生意気令息ジゼルくんは幸せ(になりたい)。

西日すがめ

文字の大きさ
16 / 22

16.答え合わせ




 お互いの呼吸しか聞こえない静かな部屋の中、すこしでも動いたらこの夜が終わってしまう気がして、兄上に抱かれた僕は息を潜めていた。
 同時に、歓びに溢れてもいた。兄上に会えた。いや、ずっと兄様としていたはずのこの人が、兄上だったと分かったのだ。そんなのは当たり前なのに、顔も姿形も同じのこの兄様を、今の今まで、僕は兄上とは違う人間だと確信していた。それがどうしてか、知りたかった。兄上が、僕の言う兄上だと、どうして分かるのか。僕が生まれ変わり、やり直しをしていたように、兄上も同じ道を辿っていたのか。
「ジゼル……。」
 空気を揺らさないように、ひっそりとそうするみたいに、兄上は僕を呼んだ。僕は返事をしたかったが、上手く声が出なくて、しゃくりあげた。
「ああ……、ジゼル……。」
 一度そうすると滔々と涙が溢れてきてしまって、苦しくなりながら、必死で何回にも分けて息を吸った。兄上は僕の腕の拘束を外して、それから、脚も自由にして、ベッドの上に投げられていたズボンを穿かせてくれた。
 それから、ベッドの上で向き合って座って、僕の両手を、兄上の両手が包む。
「……すまない、動転して、……お前があの家庭教師に恋を……と思ってしまって、」
「先生に!?ないです、ないない!」
「……しかし、身分違いの恋だのと、」
「あ、……身分違い、ああ、確かに……。」
「聞いておくが私以外の人間を兄上と呼び慕っているということはないな?」
 ぶんぶんと首を横に振る。急に顔を寄せられてびっくりした。ぎらりと暗闇に光った目は、夜に狩りをする猛禽類みたいだ。
「……身分違いというより、恋をしてはいけない、相手に……というのに、共感しただけで……。」
 兄上の手のひらが少しだけ熱くなる。
「聞いてもいいか?ジゼル……。」
 苦しいくらいに胸が鼓動を打っている。祈るみたいに頭を垂れて兄上は、僕の言葉を待っている。
「……兄上のことです。」
 ぎゅ、と、優しく包まれていただけの手が、強く握られる。手、が、あつい。兄上の方を見上げると、眉間にぐっと力をいれて涙がこぼれないようにしていた。
「すまない……、すまない、私のせいで……。」
「兄上のせいではありません。」
「いいや、……私のせいなんだ。」
 話を聞いてくれるか?と言って、兄上は掛け布団を持ち上げる。寝転んだ兄上に促されるまま隣に転がり、兄上は片腕で僕の頭を抱く。
「少し明るくしようか。」
 兄上がそう言って、口の中で呪文を唱えると、いつもの暖かい、明るい、まるで夜じゃないような部屋になった。安心する部屋。僕が終わりの日に焦がれた部屋。
「兄上の光魔法、いつ見てもすごいです。」
 通常なら、魔力を固めた一つの光源を作るのだ。だから、照明を点したようになる。兄上の魔法は、その光源が見えない。部屋全体が明るくなる。自分の属性以外の魔法について勉強してから、より尊敬の念が高まった。
「ああ……それについても説明しなくてはな。」
「説明?」
「これは光魔法ではない。」
「え?じゃあ……、」
 どうして光を扱えるのか。少し魔法を学んだとはいえまだまだ六歳の付け焼き刃だ。分からないことは多い。
「私が扱うのは……時魔法だ。」
「時魔法……。」
 時間を操る魔法。……と聞くと強そうな魔法だが、その範囲や効果はまちまちで、どちらかというと時属性はあまり強くない、というイメージがある。
 巻き戻すと言っても数分とか、未来には行けても過去に戻れないとか、人の生死に関わる巻き戻しはできないとか。
「これは光を灯しているわけではなくて、この部屋だけ昼に巻き戻しているんだ。」
「えっ!」
 そんな複雑な魔法聞いたことない。それを寝ている間も持続させていた?とんでもない魔力消費じゃないのか。
「驚いているな、よく魔法を勉強している。」
「いえ、……その、でも、こんなの見たことがないです、」
「そうだ、見たことがないだろう。時魔法というのはあまりパッとしないからな、私は独自に利用方法を考えて、普段は光魔法を使うと思わせている。」
「確かにその方が、周りは持て囃します。」
 光魔法は人気だ。これだけ扱えるなら光魔法と偽って時魔法を使っていても違和感ないだろう。
「この時魔法で、私は……人生をやり直していたんだ。」
 僕の生まれ変わりではなく、兄上のやり直しで、僕が何度も生まれていたのか。
「それは……僕のせいですか。」
 ジゼルが婚約者候補を寝取ったから。
「……そうだな、すべては、ジゼルが発端と言っていい。ただこれは、私が犯した罪だ。」



感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。 貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。 一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。 そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。   ・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め ・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。 ・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。 ・CP固定・ご都合主義・ハピエン ・他サイト掲載予定あり

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫です。 ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!