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エピローグ
エピローグ 1
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【1】
藤咲村の惨劇から一週間。六月一日。火曜日。
あれから、俺たちが村を出ることができたのは三日後のことだった。
事件に関する聴取も、かなり長い時間付き合わされた。
藤美荘の今後はどうなるのかわからないが、由奈さんをはじめとした従業員たちは、なんとか経営を続けていけないか、千賀子さんと少しずつ話し合っていくつもりらしい。
枝橋さんも、今まで通り自警団の一員として村を守っていくことを改めて決意したらしく、別れ際には握手を交わしてくれた。
「あー、平和って良いよね。誰も殺されたりしないもん」
時刻は夕刻。午後の五時半を過ぎたばかり。
駅前の通りをミスオカ研メンバー四人で歩いていると、夕空を眺めた桜がしみじみとした口調でそう呟いた。
「何だよ突然?」
そのあまりにもしんみりした声音に苦笑いを浮かべつつ言葉を返すと、桜は若干唇を尖らせながらこちらに顔を向けてきた。
「だって、平和じゃん。普通の日常だよ? ほんの一週間前まで、殺人事件に巻き込まれてたなんて嘘だったんじゃないかなって思えてくるよ」
「ああ……それは確かに」
桜の言うことは一理ある。
あの非現実的な時間が終わり、こうして無事元の生活へ戻ってくると、あの藤咲村での出来事など本当は無かったのではないかと、錯覚しそうになる。
しかし、それはあくまで都合の良い勝手な逃避でしかなく、現実は常に身近に付きまとう。
「どうやら、昇さんはまだ黙秘を決め込んでるみたいだね。もうどう足掻いても有罪は確定なんだから諦めれば良いのに」
スマホでニュースを観ていたらしい部長が、スマホ画面を見つめながら呆れたような感想を口にした。
「きっと、必死なんだろうね。あれだけのことをしてしまった以上、ほぼ確実に死刑は免れないだろうし。情状酌量の余地もないでしょ」
「……それはそうかもですけど、死刑っていうのもなんか後味悪いですよ」
部長の発言に目元を強張らせる桜は、もうあまり関わりたくはないと言うようにうんざり気味な口調でぼやく。
「そりゃ、気分の良いものじゃないのは確かだけどね。でも、こればかりはもう僕たちが介入できる話ではないから、どうしようもない。ただの事実さ」
ひょいと肩を竦めて最後にそう付け加え、部長はスマホをポケットへしまい歩きだす。
自分たちにはもう、無関係な出来事。
部長の言うことは正しいのだろう。
正確に言えば、まだ俺たちの元に警察が話を聞きにくることはある。
でもそれは、ちょっとした確認事項程度のものでしかなく、深い関わりを持つようなことではもはやなくなってきているし、これから少しずつフェードアウトして完全なゼロになるだろう。
「――さて、僕たちはこっちだから、ここでさよならだね」
小さな交差点に差し掛かったところで、前を歩く部長が振り向いた。
蓮田と並び、左へ向かう路地を指差す。
「一応、明日からいつも通りにミスオカ研の活動を再開する予定だから、そのつもりで」
「それは別に良いですけど、もう変な旅行企てたりしないでくださいよ? ほんっとーに、こりごりですからね」
念を押すように告げ桜が身を乗り出すと、部長はわかってるよとひらひら手を振り返してみせた。
「しばらくは大人しくするよ。心配しすぎだね、桜くんは」
「しばらくじゃなくて、一生大人しくしてくださいよ! そういうとこあるからあたしが不安になるんです」
「そっかぁ。改善って難しいもんだね」
噛み付くように言う桜をものともせずにこやかな笑みで全てを受け流し、部長は蓮田にそれじゃ行こうかと声をかける。
「それじゃあ僕たちはこれで」
「お疲れ様です。蓮田も、また明日な」
