【完結】君だけを愛してると告げてきた婚約者が浮気してたのでざまぁすることにした

椿かもめ

文字の大きさ
1 / 1

ヤリチンクソ野郎にざまぁする話

しおりを挟む




『ジュリエラレッタが……亡くなった……』


 その報告が届いたのは今朝だった。
 婚約者が亡くなっただなんて言葉を耳にしても、信じられるわけがなかった。


『パリースと無理に婚約させられそうになり、絶望して自ら毒を飲んだんだ』


 以前から親しくしていた神父の言葉であるはずなのに、信じられない。

 だからこそロミオンは真相を確かめるべく、霊廟まで赴いたのだ。

 ロミオンはようやくジュリエラレッタの葬られているという棺の前に辿り着く。

 悲壮な顔で膝をつき、そこにいるはずの亜麻色の髪をした女を覗き込もうとする。
 その途端、ロミオンは大きく息を飲んだ。それは驚愕からきたものだった。



「……は? え、おま…………ミヨ子?」



 周囲に可憐な花々を添えられて眠っていたのは、予想外の人物だった。
 黒髪直毛の女。
 ロミオンがよく知っている人間。

 ロミオンは別の意味で冷や汗をかきはじめる。
 混乱によって体が硬直していた。

 すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あーらあーら、どうしたのかしらねー」

「……え、あ……ジュ、ジュリエラレッタ!」

「どうもこんばんは。夜遅くにどうされたのかしら、ロミオン様?」

 ジュリエラレッタは片方の口角を上げ、膝をつくロミオンを見下ろす。
 ロミオンは安堵の息を吐き、ジュリエラレッタの手を取った。

「き、君生きてたんだね。よかったよ。心配したんだ」

「そうね、私はぴんぴんしているわ」

 ジュリエラレッタはさも当然のように言い放つ。
 ロミオンは疑問を抱いた。伺うように、上目遣いで視線を送る。

「な、なんで……君は嘘をついたのか? ……死んだって言われて心臓が止まるかと思ったよ」

「ええ、ごめんなさいね」

 ジュリエラレッタは相変わらず素っ気無い。

「あ、ああ。それより…………え、いや、なんでもない」

「あら? ロミオン様は、どうしてこの棺の中に別の女が入ってるのかって聞きたいんじゃなくて?」

「そ、それも気になるけど……ま、まあそれを考えるのはうちに帰ってからにしよう。うん。早く一緒のベッドで眠って、君が本当に生きるんだっていう証明をくれないか? 僕の心は狂う寸前だったんだよ……君を失ったかと思って」


 ロミオンは芝居掛かったような臭さで、ジュリエラレッタの手の甲に口付けた。
 ジュリエラレッタはそれをさっと引き抜く。

 彼女のこめかみがヒクついていることにロミオンは気がついていない。

「へーそうなの。……私はロミオンにとって特別な存在?」

「ああ! 勿論だとも!」

「私のことが唯一無二?」

「僕には君だけだ! 君がいれば……他の何もいらない」

 ロミオンがそう口にした途端、ジュリエラレッタは満面の笑みを浮かべた。 

 それと同時に、しらっとポケットから出したハンカチでロミオンの唇が触れた箇所を拭う。

 いつもなら可愛らしいと思うジュリエラレッタの笑顔も、霊廟の前では何故かそこはかとなく恐ろしいものに感じていたロミオン。
 知らぬ間に手に汗をかいており、口はからからに乾き始める。



(あれ? ぼ、僕なにか選択肢間違った?)


 ロミオンはぎこちなく口元に笑みを貼り付ける。
 すると、ジュリエラレッタがいきなり拍手をし始めた。

「な、なんだ!?」

「おめでとー!! ……はーい、もう起きていいよー」
 突然大きな声で叫び始めたジュリエラレッタにロミオンは目を白黒させる。

「……ん、ん? い、いきなりどうしたんだ」

「うっさい、あんたには言ってないわよ。ちょっとは黙ってなさいよ」

 そう言ってジュリエラレッタはロミオンの足を力強く踏んだ。
 革でできたロミオンの靴とは違い、木で作られたジュリエラレッタの靴は硬い。
 ロミオンは声なき悲鳴をあげる。

