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【第4章】 三日月峠の戦い
73 平穏な日々・アトラス編①
しおりを挟む1日目 - 疲労困憊の晴れ
この日、アトラス軍に青空を見上げる余裕すら無かった
敵が撤退して森の中に退いていったのは朝方のこと、その後は再度の進行に備えた城壁の修復、それに伴って三日月峠にある6つの門も修復、もちろん怪我人への治療も同時に行う。
幸いこちらの人数や修復機材は十分というほど余力があったため、そういう意味では困難はなかった。
しかし、アトラス軍全体に広がった「プルート軍がいつ攻めてくるか分からない恐怖」という存在のせいで想定よりも作業は難航していた。
そして決定的に作業効率を落としたのは昼前だっただろうか、作業の最中にダイアル城塞から見える森の前にズラーと並べられた木製の長机のような台座存在だった。
そこにぞんざいな扱いで作業的に並べられていく生首の数々
プルート軍はあろうことか森の中にいたアトラス軍の兵士の首を切り落として台座に置いていったのだ。
そしてその中の1つの生首の前にはわざわざ魔道具を突き刺すように置かれた
ここに魔道具使いシェリーがいると言わんばかりに…
憎しみで頭がどうにかなってしまいそうになるほどの300もの仲間の首
これを見て怒りを覚えるなというほうが難しい
「プルート軍め!よくもこんな辱めを!」
作業を止めて次々と怒りのこもった目で剣を鞘から取り出す兵たち
そして今にも三日月峠を出て行きそうな剣幕だった
このままではマズいと元副官は素早く鎮火に赴く
「落ち着きなさい、これは我らを挑発する罠だよ、こんなバレバレの挑発に乗ってはいけない」
「しかし!シェリー様まであのようなっ!」
「だからこそだよ、シェリー殿の首をわざわざ並べるほどにあちらは攻めあぐねている、そう見るべきだ。さぁ早く作業に戻ってください、いつまた敵が攻めてくるか分からない」
元副官の落ち着いた言葉に眉1つ動かない表情
普段の状況ならばそれは兵たちに安心を与えただろう、しかしこの異常事態では真逆の効果しかなかった。
声を荒げた兵士
「あなたはこちらの軍の人間ではない!だからそんなに冷静でいられるんだ!」
それを皮切りに怒涛のような不満が元副官に押し寄せた
「そもそもドドリス隊長が攻めたとき、なぜすぐに増援を出さなかったんですか!?そうすればドドリス隊長も死ななかった!」
「なぜ一番強いシェリー様とその部隊をあんな森の中に配置したんですか!?」
「あなたの言う通り行ったが結局プルート軍の攻撃は朝方まで続いたじゃないですか!あれはどういうことだったんですか!?」
すき放題な浴びせられる辛らつな言葉
元副官は「こちらの気も知らずに」と心の奥で呟く
しかし、この場でそんなことは言えない
言った所で何も生まれない
だから自分の気持ちを平静に保つため大きくため息を吐く
「ここにいれば負けは無いんだ、報復は援軍が到着した後にいくらでも出来る。不満があるのは理解できる、だから私は君達に約束しよう。1週間以内にアトラスからの援軍が来る、その援軍到着後にやつらに同等以上のめにあわせると」
約束・報復、必要な言葉だけを機械的に選び出す元副官
もちろんこの発言だけで全員の不満が全て解消されるなんて思っていもいない
だから不本意であったとしても頭も下げた
この一食触発の状況は押さえ込めると信じて
「だから今は各々、思う所があるのだろうが、ここは我慢して私の言う通り動いてください」
目論見どおり騒動はゆっくりと鎮静化していった
ホッと胸を撫で下ろす元副官
結局1日を通して気を休めるどころか、ほとんど空を見上げる余裕すら無かった。
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