桜の喪失を救うために

雪鳴月彦

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他愛ない寄り道

他愛ない寄り道

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「でも、それだけ頭良いのに進学決めてないなんてもったいないなぁ。夜月さんの両親は、何も言わないの?」

「まぁ、特には……」

 有紀が言った両親とは桜にとっては偽の親だ。自分でやったこととは言え、あまり広げたくない話題なのだろう。

 桜は適当に言葉を濁している様子だった。

「へぇ、じゃあわたしの家とは正反対なんだ。うちの両親なんて、毎日勉強しろ勉強しろってうるさいくらいなんだから」

 そう言って、有紀は苦笑いを浮かべる。

「それは、白峰さんの将来を考えて言ってくれてるんでしょう? 良いことじゃない」

「うーん、でもねぇ、ああも毎日言われるとさすがにうんざりだよ?」

 肩を落としてため息をつく有紀を見ながら、俺はほんの少しだけ複雑な心境になった。

 ――親が家にいないのも、辛い時があるんだけどな。

 俺の父親は、仕事で海外へ出張することが多い。そのため、家にいることはほとんどない。

 今年は先月と二月に帰省していたが、今はまた家を空けている状態だ。

 母親の方も午後からのパートで仕事をしているため、残業を任された日なんかは夜の十一時を過ぎた頃に帰ってきたりしている。

 だから、俺の両親は自分の息子がいつも何時くらいに帰って来ているのか、また勉強は毎日やっているのか、そういったことをほとんど把握していないはずなのだ。

 ――ま、こんなこと、いちいち愚痴ることじゃないんだけどな。

 目的地となる本屋が見えてきたのは、学校を出てから十五分程歩いた頃だった。

 駅の近くにあるその本屋は、それなりに店内が広く普段から利用客も多い。今ぐらいの時間帯は、俺たちと同じ学生の姿が特に目立っていた。

「それじゃあ、しばらくは別行動ってことで」

 店に入るなり、桜はコミックが並べられているコーナーへと歩き去っていく。

「……夜月さん、漫画好きなんだ?」

 その後ろ姿を見送りながら、有紀が意外そうな顔で呟いた。

「みたいだな。……あ、既にもう二冊手に持ったぞ。あいつ絶対適当に選んでるな。まともに表紙すら見ちゃいねぇ……」

 喜色を浮かべて漫画本を漁る桜を、周りにいた他の客が変なものを見るような目で眺めている。

「……店出るまで他人のふりしとくかな。んじゃ、俺は適当にその辺ぶらついてるから。また後でな」

「あ、うん」

 ずっと桜を見ていた有紀は、俺の声で我に返ると慌てたように頷いた。参考書のコーナーへ向かう有紀をしばらく眺めてから、ライトノベルが置かれた棚へ移動する。

 新刊コーナーをざっと確認し、目ぼしいタイトルがないかをチェックする。

 周りの仲間は電子書籍で本を読む奴が多い中、俺はこうして本屋で直接本を探したり購入するのが好きで、こうして背表紙を眺めているだけでも全く飽きない。

 何なら、油断するとついつい気になった本をレジへ持って行ってしまいそうになってしまうため、自制心を働かせているくらいだ。

 適当に本棚を眺め、ゲーム雑誌の方も見てみようかなと思いかけた矢先、背後からぽんと肩を叩かれた。

「雄治は何も買わないの?」

 振り返ると、買い物を終えたらしき桜が、こちらの手元を覗き込んできたところだった。

「ああ、あんま金ないからな。今日は我慢することにした。近々ゲームも買いてぇのあるし。てか、もう買い物済ませたのかよ」

 自由行動を宣言して、まだそれほど経っていない。それにも関わらず、いったい何冊買い込んだのか、悪魔少女の手には良い感じに膨らんだ店の袋が握られていた。
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