フォギーシティ

淺木 朝咲

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八章 希望と叡智の街

再来

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「か、過去の?」
 そう、とリーエイは頷く。
「リーエイ・チアン──は汚い人間だったから。自分が死なないために、死にたくないから向かってくる同じ人間を殺した。もしかしたら、真冬のある戦場でたった数日だけ起きた和平が、俺たちの行動次第で永遠に続いたかもしれないのに。俺は俺ばかりが可愛すぎて周りがどうでも良くなってた」
 その頃の俺は本当に、可哀想なくらい自分以外のものを排除しようと奮闘していた。
「でもそれってもう百年以上前の話だって……」
「ああ。しかもアレからしたら外の世界で起きた話だ。だからこそどうやってあの頃の俺の意識を呼び戻しているのかが不明なんだけど──そういう点で言えば、俺達には共通することがある」
「?」
「殺し殺される世界で数年生きてきたこと」
「ああ……確かに」
 最下層も毎日を生き延びるので精一杯だった。ゴミ箱の、いつ捨てられたかも分からない残飯を腹下し覚悟で一食食べられたら良い方で、下層のパン屋からパンを盗み、綺麗なまま元の形の大きさのまま一個食べられたらご馳走だった。もっとも、その盗んだパンは最下層に戻れば大抵は元の半分以下の大きさになってしまうのだが。
「最下層が食べ物の奪い合いなら俺たちがいた戦場っていうのは命の奪い合いだからね。最下層は命を直接奪われる──殺されることは少なかっただろうけれど、食べ物が無くなったら餓死してしまうよね? 俺の隊には物資が届かなくなることとかはあまり無かったから良かったけれど、他の国の隊は物資がまともに届かないせいで餓死した兵も多かったんだよ。それこそ、一回目の大戦の時にはまだ仲が良かった日本の兵とか」
 時々僕はこうしてリーエイの過去の話を聞くことがあるが、やはり惨いと言わざるを得ないようなことが多かった。きっと兵のほとんどは自分から死にに行くのは御免だったろうし、ましてや乗り気な人なんていなかったと言っていいと思っている。
「だからアレは「起きた未来」のカテゴリーから何らかの方法で俺たちの過去の人格を復元して、何らかの方法で俺たちを殺し合わせようとしてるんだよ」
 到底信じられるようなものではないが、この街では実現が不可能とは言いきれないのも事実だった。
「自分が危害を与えたと思わせないために、あくまでとしての名誉は維持したまま、俺たちを殺したいみたい」
「…………」
 僕の異能が及ばない力、なんて考えたこともなかった。あらゆるものの生死を逆転させるのだから、力も力そのものの在り方を扱えばいいだけの話──だったのだが、どうもこの方法では厄介な人格復元とやらを止めることは出来ないらしい。
「……かといって未来そのものを否定してしまったら」
「どうなるか更にわからなくなるし、この街が消せなくなるかもね」
 ──打つ手は、これしかないかもしれない。
「…………命、生命だ」
「?」
 リーエイが不思議そうに僕を見ている。
「僕は生死を逆転させることが出来る──つまり命のコントロールが出来る。それに無かったことにした──逆転させた生命の力を引き出して使うことも出来るんだ」
「そんなことが……」
「だからあの時穿った「雷霆ゼウス」は異武装としての力じゃなくて、多分本来の異能としての力と同等かそれ以上の力を放つことが出来た」
 あれは異武装としての力を超えていた。それでも槍本体には何も傷がいかなかったので、一安心した。
「今は………」
 ユーイオが虚空を見つめる。
「ユーイオ?」
「少し集中させて」
 そうして数秒ほど虚空を見つめた後、うん、とユーイオは頷く。
「今の命の数と量ならあと少しあれば僕はもう一度あの一撃を出せる」
「それ……ちなみにあと何回撃てそう?」
「…………僕の異能で力を増幅させて、ってことだよね」