「ほら。おきなさいよ、ミヨ子!」

「……ぐすんっ……だ、だって…………」

 ロミオンは驚愕の表情を浮かべた。
 棺の中のミヨ子がのそりと体を起こしたのだ。
 彼女は滂沱の涙を流しながら、鼻をすすっている。

 そんな彼女のそばに歩いていったジュリエラレッタは、肩を抱き、慰めていた。  

 それは先ほど足を踏まれた痛みを忘れてしまうほどの衝撃的な光景だった。

「お、まえ……死んだんじゃ」

「ご覧の通り、生きてるわよー。ねー?」

 ジュリエラレッタは悪だくみが成功したかのように笑う。


「こんなに肌が青白いのは白粉をたーっくさんつけたからよ!」


 ロミオンは今までにないほど焦りを感じていた。
 
 ミヨ子とジュリエラレッタが親しい間柄であるということは──。

「ロ、ロミオン様ああ! ……ぐすんっ……あなた……わたしを……ずっとだ、騙してたんですか!?」

「え、えーっと。な、なにが……」

 ミヨ子の心からの叫びにロミオンは顔を笑顔のまま硬直させる。
 落ち着きなく視線を右往左往させた。

「私だけだって……わ、私のこと愛してるって……ぐすっ……言ってくれたじゃないですかっ」

「そ、そうだったかなー。あー、思い出せない……こともあるかもしれないし、ないかもしれないかもしれない」

 滅茶苦茶な言葉を吐き、誤魔化しを図ろうと画策するロミオン。
 右手を頭の後ろにまわし、視線を背けた。

 そんな男をジュリエラレッタはキリリと睨んだ。

「……あんたみたいな優柔不断な男って、結局最後には切られるのよねー」

 ジュリエラレッタは平坦な声色で続ける。

「ほんと怖いわー! 『僕には君だけだよ! キリッ』とか言いながら、他の女のこと考えているなんて。どんなず図太い神経してるのかしらー」

「ジュ、ジュリエラレッタ……」

「ああ、ただ単に馬鹿なだけなのかしらねー。あなたはどう思う、ミヨ子?」

「………………わ、分かんないです。けど、裏切ることは……最低、だと思います」

 涙を堪えているためか、声が震えているミヨ子。
 しかし、彼女の視線は真っ直ぐと標的の男のみを捉えていた。

 気の弱いミヨ子が怒気を纏ったところをみて、ロミオンは上ずった声を出す。

「み、ミヨ子……ち、違うんだ! 誤解だよ!」

「……っ誤解!? なにが違うっていうの!? 詳しく教えてよっ」

 抑えきれぬほどの憤怒の感情を溢れさせるミヨ子にロミオンは口ごもった。

 そこに、相変わらず場違いなほど能天気な声が響いた。

「はーい、ロミオンさん。なにが違うのか原稿用紙100枚以上にまとめて明日持ってきてくださーい。遅れたら、木靴で両足踏み踏みの刑に処すー。痛いぞー! 私が赤ペン先生だからなー」

 間延び声で面白おかしそうに笑うジュリエラレッタ。

 ロミオンはそんなふざけた様子の彼女の側により、両肩を掴んだ。場違いな怒りで顔は真っ赤だ。

「ど、どういうつもりだ! ジュリエラレッタ!君が僕を嵌めたのか!?」

「ピンポンピンポン! だいせーかい」

 ジュリエラレッタはそう言った後、「パッパラパーン」とトランペットを吹く真似をした。

 その様子を見て、ロミオンは愕然と肩を落とす。

「き、君と僕は…………しそ……あいの仲だったじゃないか」

「……ん?声が小さくてよく聞こえなかったので、もう一度お願いします」

「だっ、だから……そう…………うあ……の仲だったじゃないかって」

「だから聞こえないって。男なんだからもっと腹から声を出しやがれ」

 ジュリエラレッタは無表情で淡々と言葉を紡ぐ。

「き、君と僕は相思相愛の仲だったじゃないか!って………………あ」

「はい、自滅ご苦労様でした」

 ジュリエラレッタはにっこりと笑う。


 そう、この言葉を待っていたのだ。


 ミヨ子に対し愛の言葉を囁いたという証言の後、ジュリエラレッタに対し男女の関係にあったのだとロミオン自身の口から言質を取る。
 これは必要なことだった。

「なんとなく誤魔化そうと頑張っていたみたいだけど、そうもいかないよねー」

「そ、それは……」

「ねえ、あのさ。最近、私の中であんたのことなんて呼んでるから知ってる? ──妖怪下半身。こう呼ぶのがマイブームなの」

「ぐっ」

 ロミオンは顔をしかめる。

「私たちだけじゃなく、領地の女の子たちにまで手をつけて…………なにが次期当主さまよ」

「うっ」

「あんたってもしかして、下半身から生まれてきたんじゃないの? あー、いやいや汚らわしい!」

 ジュリエラレッタは眉をしかめ、気分が悪そうにベーっと舌を出した。

「それじゃ、計画通りに。……はーいカメラさーん、音声さーんを出てきてー」

「は、はい?」

 二度目のジュリエラレッタの叫び声に呆然とするロミオン。
 物陰からのそのそと出てくる人間が二人。

「Wドッキリ大成功ーってね」

 ジュリエラレッタの言っている意味を理解し、ロミオンは顔を青ざめさせる。

「そうそうWドッキリっていうのは、私じゃなくてミヨ子が棺の中にいたってのと、実はこっそり撮影してたってことね。あ、ちなみにLIVE配信中だから。画面に向かってピースピース!」

 ジュリエラレッタは心底楽しげにカメラに向かって人差し指と中指を立てる。

「LIVE映像ってことは……」

「ザッツライッ! 実はこの全ての会話、ギャビュレッド領にもモンタキュー領にも今この時この瞬間、流れ続けているのでしたー!」

 ジュリエラレッタはニコニコと笑いながら、残酷な真実を告げる。
 対してロミオンは自失呆然とすることしか出来なかった。

 金髪碧眼美男子の若々しかった雰囲気は今やもう見る影もない。


(モンタキュー領の女の子たち全員にバレてしまったのか……エリカにマイラにモリ子たちにも……。一体これから僕はどこで女の子と触れ合えばいいんだ!)


