近くて遠い距離。

赤いだるま

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イチゴは恋の味

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わたしは、イチゴが大好きだ。
パクって一口食べただけでも
甘みが口の中で広がる。

お母さんは、イチゴは恋の味なんだよ。
なんて言っていたけれど
わたしには、そんな比喩みたいな表現が
よく分からなかった。

初恋…っていつだっけ?
小学生か中学生の頃かな。

ある日の夕方、ケーキ屋のおばさんが、  
初恋の人とわたしに
大きなイチゴのショートケーキをくれた。

夕方の、少し肌寒い季節だったかな。

公園のベンチに座って二人で食べた。
美味しいねって二人で笑いあっていた。

モミジのじゅうたんにイチゴっていう
季節外れなことをしているのに
なんだか楽しかった。

それからかな、イチゴが美味しく感じるのは。

甘くて優しくてとろけて、
口の中を包み込むような舌触り。

美味しい、っていう一言では表現できないほど
満たされた感覚になる。

今日は初恋の人と、久しぶりに一緒に
イチゴのショートケーキを食べた。
 
「イチゴのショートケーキか…懐かしいな。」
初恋の人は、そう言ってわたしを見る。

「ええ。
だって今日は特別な日ですもの。」
わたしは、少し笑ってケーキを一口食べた。

「……俺たち二人の結婚記念日だからな。」
初恋の人もケーキを一口食べる。

「ねぇ、あなた。」
わたしは彼の目をじぃーっと見つめた。

「ん?どうした?」
 ケーキをもう一口食べて、言った。

「私と結婚してくれて…ありがとう。」

彼は不意をつかれたような顔をしたけど、
「こちらこそ、ありがとう。」
そう言って照れくさそうに笑った。

その夜、本当の苺の甘さを知った。
唇にそっと触れた二人の苺が溶け合うのを
私はゆっくりと味わった。
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