 リーエイは頷く。
「多分……僕は異武装に詳しくないから本当に予想でしかないけど、次に撃つ分も含めて二回が限界じゃないかな。この槍、古いでしょ」
「うん」
「古い上にしばらく使われてなかったと思うんだ。だから、いきなり生命の力を与えて威力を底上げすること自体この槍に無理強いをさせてるようなもので……」
「そっか」
 でも、と僕は続ける。
「毎日微量の生命の力を与え続けていけば、莫大な生命の力にもう少し耐えられるようになるかもしれない」
 ユーイオが言うには、使われていなかった期間の分だけ使用者から込められる力が伝わってこなかったため、いきなり力を多く込めてしまうと異武装が耐えられないのだそうだ。つまり、すべての人間がいきなり百メートルを九秒台で走りきることが出来ず、日々の積み重ねによってそれに到達するのと同じことらしい。
「それをして、本当に耐久性が上がったとしても次の分を含めて五回撃てたら良い方かな」
 このあまりにも強力すぎる異武装と異能の組み合わせの使い時はとても重要だということだ。だが、まだ何回もこうやって殺し合うように仕向けられるかもしれないと考えたら、怖いのはユーイオだって同じだった。その不安が常に付き纏い、どうせ殺し合うなら、とユーイオは覚悟した。
「…………僕が」
「ん?」
「僕がアレと出会わなきゃ……接触しなきゃ良かったんだ」
「ユーイオ?」
 ユーイオは異武装である「雷霆ゼウス」の扱いに長けていたため、リーエイが預けていたが、それを突然顕現させて自分の首元に当てた。
「僕のせいでリーエイが苦しむ。リールも巻き込んでしまう。そもそも、アイツが前世の弟で前世の魂に止めて欲しいって頼まれたから街を消すことにしたのに、僕はどんどん僕の勝手な行動で多くの人を巻き込んでいってる……」
 この数年間優しさに触れ、誰かを大切に想うことを覚えてしまったユーイオには、それがとてつもなく辛いことになった。
「僕が生まれなきゃリーエイは僕を拾わないし、こんなことにはならなかった」
「ユーイオ」
 リーエイが焦るように名前を呼ぶ。
「僕じゃダメなんだよ、きっと。この街を、世界をどうにかするにはきっともっといい人が居ると思うんだ」
 槍を首元に構え、ユーイオの顔つきが変わる。
「ユーイオ、落ち着いてよ。アレと会うのはユーイオの出自を知るために必要だったと思うし、そもそもアイツを止めるのは君の前世の魂が勝手に願ったことだよ。ユーイオが一人で抱え込む必要ないんだよ」
「……ごめん」
 ユーイオはそれだけ言って、笑いながら自分の首を槍で突いた。それからのリーエイの記憶はない。目の前で首からだらだらと血を流す我が子をどうしたのか、どうしてこんなことになってしまったのか、その結論はリーエイの中では「自分が最下層になんて行ったから」となった。きっとユーイオは殺し合いにならないようにこんなことをしたのかもしれない。掌の上で踊らされるくらいなら、と思ったのかもしれない。それでも、置いていかないで欲しいとリーエイの心は絶望した。リールは憔悴しきったリーエイと、その目の前で倒れているユーイオを見て絶句した。いつからこうだったのか、何故ユーイオが死ななければならなかったのか、混乱し、叫びたくなるのを必死に堪えてリーエイを別室に移し、ユーイオの首からそっと「雷霆」を抜いた。いつからこうなるように狂ってしまっていたのだろう。ぴくりとも動かない我が子の肌を優しく撫でると、もうすっかり熱を失っていて、それがリールの沈んだ気分をいっそう暗く深い地の底まで落とした。



 ──何も見えない、聞こえない。ここがどこで、いつなのか、どうして僕がここにいるのかもわからない。けれども、僕が僕であること、そして肌から伝わるのはとてつもなく冷たい感覚だけなことはわかっていた。そして、なんとなく僕はもうすぐ死ぬのかもしれないと、それだけは確信出来ていた。
「…………?」
 冷たく、ない。暖かい空気と、何か美味しそうな匂いがする。ゆっくり目を開けてみると、どこか見覚えのある家の景色だった。
