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三十二話
光が、臨界まで満ちた。
結界の内側で、金の粒子が雪のように降り注ぐ。
触れた瘴気が、音もなくほどけていく。
「……やめろ……!」
黒い影の声が、初めて明確な焦りを帯びた。
核深層に食い込んでいた瘴気の根が、一本、また一本と焼き切れていく。
エルサは指先の震えを押さえ込み、さらに魔力を流し込んだ。
「浄化率、七割……」
まだ足りない。
だが、確実に届いている。
結界の中心。
ミリアの身体を絡め取っていた黒い靄が、ゆっくりと薄れていく。
「お……ねえ……さま……」
今度は、はっきりと。
元の声だった。
エルサの胸が、強く締めつけられる。
「もう少しです、耐えて」
必死に呼びかける。
だが、その瞬間。
――ぞわり。
核のさらに奥。
まだ残っていた“本体”が、明確な殺意を放った。
「……舐めるな」
低く、濁った声。
次の瞬間。
黒い瘴気が、一点へ圧縮された。
嫌な予感が、全身を貫く。
「カイル様!」
「分かっている!」
銀の魔力が、一瞬で最大出力へ跳ね上がる。
だが――
遅い。
黒い塊が、槍の形を取った。
狙いは。
結界でも、竜でもない。
まっすぐ――
エルサ本人。
「っ!」
回避は、間に合わない。
防御結界を張れば、核の固定が一瞬緩む。
その一瞬で、ミリアが持たない。
選択は、零秒。
エルサは――
動かなかった。
代わりに。
さらに魔力を核へ注ぎ込む。
「――固定、優先」
覚悟を決めた、静かな声。
次の瞬間。
黒槍が、放たれた。
だが。
エルサに届く寸前で。
――ギィン!!
凄まじい金属音が、空を裂いた。
視界の前。
銀の剣が、黒槍を真正面から叩き落としていた。
「……俺を、無視するな」
低く、冷え切った声。
いつの間にか。
カイルが、完全にエルサの前へ回り込んでいる。
片手で剣を構えたまま、黒い残滓を振り払った。
銀の瞳が、ゆっくりと細まる。
「随分と好き勝手してくれたな」
その声には、先ほどまでとは別質の怒気が滲んでいた。
守る者を傷つけられかけた獣の、それ。
結界の内側で。
黒い影が、初めて明確に“怯んだ”。
エルサの魔力が、さらに一段深く核へ届く。
「浄化率……九割」
あと少し。
本当に、あと少し。
ミリアの身体を覆っていた黒が、ぼろぼろと崩れ落ちていく。
「……いやだ……」
影の声が、かすれる。
「こんな……こんな器ごときに……!」
その瞬間。
エルサの瞳が、静かに冷えた。
「器じゃありません」
はっきりと、言い切る。
「――私の妹です」
指先の光が、最後の輝きを放った。
ぱきん。
今度こそ、決定的な破砕音が響いた。
結界の内側で、金の粒子が雪のように降り注ぐ。
触れた瘴気が、音もなくほどけていく。
「……やめろ……!」
黒い影の声が、初めて明確な焦りを帯びた。
核深層に食い込んでいた瘴気の根が、一本、また一本と焼き切れていく。
エルサは指先の震えを押さえ込み、さらに魔力を流し込んだ。
「浄化率、七割……」
まだ足りない。
だが、確実に届いている。
結界の中心。
ミリアの身体を絡め取っていた黒い靄が、ゆっくりと薄れていく。
「お……ねえ……さま……」
今度は、はっきりと。
元の声だった。
エルサの胸が、強く締めつけられる。
「もう少しです、耐えて」
必死に呼びかける。
だが、その瞬間。
――ぞわり。
核のさらに奥。
まだ残っていた“本体”が、明確な殺意を放った。
「……舐めるな」
低く、濁った声。
次の瞬間。
黒い瘴気が、一点へ圧縮された。
嫌な予感が、全身を貫く。
「カイル様!」
「分かっている!」
銀の魔力が、一瞬で最大出力へ跳ね上がる。
だが――
遅い。
黒い塊が、槍の形を取った。
狙いは。
結界でも、竜でもない。
まっすぐ――
エルサ本人。
「っ!」
回避は、間に合わない。
防御結界を張れば、核の固定が一瞬緩む。
その一瞬で、ミリアが持たない。
選択は、零秒。
エルサは――
動かなかった。
代わりに。
さらに魔力を核へ注ぎ込む。
「――固定、優先」
覚悟を決めた、静かな声。
次の瞬間。
黒槍が、放たれた。
だが。
エルサに届く寸前で。
――ギィン!!
凄まじい金属音が、空を裂いた。
視界の前。
銀の剣が、黒槍を真正面から叩き落としていた。
「……俺を、無視するな」
低く、冷え切った声。
いつの間にか。
カイルが、完全にエルサの前へ回り込んでいる。
片手で剣を構えたまま、黒い残滓を振り払った。
銀の瞳が、ゆっくりと細まる。
「随分と好き勝手してくれたな」
その声には、先ほどまでとは別質の怒気が滲んでいた。
守る者を傷つけられかけた獣の、それ。
結界の内側で。
黒い影が、初めて明確に“怯んだ”。
エルサの魔力が、さらに一段深く核へ届く。
「浄化率……九割」
あと少し。
本当に、あと少し。
ミリアの身体を覆っていた黒が、ぼろぼろと崩れ落ちていく。
「……いやだ……」
影の声が、かすれる。
「こんな……こんな器ごときに……!」
その瞬間。
エルサの瞳が、静かに冷えた。
「器じゃありません」
はっきりと、言い切る。
「――私の妹です」
指先の光が、最後の輝きを放った。
ぱきん。
今度こそ、決定的な破砕音が響いた。
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