召喚バグ?でクラスメイトを召喚しました

淺木 朝咲

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3 旧時代の呼び声

死と幻のふたり

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 現代まで連なる人類の歴史は長く、新しい命が生まれる中で去っていく命もある。その命の弔い方もまた様々である。アムは、旧人類が仲間の遺体に献花し、弔ったその時に生まれた精霊だった。
「………」
「あら、新入りね」
「……」
 造られたばかりの精霊界は、今ほど草木もなくただ存在する為だけに作られた箱庭のようなものだった。死を弔う人間の概念から生み出されたばかりの彼は、先にいたらしい少女に声をかけられた。
「あなたは何? 私は光。後ろからついてきたのが闇よ」
「……死」
「ふぅん。だからそんな陰気臭い感じなのね」
「陰気臭くは、ない」
 目にかかるほど長い前髪に隠された眼は、じろりとまばゆい少女を捉えていた。
 しばらく経つと、新しい顔が増えた。それはとても賑やかで、人を欺きその反応を楽しむことが好きなようだった。
「幻ってやつかしら?」
「あーうんそんなとこ。お前らは? てか名前何?」
「名前? 必要なの?」
「え、逆に要らんの? 便利やで」
 彼が現れるまでは、ずっと「光の」「闇の」「死の」と、司るもので呼びあっていた。だが、彼はきっぱりと言い張ったのだ。
「オレのはファントン・イルゾネや。何やったらお前らの名前もつけたるで?」
「…………」
 それから、人間が我々をどのように見ているのかを時折司るものを通じて観察しながら、各々の種名まで決めた。
「アムってええ響きやわ」
「そ、そう?」
「うん、呼びやすい。レイもいい感じの名前よな」
光精霊ソレイリアなんて安直な名前。私の名前をルーツに持つなんて、逆のパターンが起きているのよ? ねえ、トロフ」
闇精霊オビュスノワールなんて長いけど仕方ないか。僕たちはこれから僕たちだけじゃなくて、人間の想像の数だけ増えていくんでしょ」
 今はまだ彼らと数人の精霊だけの精霊界だが、人の文化が発展し、人が想像を重ね創作をすればするほど多種多様な精霊が生み出される。その過程で、同じ精霊の別個体が生まれることだって必ずある。ファントンはこれから賑やかになっていく精霊界がどれだけ美しい世界になるかが楽しみだった。




「おいアム」
「……ん、ファントンか。何か用?」
「いやさっきからずっと呼んでてんけど。何お前目ぇ開けたまま寝る技術でも身につけたん?」
「いやいや。少し、昔のことを思い出していただけさ」
 さああ、と風が吹く。あの頃とは大違いだ。花が咲いていて、風が吹けば花弁が舞っていく。上を見れば星空がゆっくりと動いていた。人間界の一時間が、この世界では一日に値する。時の流れだけはどうしてか、寿命の概念がないからなのか、そもそも時間というものに対して曖昧な印象しかなかったからか、人間界とは大きくズレている。
「昔なぁ。ここもえらい変わったよな」
「本当にね。こんなに豊かな景色が見られる世界になるとは思ってもなかったよ」
「オレはそんなことよりもお前がこんな飄々とした話し方で、人間と子孫を繋ぐ奴になった方が驚きやったわ」
「そんなに意外かい?」
「ああ。お前の性質上不可能でしかないことやったろうし、まずお前が人間に興味を持つとも思ってなかったからな」
「そっか」
 死と幻。存在していたものがなくなっていくものと、そもそも存在すらしていなかったもの。ふたりは、似ているけれど似ていない。
「お前、蒼唯のことどうすんの」
「私としてはこちらに来て、ゆくゆくは私の跡を継いでくれると嬉しいね」
「あの人間はそんなに凄いか」
「ああ。正直期待以上、完璧な先祖返りを果たしているおかげで息子と同等か、本人のセンスもあってそれ以上だと私は目論んでいるよ」
 現在の精霊界で最強と言われているアムにそこまで言わせる蒼唯のことを、ファントンはもっと観察しておけばよかったと思いながら、ふぅんと口からは興味なさげな声が出た。
「あ、蒼唯のことはいじめないでね。私の大切な子孫だよ」
「わかってるよ。んで? もし蒼唯がお前の跡を継いで王になったらお前はどうすんの? 隠居?」
「……いや」
 精霊に寿命という概念はない。だが、死精霊がいる以上死という概念からは逃れられない。もっとも、彼らの死を人間の死と同じように扱っていいのかは不明だが。
「私はもうこの世に長く居すぎている。……なあ、ファントン。私はもうのもとへ行っても構わないだろう? レイとトロフと君で、精霊界の未来を率いてくれよ」
「………」
 いつから、彼は疲れていたのだろうか。機会さえあれば、今よりもずっと早くにこうなっていたのかもしれない。蒼唯という逸材を前にしてアムはようやく自分に課されたものから離れ、自由になれると確信したらしい。
「君は契約している人間もいるし、レイとトロフがいれば寂しくないだろう? どうしてそんな顔をしているんだい?」
 ファントンは、何も言えなかった。何か言おうとして開いた口が無様だった。
 ああ、この男は。こいつはオレについてえらい勘違いをしてる。オレん中の一番はずっとお前やった。話していてペースが合うのかめちゃくちゃ楽で、精霊界最強。人間に興味を持つ変わり者で他の精霊とは何か違うものがあったのは確か。
「ファントン?」
「……お前はほんっまにアホや」
 ひゅっ、とファントンの拳が飛ぶ。だが、アムはそれを左手で受け止めてしまった。
「何やねん一発ぐらい殴らせてくれてもええやんか」
「私は……何か言ってはいけないことを言ってしまったかな?」
「言ったらあかんってほどでもないけど、お前はオレをわかってなさすぎる──〝想像顕現〟」
 アムとファントンを取り囲む結界が生まれ、アムの手足をぎちっと植物の蔓が縛りつけた。ファントンの幻だからか、アムの死の魔力には反応しない。
「お前はオレの親友ダチやねん。レイやトロフとは違う。オレはお前をどの精霊よりも信用してるし、精霊界の最強がお前である限りオレはお前の右腕でおろうと思えててん。……なんやお前簡単に自分だけ死のう思ってんの、なんかめっちゃ腹立つわ」
「ファントン」
「往くにしてもせめてなんか残せよ。じゃないとオレはお前の幻を創り上げて好き勝手喋らすからな」
「ふふ、それは困るね。……わかったよ。蒼唯がもしこちらに来て、王になったとしてもしばらくはここにいるよ。私はとんでもない寂しがりに懐かれていたことを見落としていたようだからね」
「……寂しいとか一言も言うてへんけど。アホなん?」
「そうだったね。アホでいいよ」
「お前ほんま腹立つわ……」
 元々の精霊のことば、こころに親友という概念はない。だが、ファントンが言い切った通り、このふたりは確かに親友と呼べるだけの絆を結んでいた。
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