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16.答え合わせ
お互いの呼吸しか聞こえない静かな部屋の中、すこしでも動いたらこの夜が終わってしまう気がして、兄上に抱かれた僕は息を潜めていた。
同時に、歓びに溢れてもいた。兄上に会えた。いや、ずっと兄様としていたはずのこの人が、兄上だったと分かったのだ。そんなのは当たり前なのに、顔も姿形も同じのこの兄様を、今の今まで、僕は兄上とは違う人間だと確信していた。それがどうしてか、知りたかった。兄上が、僕の言う兄上だと、どうして分かるのか。僕が生まれ変わり、やり直しをしていたように、兄上も同じ道を辿っていたのか。
「ジゼル……。」
空気を揺らさないように、ひっそりとそうするみたいに、兄上は僕を呼んだ。僕は返事をしたかったが、上手く声が出なくて、しゃくりあげた。
「ああ……、ジゼル……。」
一度そうすると滔々と涙が溢れてきてしまって、苦しくなりながら、必死で何回にも分けて息を吸った。兄上は僕の腕の拘束を外して、それから、脚も自由にして、ベッドの上に投げられていたズボンを穿かせてくれた。
それから、ベッドの上で向き合って座って、僕の両手を、兄上の両手が包む。
「……すまない、動転して、……お前があの家庭教師に恋を……と思ってしまって、」
「先生に!?ないです、ないない!」
「……しかし、身分違いの恋だのと、」
「あ、……身分違い、ああ、確かに……。」
「聞いておくが私以外の人間を兄上と呼び慕っているということはないな?」
ぶんぶんと首を横に振る。急に顔を寄せられてびっくりした。ぎらりと暗闇に光った目は、夜に狩りをする猛禽類みたいだ。
「……身分違いというより、恋をしてはいけない、相手に……というのに、共感しただけで……。」
兄上の手のひらが少しだけ熱くなる。
「聞いてもいいか?ジゼル……。」
苦しいくらいに胸が鼓動を打っている。祈るみたいに頭を垂れて兄上は、僕の言葉を待っている。
「……兄上のことです。」
ぎゅ、と、優しく包まれていただけの手が、強く握られる。手、が、あつい。兄上の方を見上げると、眉間にぐっと力をいれて涙がこぼれないようにしていた。
「すまない……、すまない、私のせいで……。」
「兄上のせいではありません。」
「いいや、……私のせいなんだ。」
話を聞いてくれるか?と言って、兄上は掛け布団を持ち上げる。寝転んだ兄上に促されるまま隣に転がり、兄上は片腕で僕の頭を抱く。
「少し明るくしようか。」
兄上がそう言って、口の中で呪文を唱えると、いつもの暖かい、明るい、まるで夜じゃないような部屋になった。安心する部屋。僕が終わりの日に焦がれた部屋。
「兄上の光魔法、いつ見てもすごいです。」
通常なら、魔力を固めた一つの光源を作るのだ。だから、照明を点したようになる。兄上の魔法は、その光源が見えない。部屋全体が明るくなる。自分の属性以外の魔法について勉強してから、より尊敬の念が高まった。
「ああ……それについても説明しなくてはな。」
「説明?」
「これは光魔法ではない。」
「え?じゃあ……、」
どうして光を扱えるのか。少し魔法を学んだとはいえまだまだ六歳の付け焼き刃だ。分からないことは多い。
「私が扱うのは……時魔法だ。」
「時魔法……。」
時間を操る魔法。……と聞くと強そうな魔法だが、その範囲や効果はまちまちで、どちらかというと時属性はあまり強くない、というイメージがある。
巻き戻すと言っても数分とか、未来には行けても過去に戻れないとか、人の生死に関わる巻き戻しはできないとか。
「これは光を灯しているわけではなくて、この部屋だけ昼に巻き戻しているんだ。」
「えっ!」
そんな複雑な魔法聞いたことない。それを寝ている間も持続させていた?とんでもない魔力消費じゃないのか。
「驚いているな、よく魔法を勉強している。」
「いえ、……その、でも、こんなの見たことがないです、」
「そうだ、見たことがないだろう。時魔法というのはあまりパッとしないからな、私は独自に利用方法を考えて、普段は光魔法を使うと思わせている。」
「確かにその方が、周りは持て囃します。」
光魔法は人気だ。これだけ扱えるなら光魔法と偽って時魔法を使っていても違和感ないだろう。
「この時魔法で、私は……人生をやり直していたんだ。」
僕の生まれ変わりではなく、兄上のやり直しで、僕が何度も生まれていたのか。
「それは……僕のせいですか。」
ジゼルが婚約者候補を寝取ったから。
「……そうだな、すべては、ジゼルが発端と言っていい。ただこれは、私が犯した罪だ。」
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もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。
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感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!