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十九話
王都を包む結界は、完全に安定していた。
先ほどまで軋んでいた魔力の流れが、まるで別物のように滑らかに巡っている。
城壁の上から、どよめきが波のように広がった。
「魔物群、後退を確認!」
「外周安全圏、回復しています!」
安堵の声が次々に上がる。
だが――
私は、静かに目を細めた。
まだだ。
結界核の奥深く。
ごく微細だが、嫌な歪みが残っている。
「……やはり」
小さく呟く。
カイルの腕が、わずかに力を強めた。
「何かあるのか」
「はい」
私は王都中心部の方角を見る。
「核の深層に、異物反応があります」
レオンの顔色が変わった。
「異物、だと?」
「通常の過負荷ではありません」
ゆっくり、言葉を選ぶ。
「……意図的に、魔力循環を乱された形跡があります」
——凍りつく空気。
騎士たちが一斉にざわめいた。
「まさか……」
レオンの視線が、反射的に後方へ向く。
そこにいるのは――
「……ミリア」
震える声。
群衆の後ろで、彼女の肩がびくりと跳ねた。
「ち、違うわ!」
反射的な否定。
だが目が泳いでいる。
私は静かに一歩近づいた。
「結界核に直接干渉できた人物は、王宮内でも限られます」
ミリアの呼吸が、明らかに速くなる。
「最適化を行ったのは、あなたですね」
「それは……!」
言葉に詰まる。
レオンの声が、低く落ちた。
「……答えろ」
王子の威圧に、ミリアの顔がみるみる歪んでいく。
「わ、私は……王都を守ろうとして……!」
「結果として、核は崩壊寸前でした」
静かに告げる。
ミリアの目に、うっすら涙が滲んだ。
「だって……!」
叫びが、半ば悲鳴に変わる。
「お姉様ばっかり評価されて……!」
空気が、ぴしりと凍った。
「私だって聖女なのに……!」
——ああ。
私は、静かに息を吐いた。
ずっと、そうだったのか。
カイルの腕が、背中を軽く撫でる。
無言の支え。
私はまっすぐミリアを見る。
「あなたは、聖女です」
彼女が、はっと顔を上げる。
「ただし」
一拍置く。
「適性が違っただけです」
ミリアの瞳が、大きく揺れた。
「王都結界は、“増幅型”ではなく“調律型”」
私は静かに続ける。
「あなたの魔力操作は、攻撃魔法寄りです」
だから噛み合わなかった。
ただ、それだけ。
だが。
ミリアは、ふるふると首を振った。
「……違う」
小さく。
しかし、はっきりと。
「違うわ」
顔を上げた彼女の目は――
どこか、焦点が合っていなかった。
嫌な予感が、背筋を走る。
「私は……間違ってない……」
次の瞬間。
彼女の足元から、黒い魔力が滲み出した。
「——っ!」
カイルが私を強く引き寄せる。
騎士たちが一斉に剣を抜いた。
ミリアの口元が、ゆっくりと歪む。
「だって……」
その声は、もう半分、別の何かが混じっていた。
「ちゃんと、“力を貸してもらった”もの」
――ぞわり。
王都の結界核が、低く軋んだ。
先ほどまで軋んでいた魔力の流れが、まるで別物のように滑らかに巡っている。
城壁の上から、どよめきが波のように広がった。
「魔物群、後退を確認!」
「外周安全圏、回復しています!」
安堵の声が次々に上がる。
だが――
私は、静かに目を細めた。
まだだ。
結界核の奥深く。
ごく微細だが、嫌な歪みが残っている。
「……やはり」
小さく呟く。
カイルの腕が、わずかに力を強めた。
「何かあるのか」
「はい」
私は王都中心部の方角を見る。
「核の深層に、異物反応があります」
レオンの顔色が変わった。
「異物、だと?」
「通常の過負荷ではありません」
ゆっくり、言葉を選ぶ。
「……意図的に、魔力循環を乱された形跡があります」
——凍りつく空気。
騎士たちが一斉にざわめいた。
「まさか……」
レオンの視線が、反射的に後方へ向く。
そこにいるのは――
「……ミリア」
震える声。
群衆の後ろで、彼女の肩がびくりと跳ねた。
「ち、違うわ!」
反射的な否定。
だが目が泳いでいる。
私は静かに一歩近づいた。
「結界核に直接干渉できた人物は、王宮内でも限られます」
ミリアの呼吸が、明らかに速くなる。
「最適化を行ったのは、あなたですね」
「それは……!」
言葉に詰まる。
レオンの声が、低く落ちた。
「……答えろ」
王子の威圧に、ミリアの顔がみるみる歪んでいく。
「わ、私は……王都を守ろうとして……!」
「結果として、核は崩壊寸前でした」
静かに告げる。
ミリアの目に、うっすら涙が滲んだ。
「だって……!」
叫びが、半ば悲鳴に変わる。
「お姉様ばっかり評価されて……!」
空気が、ぴしりと凍った。
「私だって聖女なのに……!」
——ああ。
私は、静かに息を吐いた。
ずっと、そうだったのか。
カイルの腕が、背中を軽く撫でる。
無言の支え。
私はまっすぐミリアを見る。
「あなたは、聖女です」
彼女が、はっと顔を上げる。
「ただし」
一拍置く。
「適性が違っただけです」
ミリアの瞳が、大きく揺れた。
「王都結界は、“増幅型”ではなく“調律型”」
私は静かに続ける。
「あなたの魔力操作は、攻撃魔法寄りです」
だから噛み合わなかった。
ただ、それだけ。
だが。
ミリアは、ふるふると首を振った。
「……違う」
小さく。
しかし、はっきりと。
「違うわ」
顔を上げた彼女の目は――
どこか、焦点が合っていなかった。
嫌な予感が、背筋を走る。
「私は……間違ってない……」
次の瞬間。
彼女の足元から、黒い魔力が滲み出した。
「——っ!」
カイルが私を強く引き寄せる。
騎士たちが一斉に剣を抜いた。
ミリアの口元が、ゆっくりと歪む。
「だって……」
その声は、もう半分、別の何かが混じっていた。
「ちゃんと、“力を貸してもらった”もの」
――ぞわり。
王都の結界核が、低く軋んだ。
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