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4.ゆめうつつ
小鳥がさえずっている。ぼんやりとした頭に響く。身体は重く怠い。結果から言うと、眠れなかった。
あれから庭を散策して、風が出てきたので屋敷に戻って、眠気が少し落ち着いたので読書をして、夜にはリアにハーブティを淹れてもらって、身体をあたためて、ベッドに入ると、やはりあの記憶が僕を邪魔した。
あれはジゼルの最大限悪手をとった結果で、今の僕には関係ない。兄上にも。頭では分かっているのに、ぐちゃぐちゃの記憶で夜通し、あの、最低最悪の道を辿ったお兄様に犯されていた。
「あら、ハーブティ。効きませんでした?」
「ああ……いや、少しは眠れた、ありがとう。」
昨日よりひどい。一睡もできなかった。鏡の中の自分は、目の下に隈を濃くして昨日よりさらに顔色が悪い。
「悪い……朝食、いらないって言っておいてくれ……。」
このまま少し眠る、と伝えて、ベッドに逆戻りする。自分の体温で温まった部分に丸くなり、少しは眠れるかと目を瞑る。明るい朝の空気の中では、あの記憶が蘇りにくい。
「それはいいのですが……あとで何か部屋に持ってきましょう。」
「ん……。」
今日は予定すべてキャンセルだ。このままずっと眠れないではいられないし……うつろう思考はぼんやりと薄まっていく。
少しあついくらいに温まった布団の中で目が覚める。潜っていた顔を外に出すと気持ちがいい。枕の触れていなかった部分に頬をつけて、しばしまどろむ。午前中に寝るってどうだ。だめか。日の出日の入りとともにあるこの生活のなかで一人だけこんなことはしていられない。でもだって夜はもうだめだ。夜も火を灯し明るくしておくか?魔法を使えばその分消耗して眠れるかもしれない。いや、現実的ではないことは分かっている。
うつ伏せになって枕を抱く。少し寝たら頭もすっきりしてきたが、ベッドから離れ難い。もう少し寝てもいいだろうか。お父様やお母様、……兄上にも、きっと心配をかけている。
「おきなきゃな……。」
「せっかく眠れたんだ、しばらく身体を休めるといい。」
びく!と身体が強ばる。振り返るとベッドの傍らに、兄上が一人がけのソファを置いて座っていた。
「あにうえ、」
「驚かせてしまったな。」
「いえ……。」
心臓に悪い。慌ててむくりと起き上がる。
「ああ、いや、そのままで。」
様子を見に来ただけだ、と続けて、立ち上がって僕を寝かしつける。
「すみません、心配をかけて。」
「少し眠れたならよかった、今日はしっかり休むといい。」
もう一度すみませんと口にして、かけ布団を鼻の辺りまで上げる。
「私のことは気にしなくていいから、目を閉じていなさい。」
気にするなと言われても。そう思いながら従う。瞼を閉じると、ゆったりとした眠気が引き返してくる。もう一眠りしたら、少し動こう。夜に眠られるように。
「おやすみ、ジゼル。」
遠くにその言葉を聞いて、ジゼル、ジゼル。そう、兄上が僕を呼ぶ時の、優しい声音。じりじりと復讐心で焦げ付いたあの声じゃないのが分かる。身体を焚き付ける欲は、嫌な感覚は、どこかへ霧散していく。
ふわふわと頼りない夢を見る。夢だと気付きそうな、そうでないような。確固たる足場がなくて、なにかにしがみつく。あたたかい。ここは大丈夫。
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