150 / 190
上弦の章 帝国内乱
2a 過ち(ストーリー分岐)
しおりを挟む
この選択が決定する頃には、既にパンドラの棺が接近していた。
俺は喉を痛めるほどの絶叫で叫ぶ。
「『白夜の箱庭ッッッッッ!』」
すると、世界は白く塗り固められ、全ての物が硬直する。
パンドラや持ち上げられた棺、化け猫も例外無く彫刻のようになった。
「とうとう自発的に使いましたね」
俺の隣にはこの白い空間の自称管理者、ノアが立っている。
「………………………」
無言に対して彼女は何やら悲しそうな視線を向け、しゃがんで目を閉じると俺の肩に手を置いた。
体が溶けるような錯覚に陥る。
「また会えて嬉しいですよ、アベル」
「ついこの間会ったばかりだろう?」
「でも、嬉しいんですよ。あなたの選択はいつも死と隣り合わせ。場合によってはそのままあの世行きなんですから」
肩に置かれていた手をゆっくり離すと、彼女は俺に背を向ける。
この違和感はなんだろうか。
「どうしたんだよノア。今日のお前はなんだかお前らしくない」
「何を根拠にそう言えるのですか?」
寂しそうな声を発した。
「俺はこれからの打開策を練る上で、この空間を発動した。我ながら浅ましい考えだが、何かに導きたいノアなら助言の一つでもくれると思ってな」
俺の考えとしては、この状況でパンドラを殺害できるかどうかで動き方は変わる。
「本当に浅ましいですね」
失笑するノア。
「でも、お前の声を聞いた途端に違和感を感じた。なんでそんな悲しそうなんだ?」
すると彼女は黙り、こちらに振り返る。
「………………………」
「………………………」
一時の静寂。
先に口を開いたのはノアだった。
「選択を誤ったんですよ………………」
「は?」
「あなたは目の前の女の子に力押しで負け、だったらこの空間で自分以外を硬直させてから殺害するのが最善の策だと思ったんでしょうけどね………………………」
赤い涙を流し、俺の肩を爪が立つほど荒く掴む。
「例え今、あなたがこの空間内でそこの彼女の事を殺害しようとしても無理なんですよ………」
そしてこちらを指差す。
「白夜の箱庭はあなたの精神のみをこちらに移しているに過ぎない。あなたがいくらここで行動しようと、現実には反映されないんですよ」
その言葉に俺はある種の矛盾を感じた。
「ちょっと待てよ。じゃあおま…………………」
「時間ですね……………………」
俺の言葉はノアに届く前に遮られる。
彼女の体が透けていくと共に、世界が色彩を取り戻し始めた。
「なんでだ…………。ここは一定時間発動し続けるはずだ。前よりも短い……………」
「あなたは過ちを犯しました」
食い込んできた爪が肩から血を流れさせる。
「この空間は万能じゃない。むしろ相手によって効果時間は減少したりするんですよ」
色が徐々に戻りつつ、
「経験したあなたなら分かるでしょう?」
白夜の箱庭に亀裂が入った。
そして次の瞬間、
「♪」
何かを無理矢理潰したような音が聞こえた気がした。
✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖
数ヶ月後。
「う、嘘だ……………………………………」
帝国を守るべく帝都からある程度近いディオストル城より5000ほどの軍勢で出陣したが、全滅して敗走したところを捕らえられた常備軍の老齢指揮官が狼狽する。
「貴様らは極秘戦争で死んだはずだっ! 私は貴様の焼死体を目の前で確認した! 鎌を持ったそこの連れも追い立て、氷海に身を投げた所も見届けた!! 何故今も生きているっ!? 虐殺を繰り返した化物共が!」
「ふぅん♪ 君はあの時の当事者の1人かぁ♪」
敗軍の将は蹴り飛ばされる。
その威力は凄まじく、顎の骨が粉々に砕けた。
「でも残念♪ あの時君達が確認したのって、アタシに似た別物なんだよねぇ♪ そう、見た目も背もまるで同じの肉人形♪」
手足を縛られていた為、ゴロゴロと転がっていく。
その先に鎌を持った男が佇んでいた。
「それに君達は虐殺って言うけどさぁ♪ アタシ達は君達みたいに見境なく民族ごと根絶やしにするとかはしてないんだよ♪ 数で言ったら君達の方が歴史で何百倍も上だもん♪」
「ァァ…………………………」
枯れたような声を発する少年はフードを被っていた。
仰向けにされた将は、顎を壊されうまく喋ることも出来なくなっていたが、それを見たときに驚愕する。
(死んでいる…………………………)
隠れていた目元を覗いた所、瞳が無かったのだ。
そんな骸が目の前の少女に操られている。
「君達帝国上層部で言う極秘戦争でアタシの能力は知ってるでしょ♪ でもね、彼はただ死んだんじゃないの♪ 白い布が黒く染まるように、君達俗物のせいで穢れちゃったのをアタシがキレイにしたんだ♪ そう、今の彼は純白なの♪」
とても嬉しそうにあどけない笑みを浮かべながら、少女は話す。
「夜だってすごいんだよ♪ 彼、激しいのっ♪♪」
その言葉に老将は吐き気を催す。
(死体と寝たのか!? 犬畜生でもそのような事はしないぞ!!)