「目が覚めたんだね」
「!」
 聞き覚えのある声がした。声がした方を見ると、丸い時計頭の異形が立っていた。──リーエイだ。
「ああ、俺は君を奴隷にする為にここに連れてきた訳じゃないから、安心して。……これ、食べられそう?」
「……」
 見た目も匂いも、全部覚えている。
「うどんって言ってね。あったかいし、多分美味しいはずだから。無理はしなくていいからね」
「………」
 リーエイにそう言われて、麺を一本口に入れる。もちもちとした食感と出会った日と同じ汁の香りが懐かしくて、泣きそうになった。
「あとリンゴをすりおろしたのもあるんだけど……」
「食べる」
「そう、食欲が思ったよりありそうで良かった」
 そう言ってリーエイは笑う。時計頭なので本当に笑っているか怪しいが、嬉しそうな声と様子からして、きっと優しそうな表情をしていることに間違いはなかった。
「……あ、名前を言い忘れてたね。俺はリーエイ。君は?」
「……………」
 本来の名前を教えても構わなかったが、何故か僕は文字がわからないと嘘を吐いた。
「そっか、君のボロボロの服にユーイオって書いてあったから、多分それが君の名前になると思うよ」
「ふうん……」
「……………随分異形に慣れてるみたいだね?」
「え」
 まずいか。
「いや、悪いことだと思って言ってるわけじゃなくって、凄いなあって思っただけだよ」
「……慣れてるつもりはない」
「じゃあ肝が据わってるんだね!」
「そのつもりもないな」
「あっはは! じゃあどういうつもり?」
 リーエイは笑いながら訊いてきた。
「……わからない、でもお前は危険じゃないって知ってるわかるから、それだけ」
「嬉しいこと言ってくれるね。俺は後天性異形だからね、元人間ってやつ。人間の痛みも気持ちもわかってるつもりだよ」
 食べ終わったなら片付けるよ、といつの間にか空になっていたお椀を、リーエイが手に持ったと思うと次の瞬間には何事も無かったように座って会話をしようとする状態のリーエイが居た。
「……」
「あれ? 大抵の人間はびっくりするんだけど……」
「え? ああ……一瞬すぎて気付かなかった。お前、何した?」
 一応、何も知らない体で訊いておく。
「異形はそれぞれ何かしらの異能を持っていてね。俺は「時間詐称タイムラグ」っていう、今みたいに時間を操る異能を持ってるよ」
 リーエイは得意気に言った。──ごめん、知ってる。
 数時間後、僕はいつの間にか眠っていたらしく、朝のテレビ番組の音声で目が覚めた。相変わらず「ふぉぐっとニュース」って何だよ、と思ってしまう。
「おはようユーイオ。よく眠れたかい?」
「一応」
「ん、じゃ歯磨きと顔洗いしようか。ついてきて」
 そう言われてリーエイに連れられると洗面所に着いた。うん、知ってる。
「はいこれ。ユーイオの歯ブラシ。こっちが歯磨き粉だから、横にある洗顔料と間違えないでね」
 ──僕はびっくりした。歯磨き粉も洗顔料も記憶に残っているものと全く同じものを使っていたからだ。
「使い方は?」
「知ってる」
「そう。それなら終わったら俺を呼んで。テーブルマナーを教えるから」
「それも知ってる」
「わぁ、君はとっても優秀だね」
 じゃあ待ってるから、と言ってリーエイは洗面所から離れた。この家に来て初めての朝ごはんは、確か──
「クロックムッシュとシーザーサラダ、ポタージュ……」
「なんでわかったの?」
 僕が戻りながらそう独り言を呟くと、リーエイが驚いたように僕を見ていた。
「…………なんとなくだよ」
「へえ。勘も鋭いんだね」
 さぁ、食べようとリーエイに促されて彼の目の前に座る。リーエイは当たり前のように顔を時計頭から人間の、整った顔に切り替えてみせた。僕がそれを無視して何気なく左手でナイフを持つと、リーエイが嬉しそうにしていた。理由はもう知っているが、その様子を無視する。
「ユーイオも左利きなんだね」
「……左手こっちの方が力が入るから」
「俺も。でも昔は左利きって結構不利に感じたよ。使うもの、新しく作られるものが大体右利きが扱いやすいように作られるからね」
