【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

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5.大司教の提案

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「────うむ、これは私には無理ですね」

 開口一番、大司教に告げられた。

 王都の南にある大聖堂に到着したころにはすっかり日も落ち、辺りは真っ暗になっていた。道行く人々は夜の賑わいを楽しんでおり、それを横目で見つつ向かったのだが。

 拘束具による効果で気を失わない距離を保つというのはなかなかに難しく、近づき過ぎれば「もう少し離れろ」とコルネリウスから非難される。逆に遠すぎれば「気絶したいのか?」と煽られ、仏頂面の男に付き添うのはここまで苦労することなのかと気苦労が絶えなかった。元々嫌われているのだから致し方がないことだと、胸の内でこらえる。

 やっとの思いでついた大聖堂は人気もなく、少しだけ不気味さを感じさせた。夜遅くから申し訳ないと思いつつ、非常事態であるためコルネリウスの貴族の特権をフル活用した。面倒な手続きをすっとばして大神官に願い出たのだが、結局望む答えは得られず、先のように一刀両断されるはめとなった。

「ほんとうにどうすることもできないんですか!?」

 私は思わず前のめりになりながら迫ってしまう。横で待機していたコルネリウスも家を出る前の笑みから一転、顔を曇らせながら大神官を注視する。

「ええ、申し訳ありませんが、私の手に負えるものでないですねぇ」

 大神官は困り果てた様子で頭を搔き、そして続けた。

「これはただの魔法ではなく古代魔法────現代では呪いと呼ばれる類のものですからね」

 コルネリウスは眉を顰め、訝しげな様子で口を開く。

「呪い、ですか」

「そうです。私も一昔前に少しだけ文献で見たことがあったような……とても珍しいものです。たしかこの呪いをかけた妖精はあなたたちお二人を《仲良くさせる魔法をかけてあげる》と言っていたのですね」

 問われたコルネリウスは「はい」と返答する。大神官は頭を捻りながら思案していた。そうして悩んだ末に一つの考えを提示した。

「でしたら、やはりお二人が仲良くなったと証明できればこの呪いは解呪されると思われます」

「えっと……仲良くなった証明とは……」

 曖昧な表現に私は頭を掻きむしりたくなる衝動を抑えながら言葉を紡ぐ。

「妖精が考える仲良くなった基準ですからね。私にも分かりかねます。こんなことしか言えず大変申し訳ございませんが。……そうそう! もしかすると古代魔法について記した文献の中に何かしらの答えがあるかもしれません。ご自由にお調べできるよう特別に禁書庫の鍵を渡しておきます」

 そう言いながら大神官は胸元に仕舞い込んでいた鍵の束をとりだし、一つ抜き抜くとこちらへと差し出す。反射的差し出した私の手の上に乗せた。

「ホーエンハルト侯爵家のご子息であられるコルネリウス様直々のお願いということですので、特別ですよ。ああ、禁書庫はこの大聖堂の地下にあります。小間使いに案内させますので、どうかご安心を」

 そう言ってニコリと微笑んだ。一見優しげな笑みのようにも見えるが、老狡さが垣間見えた。長年世間の荒波に揉まれてきた老人の底知れなさに思わず身震いをしてしまいそうになる。

「それでは、私は明日の朝より神事の予定がいくつも詰まっておりますのでね。寝不足は老人の体には応えます」

 腰を叩きながら去っていく後ろ姿をコルネリウスと共に眺める。

「……大司教でもどうしようもないとはな。面倒だが言われた通り文献を漁るほかない」

 コルネリウスは不機嫌さを隠すことなく、わざとらしく溜息を吐く。私も「そうですね」と同意しながら、この男とまだ共に行動しなければならないのかと憂鬱に思った。

 コルネリウスはそこいるだけで絵になる美丈夫と世間では評判であるが、私にとっては見ているだけで気持ちを鬱屈させる権化ともいえる。自分を嫌っている人間とわざわざ一緒にいたいと考える人などいない。

 睨むことなくただ黙っていればいい男なんだけどな、などと考えつつちらりとコルネリウスに目を向ければ、どうやら向こうも私を見ていたようだった。ばちりと視線が重なり合うが、またもや先に目を逸らされる。

 互いにぎこちない空気を感じながらも、小間使いの青年に案内されて地下へと赴く。カビ臭いと想像していた禁書庫の中は以外にも清潔だった。ただ備え付けのランプの灯りは弱く、小間使いの用意した手持ちランプを持たなければ文字を追えないことが難点だった。

 書庫の中で二人きりとなり、またもや気まずい緊張感が周囲を満たす。気まずさに耐えかねた私は口を開いた。

「……あ、あの……文献、関連したのありそうですか?」

「すぐに見つかったら苦労しない」

「あはは……そうですね」

 黙々と端から順に古い書物に目を通していくコルネリウスとは対照に、もともと本を読むことが苦手な私は四苦八苦していた。禁書は主に古文書でもあり、並んだ文章は古い言い回しが多い。貴族としての教育を受けているコルネリウスとは違い、私はそれほどの高等教育は受けてきていない。平民は文字の読み書きと計算さえ出来ればいいとの考えなのだから致し方ないだろう。

 文献をめくるペースの違いに申し訳なさが先立ち、背中を丸めながら文字を追うが頭に入ってこない。自分の役の立たなさに落ち込みかけていたとき、隣で本をめくっていたコルネリウスは口を開いた。

「この辺りの文献は黒魔法の類ばかりだな。古代魔法や呪術も近しいものに違いないから、そばに関連の文献がある可能性が高い」

「……っ! そうですか! この広い書庫の中から見つけ出すのはかなり苦労しそうでしたが、少し希望が見えてきますね」

 無理に空元気を装い、コルネリウスに同調する。対する彼はどこか嫌味を含んだような口調で言い募る。

「どうやらお前の方は……どうやらあまり進展がないようだな」

 図星を尽かれれば、さらに気持ちが落ち込んでいく。
 たしかにそうだなと、自分を卑下する感情に心を支配されそうなる。

 卑屈になってはダメだ。
 そして何もできない自分を嘆くより、できることを探すべきだ。

 前向きなのが自分の取り柄なのだからと自分に言い聞かせ、私は意を決し、考えていたことをコルネリウスに告げた。

「──それなら私は別の方法で役に立ちます」

「……別の方法?」

 彼の問いに頷き、食事をする前の出来事を思い返す。

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