「愛だよ♪」
聞こえないはずの声に相槌をした少女の言葉と共に、男の鎌が老将の首を跳ね飛ばす。
絞められた鶏の血抜きのように、残された体から血が流れ落ちた。
少女は微笑む。
「ツミ……ニ…ワ………バツ…………ヲ………………」
彼女にとって頼もしい彼の行いに感動した。
「あぁ♪ やっぱりカインはカインだぁ♪ そこに転がる汚物なんかとは比べ物にならないよぉ♪」
それに対して特に返事はなかったが、少女は帝都の方角に視線を向け、話を続ける。
「これでアタシ達の夢がもうすぐ叶う♪ 前は教団だけでなんとかしようとエラスムスは頑張ってたなぁ♪ 結果的に負けたけど今度は違う♪ 異民族とか場末の少数民族とか異種族のおかげで帝国の戦力を分散させたのが当たりだったね♪ 潰し合いをしてくれるのは大助かり♪」
彼女と少年の後ろには大量の屍が列を組んでいた。
「君とアタシが殺して、血と魂と死体をそれぞれの技法の対価に無駄なく使えるように考案したエラスムスはすごいね♪ ドロシーと君が組んでた時より効率が良い♪ これで帝国の毒に対して、元毒で相殺できるよ♪」
両手を頬に当て、皮膚を赤く染めた。
「じゃあ、行こうか♪」
彼女の集団は帝都に向けて動き出す。
「ベルギウス帝国とヴァルト家の滅亡の為に♪ そして女神ダリアを蘇らせて、神の名のもとに平等な世界を築く為に♪♪♪」
教団の悲願と少女の私的感情が織り交ぜられた夢の人柱として……………。
「ね、カイン♪♪♪♪」
笑顔を貼り付けた少女は少年の手を引いた。
「また………………救えなかった……………」
🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓
上弦の章
badエンド 過ち
※パンドラさんはガチでやばい存在ですが、彼女も過去に色々ありました。あの家での出来事が彼女を狂わせた主な要因ですので、それは後々書いていきます。
それと、ルート選択後なので次回も少し遅れるかもしれません。
俺は喉を痛めるほどの絶叫で叫ぶ。
「『白夜の箱庭ッッッッッ!』」
すると、世界は白く塗り固められ、全ての物が硬直する。
パンドラや持ち上げられた棺、化け猫も例外無く彫刻のようになった。
「とうとう自発的に使いましたね」
俺の隣にはこの白い空間の自称管理者、ノアが立っている。
「………………………」
無言に対して彼女は何やら悲しそうな視線を向け、しゃがんで目を閉じると俺の肩に手を置いた。
体が溶けるような錯覚に陥る。
「また会えて嬉しいですよ、アベル」
「ついこの間会ったばかりだろう?」
「でも、嬉しいんですよ。あなたの選択はいつも死と隣り合わせ。場合によってはそのままあの世行きなんですから」
肩に置かれていた手をゆっくり離すと、彼女は俺に背を向ける。
この違和感はなんだろうか。
「どうしたんだよノア。今日のお前はなんだかお前らしくない」
「何を根拠にそう言えるのですか?」
寂しそうな声を発した。
「俺はこれからの打開策を練る上で、この空間を発動した。我ながら浅ましい考えだが、何かに導きたいノアなら助言の一つでもくれると思ってな」
俺の考えとしては、この状況でパンドラを殺害できるかどうかで動き方は変わる。
「本当に浅ましいですね」
失笑するノア。
「でも、お前の声を聞いた途端に違和感を感じた。なんでそんな悲しそうなんだ?」
すると彼女は黙り、こちらに振り返る。
「………………………」
「………………………」
一時の静寂。
先に口を開いたのはノアだった。
「選択を誤ったんですよ………………」
「は?」
「あなたは目の前の女の子に力押しで負け、だったらこの空間で自分以外を硬直させてから殺害するのが最善の策だと思ったんでしょうけどね………………………」
赤い涙を流し、俺の肩を爪が立つほど荒く掴む。
「例え今、あなたがこの空間内でそこの彼女の事を殺害しようとしても無理なんですよ………」
そしてこちらを指差す。
「白夜の箱庭はあなたの精神のみをこちらに移しているに過ぎない。あなたがいくらここで行動しようと、現実には反映されないんですよ」
その言葉に俺はある種の矛盾を感じた。
「ちょっと待てよ。じゃあおま…………………」
「時間ですね……………………」
俺の言葉はノアに届く前に遮られる。
彼女の体が透けていくと共に、世界が色彩を取り戻し始めた。
「なんでだ…………。ここは一定時間発動し続けるはずだ。前よりも短い……………」
「あなたは過ちを犯しました」
食い込んできた爪が肩から血を流れさせる。
