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歌唱制裁
しおりを挟む「婚約を破棄していただきますわ、ディン様」
「…………な、何故なんだい!ザルキュー!!」
「偽物よ! ディン様をまやかすのを! お止めなさいませ!!」
もうすぐ結婚する予定の二人だったが、男女のうち女性のザルキューはイケメンの男性ディン・トゥーン・デ・フ男爵の前に現れるなり、婚約破棄を申し出した────────と、思ったら。
もう一人のザルキューにザルキューは、魔法を撃ち込まれた。
「…………なっ!? ザルキューが…………二人…………いる…………だと…………。ハッ!? そうか! 片方は最近噂になっている偽物が結婚破棄をするという愉快犯かっ!!」
混乱するもディンは、愛による超速理解ですぐさま真実に気付いてハッとする。
「わたくしを騙り、あまつさえディン様への婚約破棄。──────なんたる許し難き所業! 偽物よ! 今すぐ引っ捕らえて差し上げますわ !!」
「何を言ってますの? ワタクシが本物ですわよ!!」
一発の魔法が戦いの始まりを告げるゴング。
鏡写しの二人はすぐさま魔法による決闘を始め出す。
偽物もなかなかの実力者であるらしい。
互いの力量が拮抗していて決着がつかない。
これではきりのない試合だ。
(二人共、強い! 僕が戦いに加わっても、ただ足を引っ張るだけ。クッ! 僕は一体どうしたらいいんだっ!!)
「ちっ、アンタなかなかやるじゃないの」
「あらあら? 口調がもう砕けておりましてよ? この程度の運動で演技がはがれるなんて、随分と体力のない貧弱っぷりですわね」
(僕に出来ることは────────────そうだ!!)
「ザルキュー! 戦いでは僕は足手まといになってしまう! だから、君を鼓舞する為に歌う!」
「…………ディン様…………」
「ぉaんdてzあxすvくbあnきゅm~。うぇxおcいwゆqつeりゅrえt~」
「ぎぃきゃあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ───────────!?!?」
歌い出したディンの喉と舌から紡がれる旋律は、現実にこの世の地獄を顕現させた。
生きるものに鞭打つは生温い。
耳から毒物を無理矢理流し込み。
脳に破滅の悪夢を届ける。
ここは何処、わたしは誰。
三半規管は死んだように。
立てない、歩けない、動けなくはないが神経は精神ごと滅茶苦茶にされている。
風景は虹色で川の向こうにいる耳のない悪魔が、こちらに手を振っている。
「…………あぁあぁぁ! …………おかしな風景が…………虫、虫! …………頭にナニかが這っているぅ…………!?」
「ぷqへlでpうぇeあbくぃxおmえhうぇdくzぶt~。lはyぴゃaちゅrえnくvさzでmつoいwお~」
上手く言い表せない七色の極彩色の脳内苦痛を表した妄想じみたおかしな光景。
幻覚を見せる魔法でも喰らわせられたかのような耳と脳を惑わせる精神異常に悲鳴を叫び続ける偽物のザルキューは、殺虫剤を振り掛けられた害虫のように悶え苦しんでいる。
力の限り耳を押さえつけ。
喉が張り裂けんばかりに大声を張り上げて歌声を掻き消そうとしているが意味は無い。
何故なら、ディンの歌声は魔力が込められている。
耳で聞かせるのではなく。脳に直接独特な歌声が届けられているのだ。
「じゅhるyえuうぇiくnあzくdでbせaぜpちゅrゔぇv~。lむaぬmぶufをqいoえtすeぇb~」
ダメージを受けているのは、なにも偽物だけではない。
ディンの周囲半径100メートルも異常な光景となっている。
飛んでいた鳥は目を回し、白い泡とともに奇妙な断末魔を吐き出して空から落下。
草木は枯れるなり、茶色からドス黒い色へと変わり果て。
虫達が一斉に土や草むらから飛び出すなり、バタバタと全てが倒れて動かなくなる。
たまたまいた不幸なウサギの魔物は、穴を掘って逃れようとしたのか。
フワモコのお尻を穴から突き出したままピクピクと痙攣をしている。
「こyじゃjだfうaおyぽk~。らbうぇcふzゔぉuくfのsぜe~」
「………………イヤ………………止めて………………お願いします………………」
弱々しく懇願しても、意味はなかった。
歌うという行為にトリップしてしまっていて、ディンは周りの惨状に全く気付いていなかった。
悪魔の金切り声の方がまだマシな歌声に、本物のザルキューはどうなっているのかというと。
「──────あぁ、とても刺激的で最高の響き。ますます貴方様に惚れてしまいますわ。きゃ~!!」
好物を味わう猫の如く、うっとりと恍惚の表情で聞き惚れていた。
どうやら彼女にとって死を招く破滅の歌声は、天上から捧げられる極上の奇跡でしかないようだ。
なにせ、白い頬を薄紅色に染めて歓喜の黄色い声援を上げるくらいなのだから。
ザルキューを陥れようとしていた偽物は、愛し合う者同士を専門に狙う悪質な愉快犯。
歌い終わったディンによって警察に突き出され、無事に逮捕。
彼女はディンによって身も心も癒えぬトラウマが刻まれた。
その後、歌という歌
歌という歌を耳にする度に発狂を繰り返すようになったという。
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