慈悲なんてない

谷川ベルノー

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慈悲なんてない

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「僕と結婚して下さいっ!!」
「嫌です」

 婚約は、その一言で破棄された。


「……えっ」
「……えっ?」

 女性の態度は視線同様冷たく、男は困惑し続ける

「…………」
「…………」


 暫く、無言の時が流れた。


「な、なんで嫌なのか聞いてもいいかい?」
「──────チェルミ」
「…………っ!?」


 その名前を女性が呟いた瞬間。
 男が顔面に貼り付けていたニコニコ笑いが凍りつく。


「マリリカ、パッフェル、ポキータ、ホジョリー」
「…………どっ!…………どっ?…………何処で…………その名前を…………!?」


 立て板に水。
 名前をスラスラ言えば言うだけ、男の顔色は真っ青になっていく。


「貴方に言う意味って、あるのかしら?」
「…………ふんっ! どうやって知ったかは、どうでもいい! 今すぐ死ね!!」

 激昂した男は、魔法を使って女性を殺そうとした。
 口封じ目的の凶行。
 だが女性が襲われる前に、強い衝撃が男の身体を貫いた。


「…………がっ!?」

 バチバチと音をたてる紫電が男を痛めつけ自由を奪う。
 煙を身体から立ちのぼらせるなり、男は地面にドサッと倒れ込んだ。
 死んではいない。
 かろうじて生きてはいる。


「貴方が殺した女性達の中にはね。とある魔法組織のボスの娘さんがいたそうなの。わたしも詳しくは知らないけど、裏では凄く有名な方なんですって。だから、貴方の破滅は元から決定してたって訳なの」
「…………」


 淡々と女性は言う。
 男に聞こえていないと知りながらも、言わずにはいられなかったのだろう。



「協力、感謝しやす。お嬢の仇がとれやした」
「…………それは、わたくしも言うべき言葉です。友人の無念を晴らす手段を与えて下さったのですから」


 黒い服をキッチリ着込んだ厳つい集団が、気を失ったままのボロボロの男を連れて何処かへと行ってしまった。




「…………えぇっと。彼、そういえば今後どうなるの?」
「然るべき処置をした後、ある場所へと連れていきやす。
「…………それは何処か。聞いても?」
「──────いけやせんな。ですが、いっそのこと一思いに死んだ方がマシ。そんな地獄じみた場所とだけ言っておきやす」
「それは、いい気味ね。本当に本当の」
「日の目を見ることは…………もう、一生ないでしょうなあ」
「──────そう」
「…………殺したかった。ですかい?」
「………………ううん。あんな下衆の血でわたしが汚れちゃうのは、喜ばないと思うから」
「…………良い、お友達さんでやしたんですなぁ…………」
「…………とっても優しくて、明るい素敵な親友だったのよ…………」




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