その婚約は破棄で

谷川ベルノー

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その婚約は破棄で

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「…………君を愛してる。だから、結婚しようじゃないか」
「…………その申し出、喜んで受け入れますわ」

 将来を誓いあった男女は、ゆっくりと。
 だが確実に近付いていく。
 そして、互いの吐息を間近に感じる距離になった瞬間、二人は愛を確かめ合うかのように口付けを交わ──────

「死にさらせえぇえぇえぇええぇえぇえぇええぇぇぇぇぇっ────────!この下衆がああぁあぁあぁあぁ────────っ!!」
「ぎゃあああぁぁ──────────!?」
「きゃあああぁぁ──────────!?!?」


────────し合う前に、男は突然あらわれた謎の女性の魔法によってブッ飛ばされてしまった。


「──────フゥッ。ちゃんと手加減できてるなんて、流石わたくし。殺意のあまり、ついうっかりきっちり殺っちゃところでしたわ」
「…………ちょっ! …………ちょっ!? …………ちょっと!! アナタ一体」
「突然でごめんなさいね。緊急事態でしたので…………コホン。では、改めまして自己紹介しますわね。わたくしは魔法警察官。あなたを助けに参りましたの」
「………………………………はいっ?」


 突如現れ物騒なことと魔法警察官だと言った女性が魔力を込めた指を弾いて、パチンッと音を鳴らす。
 その瞬間、少女の胸に宿っていた恋の熱が急激に冷え切ってしまった。

「──────えっ?」
「貴方は、使用が禁止されている魔法によって強制的に魅了されていたの。可哀想に、今まで酷い扱いをされていたのでしょう?」
「…………えっ? …………いや…………そん…………な…………」



 デートでは、常に高額な物を貢がされていた。
 共に行く食事は常に高級料理店。
 代金はいつも自分が支払うことになっていた。
 将来は二人の愛の巣になるのだと言われた家では使用人の如く毎日こき使われている。
 機嫌が悪い時には、ぶたれることがあった。



 ──────偽物の愛で曇らされていた思考がまともに戻れば、自分が奴隷以下の扱いでいいように使われていただけという真実に辿り着くことが出来た。


「────────許さないわ」


 今までの出来事が思い出され、熱が冷めきっていた胸からふつふつと恋とは異なる火が灯る。
 それは、怒りという名の強烈な炎。
 火柱のごとき業火へと燃え上がるのに、数分と掛からない。


「…………うっ、うぅ…………一体…………何…………が…………?」
 地面へ倒れていた男が片手で頭を押さえながら、ふらふらとしながら立ち上がる。

「──────ねぇ」
「………………?」
「貴方との婚約、破棄しますわね」
「………………へっ?」



 ──────それから数分後。
 少女は、魔法で攻撃されたことによって顔がボコボコに腫れ上がった意識のない男を引き摺りながら魔法警察官の元へと戻っていった。


「あら、お見事」
「どういたしまして」

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