「……はい」
離れる二人に軽く手を挙げ、しばらくその背中を桜と眺める。
藤咲村の惨劇から一週間。六月一日。火曜日。
あれから、俺たちが村を出ることができたのは三日後のことだった。
事件に関する聴取も、かなり長い時間付き合わされた。
藤美荘の今後はどうなるのかわからないが、由奈さんをはじめとした従業員たちは、なんとか経営を続けていけないか、千賀子さんと少しずつ話し合っていくつもりらしい。
枝橋さんも、今まで通り自警団の一員として村を守っていくことを改めて決意したらしく、別れ際には握手を交わしてくれた。
「あー、平和って良いよね。誰も殺されたりしないもん」
時刻は夕刻。午後の五時半を過ぎたばかり。
駅前の通りをミスオカ研メンバー四人で歩いていると、夕空を眺めた桜がしみじみとした口調でそう呟いた。
「何だよ突然?」
そのあまりにもしんみりした声音に苦笑いを浮かべつつ言葉を返すと、桜は若干唇を尖らせながらこちらに顔を向けてきた。
「だって、平和じゃん。普通の日常だよ? ほんの一週間前まで、殺人事件に巻き込まれてたなんて嘘だったんじゃないかなって思えてくるよ」
「ああ……それは確かに」
桜の言うことは一理ある。
あの非現実的な時間が終わり、こうして無事元の生活へ戻ってくると、あの藤咲村での出来事など本当は無かったのではないかと、錯覚しそうになる。
しかし、それはあくまで都合の良い勝手な逃避でしかなく、現実は常に身近に付きまとう。
「どうやら、昇さんはまだ黙秘を決め込んでるみたいだね。もうどう足掻いても有罪は確定なんだから諦めれば良いのに」
スマホでニュースを観ていたらしい部長が、スマホ画面を見つめながら呆れたような感想を口にした。
「きっと、必死なんだろうね。あれだけのことをしてしまった以上、ほぼ確実に死刑は免れないだろうし。情状酌量の余地もないでしょ」
「……それはそうかもですけど、死刑っていうのもなんか後味悪いですよ」
部長の発言に目元を強張らせる桜は、もうあまり関わりたくはないと言うようにうんざり気味な口調でぼやく。
「そりゃ、気分の良いものじゃないのは確かだけどね。でも、こればかりはもう僕たちが介入できる話ではないから、どうしようもない。ただの事実さ」
ひょいと肩を竦めて最後にそう付け加え、部長はスマホをポケットへしまい歩きだす。
自分たちにはもう、無関係な出来事。
部長の言うことは正しいのだろう。
正確に言えば、まだ俺たちの元に警察が話を聞きにくることはある。
でもそれは、ちょっとした確認事項程度のものでしかなく、深い関わりを持つようなことではもはやなくなってきているし、これから少しずつフェードアウトして完全なゼロになるだろう。
「――さて、僕たちはこっちだから、ここでさよならだね」
小さな交差点に差し掛かったところで、前を歩く部長が振り向いた。
蓮田と並び、左へ向かう路地を指差す。
「一応、明日からいつも通りにミスオカ研の活動を再開する予定だから、そのつもりで」
「それは別に良いですけど、もう変な旅行企てたりしないでくださいよ? ほんっとーに、こりごりですからね」
念を押すように告げ桜が身を乗り出すと、部長はわかってるよとひらひら手を振り返してみせた。
「しばらくは大人しくするよ。心配しすぎだね、桜くんは」
「しばらくじゃなくて、一生大人しくしてくださいよ! そういうとこあるからあたしが不安になるんです」
「そっかぁ。改善って難しいもんだね」
噛み付くように言う桜をものともせずにこやかな笑みで全てを受け流し、部長は蓮田にそれじゃ行こうかと声をかける。
「それじゃあ僕たちはこれで」
「お疲れ様です。蓮田も、また明日な」
「……はい」
離れる二人に軽く手を挙げ、しばらくその背中を桜と眺める。
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