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47.謁見
翌朝目が覚めたとき、テオドルスは一言告げた。
「一週間後、全てを明らかにしようと思う」
私の指に自分の指を絡ませ、目を細めて私を直視する。
その瞳はまるで未来を見据えるようだった。
テオドルスはどうするのかを語った。まずは国王陛下に謁見を申し出て、その際に王太子エミールにも同席してほしいと願い出るつもりとのことだった。
彼は私に一通の手紙を差し出す。見覚えのあるそれを手に取り、その中身を確認した。
『君に聖女は似合わない。潔く別れることをおすすめする』
簡潔に、はっきりとその文字が刻まれていた。
この手紙は私がテオドルス宛としてエミールから渡されたものだった。あの時の彼の柔和な印象からは想像もつかない内容に、思わず手で口元を覆った。
「あの男は何度も俺に脅しをかけてきていたんだ。でもそれに屈することはない。ラリサのことは誰にも傷つけさないし、渡さない。これは決定事項だから」
「あなたのことを信じる。だからお願い。協力させて」
外野としてこの件から爪弾きにされることだけは嫌だった。ゆえに私は彼の目論見に協力することを進言した。
◆
「国王陛下、ならびに王太子殿下に拝謁できましたこと、心より喜び申し上げます」
私の隣に立つテオドルスは仰々しく頭を下げた。玉座に腰掛けるのはラルクヘイヤ王。それだけだとまるで魔王討伐の祝賀パーティーを思い出させたが、あのときと異なるのは王太子エミールの存在、そして勇者テオドルスの隣に立つ私の存在だった。貴族の観客はいなかったが、幾人かの護衛らがこちらの様子を窺っている。
「して、謁見を申し出ると聞いたので予定を空けたのだ。我を呼び出すとは余程のことなのだろう」
国王は以前よりテオドルスに対して友好的であった。
だが今からする告発を思えば、その関係が壊れる可能性も否定できない。なにせ私たちが行おうとしているのは、王太子エミール──その人の告発だからだ。
(陛下は息子の罪を目の当たりにして、どう結論を出されるのかしら)
考えるだけで心臓が早鐘を打ち、緊張感に打ち震える。私は隣に佇むテオドルスの大きな手を握りしめ、顎を上げて彼らを注視した。
そしてテオドルスは語り出した。
「この隣にいる聖女ラリサの前の聖女。彼女の行方について……エミール王太子殿下にお伺いしたいことがあります」
テオドルスの語りに対し、エミールはというと飄々とした様子で優しげに微笑む。
「……なんでしょうか?」
「殿下は前代の聖女の行方をご存知ですよね?」
広間に静寂が流れた。
エミールは微笑みを崩すことなく、ゆっくりと首を横に振る。そして「なんのことだか」と苦笑し、肩をすくめた。
その様子を見て私は背筋が凍った。
あの姿が全て偽りで、内面の醜悪さを覆い隠す仮面なのだと事前に聞いていたからだ。
私は懐から一冊の本を取り出した。その様子を見ていた周囲の護衛たちは一瞬構える。なにか危険物を取り出さんとしている可能性を鑑みてのことだと悟り、王の護衛らの優秀さを実感させられた。
私はその本をテオドルスへと差し出す。彼はページをめくり、その端正な面持ちに悲痛を滲ませて言った。
「……これは先代聖女の日記になります。ラリサに頼み、教会本部より探してもらったものです」
その瞬間、口元に弧を描き続けていたエミールの表情が崩れた。それは驚愕といえばいいのか、はたまた好奇心からくるものなのか。
「この日記の書かれた最後のページは先代聖女が失踪したとされる日の前日になります。そしてその内容は──エミール王太子殿下にお会いするため宮殿へ赴くと記されています」
「……どういうことだ、エミール。勇者の述べた言葉まことか?」
国王はぴくりと眉を動かして告げる。その瞳には息子へと疑念と信頼が入り混ざっているように見えた。
当のエミールはというと、小さなため息をついた後あっけらかんと告げた。
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