霊媒姉妹の怪異事件録

雪鳴月彦

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第一章:憎愛の浄化

憎愛の浄化 11

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 店主が水科さんへカフェオレを持ってきたため、一度そこで話が途切れた。

 そのカフェオレを少しだけ飲み、仕切り直すように小さく息をついてから、再び話が再開する。

「琶澄、うちが付き合ってる彼氏のことが好きだったみたいで、自殺した日の夕方に告白をしたらしいの。彼はその場で断ったそうなんだけど、きっとそのことが原因で自殺したんじゃないかなって」

「彼って……確か、多田ただくんだっけ?」

 水科さんの口が止まると入れ替わりに、美都羽が問いを投げかける。

「うん、そう。多田くんは気にすることないって言ってくれてるけど、さすがにね。彼には琶澄のことが見えてないから、そんなことが言えるけど……実際に見えちゃってる立場から言わせてもらえば、気にしたくなくても到底無理だよ」

 水科さんの表情が微かに歪む。

 無理に笑おうとして失敗したようなその顔を見据えながら、私は小さく手を上げて質問があるという意思を示した。

「一つ確認したいのだけれど、今この瞬間その自殺した子は水科さんに見えているの?」

「え? 今は……ううん。見えてない。四六時中見えてるってわけでもなくて、本当にふとした瞬間に現れるの。例えば、窓の向こうの道路に立ってこっちを見てたり、家の押入れの隙間から覗き込んでたり。学校にいても、授業中にいつの間にかベランダに立って睨んできてるのを見たりもしてるから、今度はいつどんなタイミングで現れるんだろうって、気が気じゃなくて」

「……そう。それは確かに、精神的に参るわね」

 話を聞いている最中、私はずっと周囲へ気を配っていたが、水科さんの言う通り霊的な存在を感知することはできずにいた。

 水科さんの話と照らし合わせて考慮してみるに、四六時中彼女へ付きまとっているわけでもないということだ。

 ――少なくとも、憑りついているわけではないということか。

 生者に恨みを持つ悪霊が、憑りついて霊界へ引きずり込む例は割と珍しくもないが、今回に限ってはそういったパターンではないようだ。

 昼夜や場所を選ばず頻繁に姿を見せていながら、憑りついているわけではない。

 となれば、水科さんへ何かしら訴えたいこと――遺言のようなものがあると見当をつけるべきか。

 だけど、それだと何だか腑に落ちないような気もしてしまう。

 意中の男子を水科さんに取られるような――実際は取られたわけではないだろうが――かたちになった琶澄という子が、その恋敵に恨みではなくメッセージを遺したいというのはどうなのだろう。

 私自身は恋愛をした経験がないためピンとこないのが本音だが、普通であればやはり憎たらしい相手であるはずだし、そうなれば憑りついて命を奪う方向に動かなくては違和感がある。

「……ねぇ、水科先輩。あたしからも質問なんですけど、先輩はその自殺した伊藤って女子生徒とは、生前に直接会ったことはあるんですか?」

 私が思案を巡らせる僅かな合間に、夢愛が横から問いを挟んできた。

「え? あ、うん。もちろんあるよ。隣のクラスの子だったし、廊下でよく見かけてた。まともに話をしたことは一度もなかったけど、でも今になって思い返せばすれ違うときとか、頻繁に目が合ったりしてたかもしれない。ひょっとしたら、多田くんの彼女って理由で普段からこっちを意識してたのかも」

 薄気味悪そうに口元を歪め、水科さんは微かに視線を伏せる。
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