召喚バグ?でクラスメイトを召喚しました

淺木 朝咲

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1 慣れない日々

生命への執着

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「うぅん……」
「あ、起きたかい?」
「………!?」
 紅彩が起きたのは昼前だった。蒼唯はいない。その代わりに、変なのがいる。
「あ、あなたは何? 何をしに……?」
「私はしがない精霊王さ。君の魔力切れが酷かったから、少し様子を見ていただけだよ」
 そう言って微笑む白髪の青年。宵闇色の眼は、どこか不思議な魔力を感じさせる。自分の魔力と、似ているような。
「あの、お名前は……」
「んー、ちょっとまだ教えられないかも。いつか教えるよ」
「じゃあ、あなたはわたしのお父さんと何か関係ある?」
「え? 君のお父上については何もわからないけれど……」
「そう、ですか」
 似ているのに、何も関係はない。父本人ではないことだけはわかった。髪色も目の色も違ったから。ならせめて、身内であってほしいと思ったのに。
「君がただの人間じゃないことは、ひと目でわかったよ。何と混ざってそうなっているのかはわからないけれど」
 やっぱり、精霊王でもわからないらしい。
「あなたは何年くらい生きてるんですか?」
「うーん……何十万年も前から?」
「そ、そんなに?」
 紅彩はそれなら、と父の唯一わかっていることである外見の特徴を伝える。
「えぇ……絶対精霊じゃないし獣人でもないよね。精霊人エルフに近い気もするけれど、そんな特徴の種族がいた記憶は無いなぁ……」
 人と交わり、できた子である紅彩が限りなく人間に近い時点ですべての人外が候補から外される。
「数百年後の子孫、とかなら君みたいにほぼ人間のようなことになってもおかしくないのだけれど、君は父親が人外なのだろう? それでその外見的特徴の無さと魔力の………うん?」
 そこでようやく彼は気付く。紅彩の魔力の異常さは、並の人間では勿論、魔力の塊である精霊でも注意しないと気付けない。
「君、変わった魔力だね」
「やっぱりそうですよね。わたしはこの魔力も、お父さんの正体のヒントになるんじゃないかなって思ってるんです」
「………」
 人間の魔力は生命活動が停止しない限り、必ず身体を覆うように揺らめき、時折輝きを見せる。だが彼女は──それが全くない。揺らめきのない魔力など死んでいるも同然だ。
「君、それで魔法は使えるんだよね」
「問題なく使えますね」
「変なの、普通の人間なら死んでいるよ」
「でも、あなたの魔力も同じですよね? とてつもない力の塊として存在して、機能もしているけど、揺らぎがない」
「私はそういう種だからね。ファントンとは違って当然だよ」
「じゃあ、あなたは何の精霊なんですか?」
「私は死精霊バンシー。生命を刈り取り死を嘆き、あらゆる生物の死を司る精霊さ」
 それなら、魔力の状態にも納得がいく。何なら、生命を奪わないようにするためか彼の魔力はかなり抑制された状態だろう。
「私が見るに君は生きたい気持ちが強いようだね?」
「生きたい気持ち? わたしが?」
「ああ。だからその状態でも魔法を使えるし、生活も普通にできる」
 考えたこともなかった。あってないような、生きているようでそうでない魔力を持って魔法を使うことに大して疑問はあった。答えなんてものが出てくるはずもないから、向き合おうとしなかっただけで。
「君が生きたいと日々強く願っている気持ちは、間違いなく君の力になる。それだけは忘れないように」
「わ、わかりました」
 じゃあね、と言って死精霊は消える。
 死にたいと思ったことはなかった。生きたいと思っていたかはわからなかった。完全に盲点だったと思う。蒼唯くんが帰ってきたら、このことを話そう。




