96 / 125
第三章:死者が増える
第三章:死者が増える 15
しおりを挟む
「もう、調べたいことは終わりですか?」
「ええ、ありがとう。感謝するわ」
そんなあたしを見ながらオーナーが言い、イデアが簡単な返事をする。
ガシャガシャと割と大きな音を鳴らすシャッターを下ろしたあたしはこれで良しと振り返り、オーナーへ謝罪するように頭を下げた。
「昨日といい今日といい、本当にすみませんでした。ただでさえ大変なときで、従業員の皆さんも困ってるのに、イデアの言うことなんかに付き合ってくれて……もう本気で申し訳ないです」
オーナーからすれば、変なアプリのゲームキャラ程度の認識しかないであろうイデアの発言に、ここまで動いてくれ親切に接してくれるのだから有難いとしか言いようがない。
たぶん、他のペンションやホテルとかだったら、ほぼ確実に叱られるかやんわりと拒否されて距離を置かれてしまうだけだっただろう。
「いえいえ、迷惑をおかけしているのは私たちの方ですから。さ、それではダイニングの方へ行きましょう。すぐに朝食にしますので」
「はい」
素直に従い管理室を出て、あたしはリビングへと引き返していく。
「……ねぇ、希。今日中にここから帰れないと、希が困るのは間違いないのよね?」
途中、何を思っているのかこちらを見上げたイデアがそんなことを訊ねてきたので、あたしは少し考え込むような顔を作りながら曖昧な頷きを返してみせた。
「うーん、まぁそうだね。明日以降の予定的な意味でならあたしは全然困らないけど、奈子はバイトがあるみたいだし。ただ、やっぱり殺人事件が起きた場所、それもすぐ側に犯人がいる状況じゃ、普通に恐いから。なるべくなら早く帰りたいかな」
前を歩くオーナーには聞こえぬよう、P.Uを口元へ近づけ囁くようにあたしは答える。
「それに、このままここにいたら、また誰か犠牲者がでるかもしれないでしょ? さすがにもう、そういうのは見たくないからさ」
矢津さん夫婦の死んだ姿が脳裏に浮かび、あたしは自分の顔が強張るのを自覚する。
「そう。それならやっぱり、早めに片付けた方が希のためになるということね」
「……片付けるって、何を?」
言っている意味がよくわからず、あたしはイデアを見つめる。
「ここで起きている事件よ。希がこれ以上このペンションへ留まることで不利益を被るのなら、私はそれを払拭してあげたいわ」
「払拭? え、それどういう意味?」
「朝食の前に済ませてしまいましょう。この後に少し時間をもらって、犯行を続けている犯人を告発するわ」
「はぁ!?」
つい大きな声をあげたあたしを、オーナーが振り返る。
慌てて愛想笑いでごまかし、あたしはまたイデアに口を近づけた。
「ち、ちょっとイデア、それってもう犯人わかってるってこと?」
「ええ。色々とおかしな行動をしてくれていたから、気がつくのはそう難しいことでもなかったわ」
どうということもない。そう言いたそうな涼しい表情で告げるイデアに、あたしは自分が緊張しかけていることを自覚する。
「おかしな行動って、誰のことなの? ドアのすぐ外に矢津さんを移動させた方法もわかってるの?」
「ええ、ありがとう。感謝するわ」
そんなあたしを見ながらオーナーが言い、イデアが簡単な返事をする。
ガシャガシャと割と大きな音を鳴らすシャッターを下ろしたあたしはこれで良しと振り返り、オーナーへ謝罪するように頭を下げた。
「昨日といい今日といい、本当にすみませんでした。ただでさえ大変なときで、従業員の皆さんも困ってるのに、イデアの言うことなんかに付き合ってくれて……もう本気で申し訳ないです」
オーナーからすれば、変なアプリのゲームキャラ程度の認識しかないであろうイデアの発言に、ここまで動いてくれ親切に接してくれるのだから有難いとしか言いようがない。
たぶん、他のペンションやホテルとかだったら、ほぼ確実に叱られるかやんわりと拒否されて距離を置かれてしまうだけだっただろう。
「いえいえ、迷惑をおかけしているのは私たちの方ですから。さ、それではダイニングの方へ行きましょう。すぐに朝食にしますので」
「はい」
素直に従い管理室を出て、あたしはリビングへと引き返していく。
「……ねぇ、希。今日中にここから帰れないと、希が困るのは間違いないのよね?」
途中、何を思っているのかこちらを見上げたイデアがそんなことを訊ねてきたので、あたしは少し考え込むような顔を作りながら曖昧な頷きを返してみせた。
「うーん、まぁそうだね。明日以降の予定的な意味でならあたしは全然困らないけど、奈子はバイトがあるみたいだし。ただ、やっぱり殺人事件が起きた場所、それもすぐ側に犯人がいる状況じゃ、普通に恐いから。なるべくなら早く帰りたいかな」
前を歩くオーナーには聞こえぬよう、P.Uを口元へ近づけ囁くようにあたしは答える。
「それに、このままここにいたら、また誰か犠牲者がでるかもしれないでしょ? さすがにもう、そういうのは見たくないからさ」
矢津さん夫婦の死んだ姿が脳裏に浮かび、あたしは自分の顔が強張るのを自覚する。
「そう。それならやっぱり、早めに片付けた方が希のためになるということね」
「……片付けるって、何を?」
言っている意味がよくわからず、あたしはイデアを見つめる。
「ここで起きている事件よ。希がこれ以上このペンションへ留まることで不利益を被るのなら、私はそれを払拭してあげたいわ」
「払拭? え、それどういう意味?」
「朝食の前に済ませてしまいましょう。この後に少し時間をもらって、犯行を続けている犯人を告発するわ」
「はぁ!?」
つい大きな声をあげたあたしを、オーナーが振り返る。
慌てて愛想笑いでごまかし、あたしはまたイデアに口を近づけた。
「ち、ちょっとイデア、それってもう犯人わかってるってこと?」
「ええ。色々とおかしな行動をしてくれていたから、気がつくのはそう難しいことでもなかったわ」
どうということもない。そう言いたそうな涼しい表情で告げるイデアに、あたしは自分が緊張しかけていることを自覚する。
「おかしな行動って、誰のことなの? ドアのすぐ外に矢津さんを移動させた方法もわかってるの?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる