破棄されてしまった。  ある子爵令嬢に嫌がらせをしていたと言うことである。彼女には身に覚えのない冤罪であった。    自分は、やっていない、と言っても、婚約者は信じない。  途方に暮れるディアナ。そんな時、美形の侯爵子息であるフレット・ファンエスがやって来て……。  伯爵令嬢×美形侯爵子息の恋愛ファンタジー。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

ここへ何をしに来たの?

恋愛
フェルマ王立学園での卒業記念パーティ。 「クリストフ・グランジュ様!」 凛とした声が響き渡り……。 ※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しています。

もしもゲーム通りになってたら?

クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら? 全てがゲーム通りに進んだとしたら? 果たしてヒロインは幸せになれるのか ※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。 ※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。 ※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。 ※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。

悪役令嬢の大きな勘違い

神々廻
恋愛
この手紙を読んでらっしゃるという事は私は処刑されたと言う事でしょう。 もし......処刑されて居ないのなら、今はまだ見ないで下さいまし 封筒にそう書かれていた手紙は先日、処刑された悪女が書いたものだった。 お気に入り、感想お願いします!

処理中です...