「……てことがあって」
「はぁ……そいつに何もされてないな?」
「? うん、多分」
 帰ってきた蒼唯くんに昼間の出来事を話すと、面倒くさいなと言わんばかりに顔を顰めた。
「で? 体の方は」
「だいぶマシになったよ。明日は行けると思う」
「そうか、まぁこんな時間までパジャマのままならそうだよな。あぁそうだ、翠が心配してたから明日行くならあいつに顔見せに行かないと」
「翠ちゃんが? ははっ、もう今のわたしは元気なのに変わんないね」
 紅彩はそう言って笑う。
「今の? 元気?」
「え? あ、言ってなかったっけ。わたし入院してた関係とかで入学が一年遅れてるの。だから年齢はみんなより一個上だよ。あ、でも蒼唯くんは全然今まで通りの口調でいいからね? そもそもたかが一年生まれるのが早かっただけでいきなり敬語使われるとか気まずいし!」
「お、おう……」
 知らなかった。背丈はある方だがかなり華奢だなとは思っていた。まさかそんな理由だったとは。
「それは混ざってる血とは関係ない?」
「うん。関係あったら多分もっと悪いことになってたと思うし、これはただの生まれつき。だからたまにね、手術した痕とかが痛むこともあるんだ」
 見る? と言われたが流石にそれは遠慮しておいた。入退院を繰り返した幼少期に、魔法の発現もしている。そうなると紅彩が言っていた「似ている」の意味も少しは変わってくるかもしれない。ただ、今あのときに勝手に嫌な気分になったことを詫びたとて彼女はその詫びを受け取らないだろうし、そもそも気を悪くしたことすら気付いていないだろう。
「翠ちゃんは幼稚園が一緒でね、幼稚園の頃は魔法語の方が上手で普段の会話も魔法語でやろうとするから、浮いちゃってたみたい。わたしも、クォーターだからあんまり馴染めなかったんだけどね。ひとりで花壇の近くでぼーっとしてたら、いきなり翠ちゃんが魔法語で話しかけてきたのがはじまりかな」
「へぇ……そんなに長いこと仲がいいのか」
「うん。わたしも魔法語がわかるから、普通に返事したら喜んでたよ。しょっちゅう体調を崩してたから、翠ちゃんがわたしに対して心配性になったのはその頃からかな~」
 確かに翠の心配っぷりは一周まわって笑えるところがあった。「紅彩が!? うっそまた倒れたって……え! 魔力切れ!? あの紅彩が!? えちょっと待って僕も部屋に案内して……ってそれは無理なんだそっかそうだねそうだよね君は召喚されたから特別なだけで僕はただの男子生徒だもんねそうだよね」と一息で話してきたときは驚いたが、最後の方になると流石に笑いが込み上げてくる自分がいた。
「お前、そんなに心配することか?」
「するよ!! 色々手術とか乗り越えてきて「もう大丈夫になったよ」って笑ってたのが一昨年とかの話だよ!? 大丈夫じゃないじゃん僕なら魔力切れを起こしても六時間ぐらいで元通りなのに!」
「あー……それはお前の回復力が異常なところもあるけど」
「今まであの子がしんどい思いをしてるときに家族以外で近くで見守るってことをしてたのは僕だけで、それが僕の役目だとも思ってきた。けど……これからは君に任せないとね」
 翠は少し寂しそうにそう言っていたと思う。それだけ長い時間を共に過ごしてきたということだろう。
「紅彩は花みたいに脆くて優しいからね、君は冷たそうな人に見えるから優しくね!」
 ……などと変な釘の刺され方をしたが、翠は何か幻覚作用のあるものでも食べているのだろうか。紅彩が花みたいなど有り得ない。良くてどこででも根を張れる雑草だ。確かに良識・良心はあるが我儘なところが少々強いのだ。初日の気まずそうな空気はどこへやら、一週間以上も経てば自由気ままに過ごしている。この前なんて、「一々着替えるのに洗面所の方に行くのが面倒くさくなってきた」とか何とかで、真横で服を脱ぎ出してきたものだから慌てて洗面所の方に紅彩を押し込んでやった。翠はそういう一面を知らないのだろうか。
「──蒼唯くん? 聞いてる?」
「え、何」
「はぁ……ノートのここ、見づらいからなんて書いてんのって訊いてるの」
「あ? あぁ、そこは……」
 人につけてもらったノートにいちゃもんをつける姿なんて、翠には想像もできないんだろう。
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