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未来へ
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「反対、とは言わねぇよ。ただ、俺にどうこうできる規模の話じゃないだろ? 万が一、本当にお前を人間にできる能力者がいたとして、そいつが海外に住んでる外人ならどうする? パスポート作って会いに行くってか? 勘弁だぞ」
「作ればいいじゃん。そのパスポート。どうやって作るの?」
「知らん。勝手に調べろ」
ヒラヒラと手を振って、この話題はおしまいだと合図する。
「酷いなー」
それでも桜は、ブツブツと文句をぼやく。これで潔く引き下がるとは思えないが、それでもせめてこちらのやる気の無さくらいは伝わってくれただろう。
それくらいの期待は込めて一旦気持ちを切り替えようと――思う間もなく。
「なんか納得いかない。雄治がどう言おうと、絶対手伝ってもらうから。強制で」
「……何言ってんだお前は」
「いざとなったら、あれだね。雄治の記憶いじってでも無理矢理――」
「ふざけんな馬鹿。んなことされてたまるか」
慌てて、俺は逸らしていた顔を桜へ戻す。
「だったらちゃんと手伝ってよ。あたし一人でどうすれば良いのよ? 空だって飛べないし」
別に飛ばなくて良いだろ。そんな愚痴がこぼれかけ、直前で飲み込む。
頭の中に、ふと思い出す光景があった。あれは確か、学校の教室でのやり取りだったか。
“――あたしはあなたを信頼してるの”
以前言っていた、彼女の言葉。この意識は、今もまだ彼女の中で変わることなくあるのだろうか。
「あ、いざとなったらあれかも。雄治の家に住み着いて、部屋奪ったりとかしてみたり。雄治の部屋、結構広いもんね」
一つの小さな問題が解決しても、まだ彼女がこの世界で孤独なことには変わりがない。それどころか、真実を知ったことで、より孤独感は増大しているのではないか。
それゆえに、人間としてこの世界に加わり、生きていきたいと思っているのであれば。
――なんとも、重い話だな。
冷静になって彼女の心情を想像したら、鉛のような鈍いため息が漏れた。こんな重い問題を俺にだけ支えさせようとするのだから、堪ったもんじゃない。
「真面目な顔になってるけど、どうしたの? 酷いこと言ったの反省してる?」
「反省しなきゃいけないようなことをした覚えがないな」
適当に答えながら前方を、まだ先の続く道を見据える。
「ただ、お前のその俺に対する扱いの酷さには慈悲がないなと、しみじみ実感してたところだよ」
これは正確でないが、嘘でもない。そんな内容の返答でこちらの思考をごまかして、相手の反応を窺う。
「そりゃ、雄治はあたしの言うこと聞かなきゃいけないんだから、当たり前だよ。だから、」
そこでわざとらしく間を空けて、桜は愉快そうに目を細める。
「諦めて、あたしのお願いを聞きなさい」
「……本っ当に、わがままだよなその性格。容赦ねーわ」
やれやれだなと肩を竦めつつ、俺も苦笑に近い笑みを浮かべる。それを同意の印と受け取ってか、桜はさらに笑みを大きくした。
「それは仕方ないでしょ? だって――」
ぴょん、と跳ねるような軽快な足取りで、桜が前に出る。こうして見るだけなら、ただの女子高生でしかないのになと、彼女の挙動を目で追いながら考えた。
二メートル程先行してくるりと振り向く桜の表情には、憎らしいくらいに無邪気な笑顔が広がっていた。
こういう笑顔を、小悪魔のような笑みというのかもしれない。
ぼんやりとそんなことを思う俺をよそに、少女は後ろで手を組み上機嫌に言葉を続けた。
「――何と言っても、あたしは悪魔ですから」
変なところで単純で、そのくせ横柄でわがままな部分があり、それでも無邪気で優しくもあるこの悪魔少女。そんな彼女に振り回される日々は、まだまだ続くのだろう。
根拠はなくとも、目の前の不敵な笑顔を見てるとそう確信できてしまう。