「この空間は万能じゃない。むしろ相手によって効果時間は減少したりするんですよ」
色が徐々に戻りつつ、
「経験したあなたなら分かるでしょう?」
白夜の箱庭に亀裂が入った。
そして次の瞬間、
「♪」
何かを無理矢理潰したような音が聞こえた気がした。
✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖
数ヶ月後。
「う、嘘だ……………………………………」
帝国を守るべく帝都からある程度近いディオストル城より5000ほどの軍勢で出陣したが、全滅して敗走したところを捕らえられた常備軍の老齢指揮官が狼狽する。
「貴様らは極秘戦争で死んだはずだっ! 私は貴様の焼死体を目の前で確認した! 鎌を持ったそこの連れも追い立て、氷海に身を投げた所も見届けた!! 何故今も生きているっ!? 虐殺を繰り返した化物共が!」
「ふぅん♪ 君はあの時の当事者の1人かぁ♪」
敗軍の将は蹴り飛ばされる。
その威力は凄まじく、顎の骨が粉々に砕けた。
「でも残念♪ あの時君達が確認したのって、アタシに似た別物なんだよねぇ♪ そう、見た目も背もまるで同じの肉人形♪」
手足を縛られていた為、ゴロゴロと転がっていく。
その先に鎌を持った男が佇んでいた。
「それに君達は虐殺って言うけどさぁ♪ アタシ達は君達みたいに見境なく民族ごと根絶やしにするとかはしてないんだよ♪ 数で言ったら君達の方が歴史で何百倍も上だもん♪」
「ァァ…………………………」
枯れたような声を発する少年はフードを被っていた。
仰向けにされた将は、顎を壊されうまく喋ることも出来なくなっていたが、それを見たときに驚愕する。
(死んでいる…………………………)
隠れていた目元を覗いた所、瞳が無かったのだ。
そんな骸が目の前の少女に操られている。
「君達帝国上層部で言う極秘戦争でアタシの能力は知ってるでしょ♪ でもね、彼はただ死んだんじゃないの♪ 白い布が黒く染まるように、君達俗物のせいで穢れちゃったのをアタシがキレイにしたんだ♪ そう、今の彼は純白なの♪」
とても嬉しそうにあどけない笑みを浮かべながら、少女は話す。
「夜だってすごいんだよ♪ 彼、激しいのっ♪♪」
その言葉に老将は吐き気を催す。
(死体と寝たのか!? 犬畜生でもそのような事はしないぞ!!)
「愛だよ♪」
聞こえないはずの声に相槌をした少女の言葉と共に、男の鎌が老将の首を跳ね飛ばす。
絞められた鶏の血抜きのように、残された体から血が流れ落ちた。
少女は微笑む。
「ツミ……ニ…ワ………バツ…………ヲ………………」
彼女にとって頼もしい彼の行いに感動した。
「あぁ♪ やっぱりカインはカインだぁ♪ そこに転がる汚物なんかとは比べ物にならないよぉ♪」
それに対して特に返事はなかったが、少女は帝都の方角に視線を向け、話を続ける。
「これでアタシ達の夢がもうすぐ叶う♪ 前は教団だけでなんとかしようとエラスムスは頑張ってたなぁ♪ 結果的に負けたけど今度は違う♪ 異民族とか場末の少数民族とか異種族のおかげで帝国の戦力を分散させたのが当たりだったね♪ 潰し合いをしてくれるのは大助かり♪」
彼女と少年の後ろには大量の屍が列を組んでいた。
「君とアタシが殺して、血と魂と死体をそれぞれの技法の対価に無駄なく使えるように考案したエラスムスはすごいね♪ ドロシーと君が組んでた時より効率が良い♪ これで帝国の毒に対して、元毒で相殺できるよ♪」
両手を頬に当て、皮膚を赤く染めた。
「じゃあ、行こうか♪」
彼女の集団は帝都に向けて動き出す。
「ベルギウス帝国とヴァルト家の滅亡の為に♪ そして女神ダリアを蘇らせて、神の名のもとに平等な世界を築く為に♪♪♪」
教団の悲願と少女の私的感情が織り交ぜられた夢の人柱として……………。
「ね、カイン♪♪♪♪」
笑顔を貼り付けた少女は少年の手を引いた。
「また………………救えなかった……………」
🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓
上弦の章
badエンド 過ち
※パンドラさんはガチでやばい存在ですが、彼女も過去に色々ありました。あの家での出来事が彼女を狂わせた主な要因ですので、それは後々書いていきます。
それと、ルート選択後なので次回も少し遅れるかもしれません。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
52
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる