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【第2章】 魔女が生まれた日

06 適材適所

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「そういえば、最近マリアンヌ様は何か欲しいものが出来たのではないですか?」

 握手をした手を離そうとしたらアンジェラがそう切り出してきた。
 唐突とうとつ過ぎるその問いに疑問符を浮かべながらマリアンヌは答える。

「何のことです?」
「うふふ、協力関係をお約束したのですから今さら隠し事なんて水臭いですわ。 私ならそのことに対して協力できることもありますわよ」
「いや、ほんとうに何のことだか」
「たとえば今までにない小規模な部隊…とか」
「っ!?」

 的を射るとはこのことなのか、マリアンヌは心臓を矢で射抜かれたように絶句した。
 アンジェラは続ける

「おそらく部隊のコンセプトは階級なしの完全実力主義の部隊、何か1つの目的を与えられて達成することだけの部隊」

 まるで見てきたような口ぶり。
 恐ろしいほど当たっているが、マリアンヌにとってはその案こそが奥の手、いかに協力関係を築くためといっても現段階では教えるわけにはいかない。
 だからこそマリアンヌは試すように、そしてどちらにでも取れるように答える。

「どうしてそう思ったのですか?」

 しかしアンジェラはその問いにひるむことなく、まるで事前に用意していた原稿用紙を読むように滞りなく言葉を発していく。

「マリアンヌ様はここ1ヶ月カーナを使って私たち兄弟達の動向をさぐっていましたよね? 基本は兄弟達の情報収集、しかし最近カーナの行動が変わってきた。情報ではなく、人を集めている、しかも優秀な指揮官クラスには目もくれずに実力のある人間を片っ端から節操せっそうなく、普通軍隊を作るうえで指揮官無しなんてありえません、雑兵だってかなりの数が必要となる、それが軍隊というもの。最初はカーナではなくマリアンヌ様が指揮官などの将軍を集めているのかと思いましたが、それもなく、でもこういった行動をカーナが自主的に行っているとは考えづらい、だからなんとな~く想像が出来たんですわ」
「…カーナ」

 椅子に座り、前を向いたままのマリアンヌ。
 その椅子から聞こえるドスのきいた声
 カーナは大きく、まるで頭でかわらを割るように勢いよく頭を下げた。

「も、申し訳ありません!」
「ちなみにですが、私以外の兄弟達もおそらく気付いていると思いますよ」
「カーナ!」

 もう前を見続ける余裕の無くなったマリアンヌ
 背もたれに手をかけて、体は大きく乗り出す

「も、もう、し、わけ」
「このグズが!諜報活動1つまともに出来ぬのか! お前のせいでわれの計画が総崩れだ!!」

 深くうつむくカーナ。
 それを見ていたアンジェラはカーナをかばうように口を挟む。

「残念ですが、そもそも最初からカーナは諜報活動には向いていませんわ。彼女が輝くのはもっと違う事柄、なのでもしこの事態の責任の所在を明確にするのならば適材適所を見誤ったマリアンヌ様の」
「それは違います!アンジェラ様!」 

 カーナは大きく首を何度もブンブンと横に振る。

「私が、私が悪いのです!どうか…マリアンヌ様を悪く言わないでください」
「…マリアンヌ様、言い忘れておりましたが、気付くといっても兄弟達の動向をさぐっている、というところまでだと思いますよ。 私のようにマリアンヌ様が何かをたくらんでいるという所までは分かっているとは思えませんわ」

 それを聞いて少し気持ちが落ち着くマリアンヌ
 荒かった鼻息を大きなため息と共に落ち着かせる。

「それで? アンジェラ姉さまはどんな協力が出来るのですか?」
「それはまずマリアンヌ様から詳しい話を聞いてからでないとなんとも」

 マリアンヌは自分の考える暗殺部隊の構想をアンジェラに話した。
 アンジェラは最初こそ笑みを浮かべながら聞いていたが、話が半ばに差し掛かるとその顔から笑みは消え、「なるほど」と呟きながら聞き入っていた。

「…という部隊を作りたいのです」
「よくそんな事を思いつきましたね、さすがリーシャ様の」
「母上が何だ?」
「いえ、何でもありませんわ、ここで言っても詮無せんなきことですものね。 それはそうと素晴らしい案ですわ」
「謝辞はよい。 それで、協力は、できそうか?」

 説明が疲れたのか、やれやれと疲れ顔で尋ねるマリアンヌにアンジェラは再び笑顔の表情で答えた。

「ええ、これ以上ないほどに」
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