「へぇ……」
「俺は矯正されそうになったけれど、好きでこうなったわけじゃないのに直すも直さないもあるか! って反発してずっと左手を使ってたら家族に呆れられたね! それからはずっと右手を無理に使うことなく生きてる」
 ──やはり多少の差はあれど僕はきっと世界をやり直している。忘れるわけがない、昨日食べたうどんもリンゴのすりおろしも、この朝食もすべて初めてまともに食べた食事たちだった。
「──それでね、君さえ良ければ俺の家族になってくれないかなって」
「……いいよ」
「本当? それなら嬉しいよ。この家は俺一人で暮らすには広いからね」
「………」
「それにしてもその前髪、邪魔じゃない?」
「あぁ」
 そういえば、会った頃は前髪を伸ばしていたんだった。道理で視界が悪かったわけだ。
「……目の色が珍しいから、隠したくて」
「へぇ? どんな?」
「こんな感じの……」
 と、僕が金色の目を嫌々見せるとリーエイはわぁ、と感嘆した。
「綺麗なだね」
「………………金色だよ」
 僕が小さく訂正すると、リーエイはえ? と驚いたような顔で言った。
「ご、ごめん……人の外見について触れるのもどちらかという失礼だし、触れた上で間違えるなんてもっと失礼なことを……」
「別にいいよ。蔑まれることくらいは平気でされてたし」
 先に訂正しておけば、リールに金色だぞ、とツッコまれる未来もない。食後、前髪を切られ、翌日は役所へ行きフローライトのピアスを付けてもらって正式な家族となり、暫くしてリールと出会って、記憶にあるようにリールが最上層者に腹を貫かれ重傷を負い、前世もはっきりして、僕は「輪廻サムサラ」の異能に目覚めた。いや、この場合は初めて人前で使ったと言うべきか。そしてその後、地下都市へ向かっていたがそれを辞め、西の森へ行き自分のルーツを辿る、知ることをしたがそれも辞めた。そもそもその時の記憶を持っているので行く必要が無いのだ。
「それにしてもユーイオは異能のコントロールが上手いね」
「ああ、本当に」
「そう?」
「「そう」」
 僕は異形ふたりに異能の扱いに長けていると褒められた。当然だ。黒猫を蘇らせたのが最初だと思うな。僕は何回も、何回も繰り返して生命を扱う感覚そのものを覚えてみせたんだ。
「それにしても前世での弟を殺す止める、ねぇ……」
「前世が弟の魂も一緒に連れてあの世に向かうってさ。それで僕と前世の縁はおしまい」
「そう上手くいくとは思えないんだが……」
「大丈夫。……………今度こそは」
 特に大きな事件もないまま十六になって、前の世界で思っていたこと、考えていたことに間違いがひとつあることに気付いた。僕の異能「輪廻」は特性や力が強すぎるあまりリーエイの「時間詐称」のように、全力を出した時に異能の特性が変わるようなことは起きないと考えていたが、実はそうでもなかった。僕の「輪廻」は、僕が現実を一度だけ強く「拒絶」し、現実そのものを無に還すことで一定の時間まで遡る「回帰リュトゥール」が起きていたのだ。しかもこれが起きるのは、僕が現実を拒むだけでなく、その時に自死をする時だけだ。一定の時間まで、というのは僕自身の運命が大きく変わり、そして僕の使命を果たすために絶対に避けられないことが起きる時のこと──つまりリーエイに拾われる時だ。ということは、僕とリーエイが出会うのは必然だったということになる。
「今度?」
「……なんでもない、こっちの話」
 うっかり無駄な一言を聞かれ、リーエイが何の話? と訊くので深堀りされないように何のヒントも与えないようにする。
「ふぅ………リーエイ、お願いがあるんだけど」
「ん?」
 サージュとも会っていない、地下都市にさえ足を踏み入れていないため僕はアレを持っていない。
「何かあってもいいように、僕に護身用として「雷霆ゼウス」を譲ってよ」
 リーエイは驚いた顔をして、「とりあえずもう一回言って?」と僕に言った。
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