電子探偵イデア~殺意に染まる白銀~

雪鳴月彦

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第二章:救助を待つ

第二章:救助を待つ 11

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 時計の針が七時半を過ぎた頃、朝食を待ちながら岩瀬さんと奈子、そしてイデアの四人で他愛のない会話をしていたあたしたちの元へ、矢津さんの奥さんである彩也子さんとその友人だという西山さんが姿を現した。

 従業員たちは朝食の準備に追われ、リビングには誰もいない。

 そんな宿泊客だけが集まるリビングを、固い表情で眺め回しながら近づいてきた彩也子さんは、挨拶もないまま岩瀬さんへと近づき声をかけてきた。

「あの、うちの主人を見かけませんでしたか?」

「え? ご主人ですか? いやぁ、俺は見かけてませんけど。どうかしました?」

 いきなり話しかけられ、少し面食らった様子を浮かべながら、岩瀬さんは小さく首を横に振ってそう言葉を返した。

 急に会話へ割り込まれたかたちになり、あたしと奈子も――ついでにイデアも――口を閉ざし、彩也子さんたち二人を見つめる。

「いえ。三十分ほど前に目を覚ましたのですが、主人の姿が見当たらなくて。トイレやバスルームにも姿がないし、既に起きて皆さんとご一緒しているのかと思ったのですが……」

「それはちょっと妙ですね。でも、従業員を含めて俺たちはもう一時間以上前から起きてこっちに集まってましたけど、旦那さんの姿は一度も見ていませんよ。てっきり、まだ寝てるんだろうと思ってたくらいで」

 不審そうな様子で告げながら、岩瀬さんがあたしたちを見てきたので、同意するように頷いておく。

「そうですか。それじゃあ、主人はどこに……?」

 途方に暮れる一歩手前といった感じで、彩也子さんはため息を吐き出す。

 たくさんの客が訪れるペンションとは言え、そんなに広いわけでもないし、このリビングとダイニング以外、共有スペースは存在しない。

 空き部屋に隠れたりでもしない限り、姿が見当たらなくなるなんて、あり得ないと思えるのだが。

「まさか、夜中に外へ出たなんてことはないよな……?」

 軽く顎を触るような仕草をしながら岩瀬さんは呟き、チラリと玄関へ続く廊下を見やる。

「お腹が空いて、夜中に車でコンビニに行ったとかですか? それで途中で立ち往生しちゃったとか。雪のせいで」

 岩瀬さんの推測に、奈子が両手を合わせるようにしながら言葉を継いだ。

「ないとは言いきれないよね。たまたま早く目が覚めてペンション内や外を散歩してるなら、こんな長時間姿を見せなくなるのはおかしいしさ」

 岩瀬さんは頷いて、おもむろに立ち上がった。

「ちょっと、玄関を確認しましょうか。靴があるかだけでもわかれば、対応の仕方も変わってくるだろうし」

「……そうですね」

 岩瀬さんへ同意し、彩也子さんは後に続くようにして玄関へと歩いていく。

「……朝から変なこと続くね。まさかあれ? 雪女にでも拐われて、神隠しにあったとか」

「やめなよ、奈子」

 ふざけたことを口にしながらあたしを見てきた奈子へ、少し強い口調で注意を促す。

 すぐ側には西山さんがいるのに、さすがに不謹慎というか、常識がない。

「あ、すみません。ほんの冗談のつもりで……」

 あたしの視線お辿って気づいたようで、奈子は一瞬ハッとした顔をしながらばつが悪そうにごまかし笑いを浮かべると、西山さんへ頭を下げた。
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