「まったく……」
どうしようもないなという気持ちと諦めを込めて俺は、春には色鮮やかに咲き乱れるであろう道の向こうに前途多難な未来と、そこを二人で歩く姿を想像した。
完
「作ればいいじゃん。そのパスポート。どうやって作るの?」
「知らん。勝手に調べろ」
ヒラヒラと手を振って、この話題はおしまいだと合図する。
「酷いなー」
それでも桜は、ブツブツと文句をぼやく。これで潔く引き下がるとは思えないが、それでもせめてこちらのやる気の無さくらいは伝わってくれただろう。
それくらいの期待は込めて一旦気持ちを切り替えようと――思う間もなく。
「なんか納得いかない。雄治がどう言おうと、絶対手伝ってもらうから。強制で」
「……何言ってんだお前は」
「いざとなったら、あれだね。雄治の記憶いじってでも無理矢理――」
「ふざけんな馬鹿。んなことされてたまるか」
慌てて、俺は逸らしていた顔を桜へ戻す。
「だったらちゃんと手伝ってよ。あたし一人でどうすれば良いのよ? 空だって飛べないし」
別に飛ばなくて良いだろ。そんな愚痴がこぼれかけ、直前で飲み込む。
頭の中に、ふと思い出す光景があった。あれは確か、学校の教室でのやり取りだったか。
“――あたしはあなたを信頼してるの”
以前言っていた、彼女の言葉。この意識は、今もまだ彼女の中で変わることなくあるのだろうか。
「あ、いざとなったらあれかも。雄治の家に住み着いて、部屋奪ったりとかしてみたり。雄治の部屋、結構広いもんね」
一つの小さな問題が解決しても、まだ彼女がこの世界で孤独なことには変わりがない。それどころか、真実を知ったことで、より孤独感は増大しているのではないか。
それゆえに、人間としてこの世界に加わり、生きていきたいと思っているのであれば。
――なんとも、重い話だな。
冷静になって彼女の心情を想像したら、鉛のような鈍いため息が漏れた。こんな重い問題を俺にだけ支えさせようとするのだから、堪ったもんじゃない。
「真面目な顔になってるけど、どうしたの? 酷いこと言ったの反省してる?」
「反省しなきゃいけないようなことをした覚えがないな」
適当に答えながら前方を、まだ先の続く道を見据える。
「ただ、お前のその俺に対する扱いの酷さには慈悲がないなと、しみじみ実感してたところだよ」
これは正確でないが、嘘でもない。そんな内容の返答でこちらの思考をごまかして、相手の反応を窺う。
「そりゃ、雄治はあたしの言うこと聞かなきゃいけないんだから、当たり前だよ。だから、」
そこでわざとらしく間を空けて、桜は愉快そうに目を細める。
「諦めて、あたしのお願いを聞きなさい」
「……本っ当に、わがままだよなその性格。容赦ねーわ」
やれやれだなと肩を竦めつつ、俺も苦笑に近い笑みを浮かべる。それを同意の印と受け取ってか、桜はさらに笑みを大きくした。
「それは仕方ないでしょ? だって――」
ぴょん、と跳ねるような軽快な足取りで、桜が前に出る。こうして見るだけなら、ただの女子高生でしかないのになと、彼女の挙動を目で追いながら考えた。
二メートル程先行してくるりと振り向く桜の表情には、憎らしいくらいに無邪気な笑顔が広がっていた。
こういう笑顔を、小悪魔のような笑みというのかもしれない。
ぼんやりとそんなことを思う俺をよそに、少女は後ろで手を組み上機嫌に言葉を続けた。
「――何と言っても、あたしは悪魔ですから」
変なところで単純で、そのくせ横柄でわがままな部分があり、それでも無邪気で優しくもあるこの悪魔少女。そんな彼女に振り回される日々は、まだまだ続くのだろう。
根拠はなくとも、目の前の不敵な笑顔を見てるとそう確信できてしまう。
「まったく……」
どうしようもないなという気持ちと諦めを込めて俺は、春には色鮮やかに咲き乱れるであろう道の向こうに前途多難な未来と、そこを二人で歩く姿を想像した。
完
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