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混乱の渦1
しおりを挟む「だ、旦那様! 奥様! 大変です!」
翌朝、ヘドヴィカは忙しく叩かれる部屋の扉の音で起こされた。扉の外からコリーの慌ただしい声が聞こえてくる。
「……っ! な、なに!? 朝からどうしたのよ……」
寝ぼけ眼で目を擦り、ベッドから身を起こす。
どうやらこんなにも騒がしく扉をノックされているのにも関わらず、ボジェクはいまだ夢の中だった。
(……騒音の中でも寝れるなんてこの人意外と図太いのかしら。ボジェクの面白いところまた発見しちゃったわ。……っと、そんなことより──)
ヘドヴィカは瞼を閉じたまま眠り続ける彼の身体を揺さぶった。
ゆっくりと目が開かれ、眩しそうに眉を寄せている。
けれど寝起きが悪いのか、再度眠りにつこうと瞼を閉じ始めてしまった。それを見て彼の耳元で「起きてください」と呟く。
意外と寝汚いところがあるのだということも、同衾するようになって初めて知った。
「おはようございます、旦那様」
急に起こされて訳がわからないといった様子のボジェクに朝の挨拶をすれば、彼も「……はよ」といつにも増して低い声で返答する。
まだ頭が働いていないボジェクの代わりにヘドヴィカは扉の外にいる人物を招き入れた。
「……入ってちょうだい」
急いで入室してきたコリーはす軽く挨拶を済ませると、すぐに本題へと移った。
「実は! 先ほどークマン伯爵家がお取り潰しになるとの伝令がありました! 御者も大慌てで……」
「なにっ、それは本当なのか!?」
衝撃的な報告で目が冴えたのか、ボジェクが誰よりも大きな声で反応を示した。
ヘドヴィカも驚愕に身を固め、困惑したように彼の方へと視線を移す。
コリーは慌てたように頷き、言葉を紡いだ。
「今朝、ベークマン公爵家から早馬がやってきて、伯爵家の現状をいち早く伝えてくださいました。きっと昼頃には王都中に広まっているはずです」
「くそっ、なんでこんなことが! ……用意だっ! 馬車の用意をしろっ! 俺も公爵家に言って状況を確認してくる!」
「わ、私も──」
ヘドヴィカも随行を申し出ようとするものの、ボジェクは寝台から降りながら頭を横に振って否定する。
「……だめだ。お前は昨晩の疲れが残ってるだろ。ここで待つんだ。……アダムの件もある。すべてが片付くまであまり屋敷から出ないで欲しいんだ」
「でも……」
「何があったかとわかんねぇ中で、お前を騒ぎに巻き込みたくないんだ。分かってくれ。……頼むよ、ヘドヴィカ」
希うように言われれば、ヘドヴィカも受け入れざるを得なかった。
そうこうするうちに、ボジェクは身支度を整えて馬車へと乗り込んでいく。後ろ姿を見送ったあとは屋敷にもどり、一人きりとなってしまった。
まるで置いて行かれたような切ない気持ちが押し寄せるも、それを押し込め、いつも通りの日常を過ごすことに決める。
とりあえず朝食を取り終え、自室に向かおうと廊下を歩いていれば──突如として玄関口が騒がしくなり始め。
(一体どうしたのかしら? もしかしてボジェクが帰ってきたのかしら? 忘れ物でもあった?)
疑念を抱き、気の赴くまま玄関口へと向かへば。
そこにいたのは──。
「……っ、ベ、ベークマン伯爵令息様」
「ヘドヴィカ嬢。突然の訪問申し訳ないね」
自身を殺しかけた男──アダム・ベークマンが当たり前のようにその場に立っていた。
どうやら別荘での出来事を知らない使用人たちが、アダムに言われるがまま屋敷へと上げてしまったようだった。
仕方がない。アダムもベークマンの一員で、使用人たちが逆らえるはずもないのだから。
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