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【第2章】 魔女が生まれた日

20 魔女が生まれた日①

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 まだ夕暮れには早い時刻。
 あれから数日が過ぎた。
 不気味なぐらい何も起こらなかった。

 アンジェラは御付おつきの兵たちと共に王の間の前までやってきた。
 今日は月に一度、皇族が全員集まる日。

 途中、兄弟の1人に会ったが何を喋ったかはよく覚えていない。
 唯一覚えていることは「大丈夫かい? 顔色がすこぶる悪いが」という言葉だけ。

 足が重い。
 嫌な予感が悪寒になって背筋を伝う。

 あれから姿を全く見ていないマリアンヌの顔が脳内をチラつく。
 それを振り払うように王の間の扉を押すのであった。


          ×              ×


われを殺せなくて残念でしたね。アンジェラ姉さま」
「何のことかしら?マリアンヌ皇女殿下」

 マリアンヌはいつものように黒いドレス。
 ただし、私へのあてつけのように、あの日のドレスと同じがらを選んで着ていた。

 私とマリアンヌは王の間にて言い合う。
 始まりはこうだ。

 すれ違った時に軽く肩が当たった。
 すると彼女は小声でこう言った。

「まだ時間があるな、時間つぶしにでも興じよう」
「?」

 それからマリアンヌは皆の前で声を荒げた、そして矢継ぎ早に次から次へと言葉を紡ぎならが私を攻め立てた。

「王位継承権第一位に手を出すとどういうことになるかお分かりか?」
「ですから、私にはそれがどういう意味か分かりかねますわ」
「みなさ~ん! こいつはわれを殺そうとしました」

 集まっている兄弟達
 中央奥で両大臣と話している皇帝も何の騒ぎだと、言い争いをしている両名に目を向ける。

「面白くも無い冗談ですわね。いつものおふざけも度が過ぎると痛い目を見ますわよ」
「なるほど、あなたはわれを殺そうとしたことを、冗談の一言で片付けようというわけか、あつかましいにも程があるな」

「どうしたのだ?2人とも」と問いかけてくる皇帝
「いいえ!大した問題ではありませんわ、お父様」恐れ多いとアンジェラは首を振る

「そうそう、大したことではないですよ~。ただ単に、この反逆者がわれの命を狙っただけ、それだけのことですよ~」
「そんなことはしていないわ!」
「そういえば、誰かさんのせいで肩に矢を受けたんだった。お見せしましょうか?」
「最近起こった事故の傷を見せられてもそれが何の証拠になるのですか? それに人前でそのようなはしたないマネをマリアンヌ様がされると亡き母君も悲しまれますわ」
「劣悪種どもに見られたとてわれは一向に気にはせんがな。 それはそうとなぜ最近の事故だとお思いになったのですか?」
「…最近、命を狙われたと言ったからよ」
「時期を言った覚えは無いがな、あなたの中ではわれは言っていたのか~、不思議だなぁ」

 マリアンヌは心を見透かすようぬ話しかけてくる。
 私はマリアンヌの真意を探るように目を細めた。

 証拠など無く、ただ駄々っ子のようにわめくだけ。
 私の考えていた通りだった。

 でもなぜだ?

 マリアンヌから焦りの色が見えない。

 数日前のマリアンヌとは何かが違う。
 そう思いながらもアンジェラは反論する。

「そろそろ言いがかりは止めてもらえるかしら、証拠も無いのに無駄な時間を割くつもりはないのよ」

 そう私が言うと王の間にトントンというノック音が響いた。
 私を含め、皆が戸惑とまどう中、マリアンヌだけが口元をほころばせる。
 そして言った。

「よい暇つぶしになった」と
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