【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

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41.ふたたび コルネリウスside

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 バルテルという嫌いな男に指摘されたからってそれを認めないだなんて、自分はまるで子供のようだ。言われた言葉が骨身に染みるようだった。

 ──早く追いかけなければ。

 すぐにそう思った。
 瞬間、部屋から出ようと扉に手をかけ、彼女の後を追おうと一歩踏み出す。
 けれど一度立ち止まり、振り返ることなく独りごちる。

「助かった。……ありがとう」

 背後でバルテルが笑ったような気がしたが、俺は気にせずその場から駆け出した。

 この時間帯だ。
 真面目な彼女のことだ。きっとそのまま自宅へと戻っただろう。

 俺はステレを追いかけるべく夜の人混みの中を走る。
 騎士服のまま通りに出たせいで、途中道に迷ったという人間に声をかけられ時間を取られてしまったが、なんとか無事に到着する。

 彼女の部屋の前に着き、扉を何度かノックする。

「俺だ、コルネリウスだ。……すまない、先ほどは酷いことを言ってしまった。直接謝罪がしたいんだ。どうか開けてくれないか?」

 顔見せてくれるのか、今はそれだけがただ不安だった。ステレを傷つけてしまった俺の顔など見たくないと拒否される状況が簡単に頭に思い浮かぶ。

 けれど、その最悪な想像は幸運にも当たらなかった。

 扉ごしにゴソゴソと物音が聞こえ、ガチャリと木製扉が開かれる。隙間からステレが顔を覗かせた。
 ゆっくりと開かれた扉。ステレは目を赤くしたまま玄関口に立っていた。その充血した瞳を見て、呼吸が止まりそうになる。
 俺の言葉が彼女を追い詰めてしまったんだとより強く自覚したからだった。

「っ、これギルド証。忘れていっただろう? ……それと本当にすまなかった。あんなことを言うつもりはなかったんだ」

 ギルド証を押し付けるようにして渡した後、その場で頭を下げてじっとステレの言葉を待つ。
 何を言われても仕方がないとぐっと下唇を噛んで願うように押し黙った。

 だが彼女よりも先に話す声が耳に届く。

《ちょっとあんた! ステレを泣かすなんて酷いわ! 二人ともいつも喧嘩ばっかりね!》

 突如耳元で聞こえた大声。
 ギョッとして視線を移せば、そこには誰もいない。
 当たり前だ、この声の持ち主はステレの家に住む妖精だからだ。

 姿形は見えないが、以前何度か彼女の自宅を訪れたときも話しかけてきた。
 ステレからの返事も返って来ていないから、俺はその声の主を無視し、引き続き黙り込んでいた。それが気に障ったのか、耳元のいた妖精はとんでもないことを言い出した。

《あなたたちってほんとお互いのことわかってないから、こんなふうになっちゃうのよ! もういいわ! 私がどうにかしてあげる! 感謝なさい!》

 どうにかするって、と何を妄言を吐いているのかと理解が追いつかず、瞬間思考が固まる。けれどきっとまたよくないことだろうと気がつき、俺は妖精の声が聞こえる方へと顔を向けて叫んだ。

「おいっ、やめろ!」

《いやよっ! ……う~ん、えいっ!》

 妖精の声と同時に光が弾ける。既視感のある光景だった。以前とほとんど同じ、妖精の──。

 何も知らないステレも目を丸くして呆然とその光を目に焼き付けていた。

 思い浮かぶのはあの手枷の呪い。避けようとその場で身体を捻ろうとするも一歩遅く、妖精の放つ光は最も容易く俺を、俺だけを包み込む。

 痛みはなかった。
 湯に浸かったときのように全身が生温かく、周囲が異様に眩しくて目が眩んだ。光はすぐに消えた。

 何かを仕掛けたらしき妖精は以前と異なりその場にいるようで。

《ふふふっ、これでもう安心ね!》

 耳もとに声が届き、俺は声を荒げて問い詰める。

「っ、おい、何をした!」

「そ、そうよリーフ。何があったの、今!」

 少し前まで口を結び続けていたステレも同調して追求する。交妖精のいるらしき声のする方向と、俺を交互に視界に入れながら不安げな様子だった。

《前とはまた違う素敵な魔法を授けたわ! あの時は私が手枷に変身して二人の距離を縮めてあげる不破昵懇ふわじっこんの魔法を使ったんだけど、今回は制限時間が短い代わりに結構強力な力よ!》

 大聖堂の禁書庫で見つけた呪いはやはり妖精にとっては魔法だったのかとか、今度は一体なんの力を使われたのかとか、問い詰めたいことは山ほどあった。

 だがそれよりも、突然ステレが「え?」と呟き俺へと視線を向けてくる。

 まん丸とした瞳が真っ直ぐこちらを捉え、きょとんとしている姿は愛らしかった。と思えば、彼女は突如顔を真っ赤にさせる。

 一体どうしたのか、なにをそんなにも驚いているのか。
 訳がわからず俺たちは互いに顔を見合わせる。

 その後ステレはというと目を何度も瞬き、「えっ、なにこれ。どういうこと!?」と焦燥感を募らせたように視線を右往左往させていた。
 俺にはさっぱりと分からないが、あたふたした様子も可愛らしいななどと考えている自分がいた。

 すると顔を紅潮させたステレは涙目になりながら俺の方へと身を乗り出し、主張を始めた。

「もうっ、その可愛いって考えるのやめてください!」

「…………な、なにを!?」

「全部、コルネリウス様が思ってること全てが私に伝わってくるんですよ!」

 動きが止まる。
 思考はぐるぐると巡り、俺は結論に辿り着いた。

 《妖精のイタズラ》がまたやってくれたな、と。
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