生意気令息ジゼルくんは幸せ(になりたい)。

西日すがめ

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15.暗い部屋の中で



「起きたか。」
 兄様の声がする。どうして。なにを誤った?まだなにも起こっていないはず。それでも悪意を感じるほどに執拗な拘束と、この兄様の暗い寝室で、嫌でも、これが、最後だと分かる。
「兄様……どうしてこんな、」
「どうして?」
 兄様は僕の言葉を繰り返して、見えない表情で多分、笑った。
「どうしてだろうなぁ?」
 兄様にもどうしようもないことなのかもしれない。僕がどうやったってお兄様が、兄上が、兄様が、僕を犯す。それは、兄様がどうやったって、ということにも置き換えられる。逃れられないのか、この世界の決まりごとから。
「兄様はこんなこと、したくない、ですよね、」
 兄様は、僕の身体を暴くことなど、したいとは微塵も思っていないはずだ。いなかったはず。だって僕に与えられていたのはこんな暗い部屋で行われるようなことではなくて。
「こんなこと、とはどんなことだ?」
 六歳のジゼルは知っているか?これがどんなことか。急に、試されているような気になる。早熟だったけど、さすがに知らないかもしれない。変な格好で縛られていること、下半身が露出させられていることをどう思うか?頭が上手く回らなくて、全然考えつかない。
「……こんな、僕をいじめる、ような。」
 言葉を選んで呟く。兄様がゆっくりとベッドに上がってくる。逃げ場のない僕は少しでも脚を閉じようと奮闘するけど、ベルトを通されたおしりの方が痛くなるだけだった。
「いじめる!そうだな、こんな、いじめるようなことは、よくないな。」
 お兄様とは違う怖さがある。あくまで口調は優しい。ベッドの上を近付いてくるその人から、離れることもできずただ緊張して身体をよじる。
「なあ、ジゼル?私の他にお前をいじめた奴はいないか?」
 質問の意図が分からなくて首を横に振る。いじめられた記憶はない。どちらかというと原作のジゼルはいじめっ子気質だった。……いや、僕はいじめとかしないけど。とにかく、いじめの被害も加害も経験が……お兄様には随分と酷くいじめられたが。
「そうか……。」
 兄様がなにかを考えている。分からない。分からなくて怖い。だってさっきまで優し、かった、のに。今度こそ僕はあんなことにならないと思ってたのに。
「質問を変えよう。ジゼル、恋をしていると言ったな?」
「あっ……、」
なるほど、言ってしまったのだ、それでか。僕が恋をしていると言ったから……ん?いや、そうだとしても兄上の婚約者候補はまだうちに来ていないのだ。とったとられたの話ではない。……もしくは、あの誕生パーティか?
「あの、あの、兄様、誤解です」
「誤解?」
「誕生パーティで会った人ではないのです、だから」
「誕生パーティで、会った人では、ない。」
 兄様の顔が更に曇る。どうして。誕生パーティで会った令嬢は、今後兄様の婚約者になる可能性の高い人達だった。その中の一人にでも恋をしたなら、不安になるのかもしれない。
「だから、大丈夫です。僕の好きな人は……も、もう、会えない、人なので……、」
 ぐ、と顔に力が入る。もう会えない。こんな状況になってもそれより兄上の不在が僕は悲しかった。兄様が定石どおり僕を犯したとして、それは嫌な話、慣れてしまったのでそこまで痛手ではない。……いや、少し、……かなり、嫌、だ。
「もう会えない?」
「はい、だから、大丈夫です、」
 眉間に皺をぎゅっと寄せて力を入れたのに、ぼろ、と涙が零れた。兄上。どうして。どうして僕はあんな少しの、ただ期間にしてしまえば短い間、少し懐いた、そして、僕を犯したような人を、こんなにも愛してしまっているのだろう。どうして同じ顔をして同じ身体で僕を抱き締め、同じ魔法を使う、目の前の人ではいけないのだろう。
「なにが大丈夫なのだ。」
 ず、と鼻を啜ると、兄様が拭ってくれる。こういうところは優しいままなのか。手足を拘束しておいてちぐはぐだ。
「兄様の邪魔になるようなことはしません。」
 兄様は少し考えて、覚悟を決めたように僕と目を合わせた。琥珀色の瞳。何度も見た、闇に輝くそれ。
「率直に聞こう。恋をしている相手とは誰だ。」
 僕の言っていることでは不確かで、信用ならないのだろう。そう考えてから、どうにも説明できない相手に恋をしていると、今更になって気が付いた。
「言えません。」
 言えない。なんと説明したって意味が分からないだろう。実は人生を二度やり直していて、その二度目のやり直しで出会った兄上に恋をしているんです。頭がおかしくなったとしか思えない。
「言えない、か……。私は……いい兄になろうと、思っていたんだがな。」
 兄様が僕の腰を抱いて引き寄せる。そのまま寝間着の前をはだけさせ、胸に口付けを落とす。
「兄様……、」
 やわらかい唇が吸い付くと、兄上にそうされた時を思い出す。何度も何度も、胸に唇が触れ、少し食んで、離れていく。
「いやです、……いや……、」
 今まで否応なしにそうされてきた。それなのに、もうだめだった。ぼろぼろと涙が頬を伝う。兄上。兄上じゃなきゃ嫌だ。
「兄上、兄上……!」
 触れられる度に兄上の顔が浮かんでしゃくり上げる。兄上!兄上がいい、兄上……、兄上。
「お前の兄上は私だろう!」
 兄様が僕の目を見つめる。これまでずっと、兄様は僕に対して、兄として、大きな愛を、注いでくれたはず。そのはず、なのに、どうして、まるで僕を渇望するような、真っ直ぐな目で僕を見る。そんな顔をされると、まるで僕を夜通し犯したあの日の、
「兄上、……?」
 兄様の表情が兄上と重なる。そりゃ同じ人間なのだ。重なるはずだ。でも、だって、
「そうだな?兄上だな?私が!」
 ほとんど泣いているような声だった。どうして。だって兄上じゃなくて、兄様で、僕は、
「ジゼル……」
 その声。僕を呼ぶ熱の篭った、祈るような声。僕を犯すくせにまるで神様を呼ぶみたいに呼ぶんだ。ぱちん、と、合わせたはずなのにどこかずれていた視線が、はっきりと、噛み合う。
「兄上……!」
 少ししか触れられていない身体がそれだけで悦ぶ。兄上!兄上、兄上!体温が上がって涙が溢れる。兄上が僕の顔を拭って、キスをする。本当に?なんで?すべて聞きたいのに、兄上が僕をかき抱いて、そのまま、ただ、抱き締められためままでいたくて、僕はこの夜が終わってしまわないように、慎重に息を吐いた。

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