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桜の真実
桜の真実
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桜の能力が通じないこと、異世界のモンスターを召喚できること、摩訶不思議な方法で獣人を消去したこと。
最初、敵は複数いるのかとも疑ったのだが、検討違いも甚だしかった。
――それじゃあ、桜の記憶から狼男に関する部分が欠如したのは……。
気づき、そっと桜を見やる。この真実に何を思っているのか、当の本人は呆然としたように片桐を見つめていた。
「……なぁ、桜。お前、今あいつが消したドラゴン、見てたか?」
そんな彼女へ、恐る恐る訊ねてみる。
「え……? 何の話?」
はっとしたようにこちらを向くと、桜はぼんやりと首を傾げてみせた。
「あいつの側にいたドラゴンだよ。今、消してみせただろ?」
「ドラゴン……?」
昼間のやり取りの繰り返しになった。この様子からして、桜の頭からは既にドラゴンの情報はリセットされている。
「結局、全部か……」
意図せず、声が漏れる。
全ての疑問や不安要素は、片桐の能力によって生まれたもの。
「納得してくれたかい? 本音を言うとね、長沢くんには申し訳ないことをしたと思っているんだよ。わざとじゃないとは言え、僕の実験に巻き込んでしまうようなかたちになっちゃったみたいだからさ」
若干困ったように表情を歪ませ、片桐はすまなそうに告げる。
「実験……?」
「そう。僕はこの自分の能力をもっと理解し、磨きたい。今より更に強力で、世界全体に干渉するくらいのレベルまで。そうすれば、このリアルを舞台に僕の壮大な創作世界を融合させられる。未だかつてない、最高のエンターテイメントを実現できるんだ」
「……お前は、この世界を壊すつもりなのか?」
相手の言おうとすることがはっきり掴めず、俺は悦に入った様子で語る片桐へ疑念の眼差しを向けた。
「まさか。大事な舞台を壊すわけないだろ? 僕はね、本や映像の中ではなくて、このリアルで自分の創り上げたストーリーを展開してみたいだけさ。自分が考えたキャラクターや設定が、現実に反映されるなんてわくわくしないかい?」
嬉々とした声音で自らの理想を述べる片桐は、まるで少年のような好奇心に満ちた表情をみせた。
「……そんな自己満足のために、狼男やドラゴンを生み出したって言うのか? そのせいで犠牲者も出たんだぞ?」
駅前で発生した猟奇殺人。あの犯人は、間違いなく狼男だ。
自分の妄想を具現化させ無関係の人を殺しておきながら、わくわくするなどと喜んでいられる神経は理解できない。
「あれは仕方ないよ。理想を実現させるための、必要な犠牲だ」
「なっ……?」
「大体、僕は法律に違反することは何もしていない。僕に罪はないんだ」
その言い方は、あまりにも軽いものだった。興味のない話に仕方なく答えるかのように、涼しい表情で恐ろしいことを言う。
「お前のせいで人が死んでんだぞ……」
嫌悪を覚えながら、呻く。
「そうなるのかな? でもおかげで、僕のキャラクターが現実の人間に命を奪うほどの影響を与えられることも確かめられた。感謝はするよ。これで、僕の創り出す物語はよりリアルになるんだから」
グラリと視界が揺らめくような心地を味わう。正面に立つ男は、こちらが覚悟していた以上に普通ではない。本能的に、そう悟った。
自分の考えたストーリーを現実へ干渉させ、空想をこのリアルで再現する。簡潔に言えば、片桐が企んでいるのはこういうことになるのだろう。
最初、敵は複数いるのかとも疑ったのだが、検討違いも甚だしかった。
――それじゃあ、桜の記憶から狼男に関する部分が欠如したのは……。
気づき、そっと桜を見やる。この真実に何を思っているのか、当の本人は呆然としたように片桐を見つめていた。
「……なぁ、桜。お前、今あいつが消したドラゴン、見てたか?」
そんな彼女へ、恐る恐る訊ねてみる。
「え……? 何の話?」
はっとしたようにこちらを向くと、桜はぼんやりと首を傾げてみせた。
「あいつの側にいたドラゴンだよ。今、消してみせただろ?」
「ドラゴン……?」
昼間のやり取りの繰り返しになった。この様子からして、桜の頭からは既にドラゴンの情報はリセットされている。
「結局、全部か……」
意図せず、声が漏れる。
全ての疑問や不安要素は、片桐の能力によって生まれたもの。
「納得してくれたかい? 本音を言うとね、長沢くんには申し訳ないことをしたと思っているんだよ。わざとじゃないとは言え、僕の実験に巻き込んでしまうようなかたちになっちゃったみたいだからさ」
若干困ったように表情を歪ませ、片桐はすまなそうに告げる。
「実験……?」
「そう。僕はこの自分の能力をもっと理解し、磨きたい。今より更に強力で、世界全体に干渉するくらいのレベルまで。そうすれば、このリアルを舞台に僕の壮大な創作世界を融合させられる。未だかつてない、最高のエンターテイメントを実現できるんだ」
「……お前は、この世界を壊すつもりなのか?」
相手の言おうとすることがはっきり掴めず、俺は悦に入った様子で語る片桐へ疑念の眼差しを向けた。
「まさか。大事な舞台を壊すわけないだろ? 僕はね、本や映像の中ではなくて、このリアルで自分の創り上げたストーリーを展開してみたいだけさ。自分が考えたキャラクターや設定が、現実に反映されるなんてわくわくしないかい?」
嬉々とした声音で自らの理想を述べる片桐は、まるで少年のような好奇心に満ちた表情をみせた。
「……そんな自己満足のために、狼男やドラゴンを生み出したって言うのか? そのせいで犠牲者も出たんだぞ?」
駅前で発生した猟奇殺人。あの犯人は、間違いなく狼男だ。
自分の妄想を具現化させ無関係の人を殺しておきながら、わくわくするなどと喜んでいられる神経は理解できない。
「あれは仕方ないよ。理想を実現させるための、必要な犠牲だ」
「なっ……?」
「大体、僕は法律に違反することは何もしていない。僕に罪はないんだ」
その言い方は、あまりにも軽いものだった。興味のない話に仕方なく答えるかのように、涼しい表情で恐ろしいことを言う。
「お前のせいで人が死んでんだぞ……」
嫌悪を覚えながら、呻く。
「そうなるのかな? でもおかげで、僕のキャラクターが現実の人間に命を奪うほどの影響を与えられることも確かめられた。感謝はするよ。これで、僕の創り出す物語はよりリアルになるんだから」
グラリと視界が揺らめくような心地を味わう。正面に立つ男は、こちらが覚悟していた以上に普通ではない。本能的に、そう悟った。
自分の考えたストーリーを現実へ干渉させ、空想をこのリアルで再現する。簡潔に言えば、片桐が企んでいるのはこういうことになるのだろう。
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