 反省すらしていないロミオンの傍らで、ジュリエラレッタは撮影スタッフたちと話を交わしている。

 カメラを持った男は首にかけたタオルで汗を拭きながら、涼やかな笑顔で白い歯を見せた。

「いやー、今日はいい映像が撮れましたよ! これなら視聴率も90%はとれてるはずです! 本当にありがとうございます、ジュリエラレッタ様!」

「いいえ、こちらこそお礼が言いたいわ。……ロミオンの醜悪な女好きを一緒になって暴いてくれて。どうもありがとう」

「そんな、畏まらないでください。番組にはきちんとジュリエラレッタ様プロデュースと載せておきますね。……っと、俺たちはそろそろ撤収して視聴率確認するぞ! ゴーゴーゴー!」


 そう言って、カメラとマイクをそれぞれ持った男たちは去っていく。
 ミヨ子は一度もロミオンを見ることなく、二人の男の後を追った。

 霊廟にはロミオンとジュリエラレッタの二人。

 ジュリエラレッタはほかに誰もいなくなったためか、ひどく気が抜けているようだった。
 その様子はまるで、心の傷がまだ言えていない乙女のようで──。

 聞こえるか、聞こえないか。
 それほど細い声でジュリエラレッタは呟いた。





「ああ、ロミオン…………あなたはどうしてそんなんだったの?」





 ジュリエラレッタはじっとロミオンを見つめたあと、一切振り返ることなく去っていく。

 ロミオンは一度もジュリエラレッタの方に視線を向けることができなかった。


 しばらくしてロミオンは猫背気味に棺に近づき、その中に入った。
 ミヨ子と同様に寝転ぶが、その拍子に置かれていた花が鼻の穴に入る。
 それを退け、大きくため息をついた後、まぶたを閉じた。





「ああ、もう嫌だ……このままいっそ毒をあおって永遠に眠りたい」





 ロミオンの細い声が霊廟に響き渡っていた。


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

聖女を無能と罵って婚約破棄を宣言した王太子は追放されてしまいました

もるだ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ! 国から出ていけ!」 王命により怪我人へのお祈りを続けていた聖女カリンを罵ったのは、王太子のヒューズだった。若くて可愛い聖女と結婚するつもりらしい。 だが、ヒューズの暴挙に怒った国王は、カリンではなく息子の王太子を追放することにした。

聖女の妹によって家を追い出された私が真の聖女でした

天宮有
恋愛
 グーリサ伯爵家から聖女が選ばれることになり、長女の私エステルより妹ザリカの方が優秀だった。  聖女がザリカに決まり、私は家から追い出されてしまう。  その後、追い出された私の元に、他国の王子マグリスがやって来る。  マグリスの話を聞くと私が真の聖女で、これからザリカの力は消えていくようだ。

婚約破棄ですか?あなたは誰に向かって口をきいているのですか!?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、マリアンヌ・バークレーは王宮の誕生日パーティーでいきなり婚約破棄を言い渡された。は!?婚約破棄ですか?あなたは誰ですの?誰にモノを言っているのですか?頭大丈夫ですか?

妹が婚約者を奪いました。後悔してももう遅いですよ?

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のセラは妹のニエルに自分の婚約者であるオルテガを奪われた。 悲しみに暮れるセラだったが優しい幼馴染の王子に助けられる。 さらに妹たちへの制裁も開始されることになり……。

いざ離婚!と思ったらそもそも結婚していなかったですって!

ゆるぽ
恋愛
3年間夫婦としての実態が無ければ離婚できる国でようやく離婚できることになったフランシア。離婚手続きのために教会を訪れたところ、婚姻届けが提出されていなかったことを知る。そもそも結婚していなかったことで最低だった夫に復讐できることがわかって…/短めでさくっと読めるざまぁ物を目指してみました。

良い家の出の婚約者ができて勘違いし私をやたらと見下してきていた姉がいましたが、彼女は捨てられた途端自滅してゆきました。

四季
恋愛
良い家の出の婚約者ができて勘違いし私をやたらと見下してきていた姉がいましたが……

婚約者の元恋人が復縁を望んでいるので、婚約破棄してお返しします。

coco
恋愛
「彼を返して!」 婚約者の元恋人は、復縁を望んでいる様だ。 彼も、まんざらではないらしい。 そういうことなら、婚約破棄してお返ししますね。 でも、後から要らないと言うのは無しですから。 あなたは、どんな彼でも愛せるんでしょ─?

「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。 その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。 自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……

処理中です...