桜の喪失を救うために

雪鳴月彦

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出会い

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 一歩進む度に、ジャリジャリという音が耳に響く。

 万が一にでも、警備員がいたらあっさりと捕まってしまうのではないかと不安になるが、こんな場所を頻繁に警備する必要性なんかないだろうし、今のところ人の気配など微塵も感じない。

 ――ま、人がいたらそっちの方が怖いわな。

 正直に暴露すると、俺は幽霊や呪いみたいなものは信じていない。はっきり言って馬鹿馬鹿しいとすら思っているくらいだ。

 だから、この罰ゲームを執行されたときも怖いから嫌だというより、面倒くさいから嫌だという感情の方があからさまに大きかった。

 大体、こんな廃墟を歩き回ったから何だと言うのか。

 浮浪者でも住んでるなら襲われる危険があるため警戒もするが、生憎ここにそんな者が存在する様子はない。ならば、せいぜい建物の老朽化による物理的な被害。

 それに対する注意が必要になるくらいのもので、死んだ人間が現れるなんて空想世界のお話だろうに。

 ――とは言え、そんなこと言ったら代わりにどんな罰ゲーム用意されるかわかったもんじゃねーし。

 ぶっちゃけ、罰ゲームの内容を聞かされたときは、鼻で笑ってやろうかと思ったくらいだった。

 しかし、ぬいぐるみを探して持ってくるだけで済むのなら、あえて嫌がるふりでもしておいた方が都合が良いと即座に判断し自重しておいたのだ。

 階段を昇り終え、俺は長く伸びる通路に視線を這わせた。

 月明かりで青白く照らされた通路は、静謐に支配されたように無音の世界を作り上げている。

 いつ誰が描いたのかわからない、壁の落書き。割れてその役割を果たせなくなった窓ガラス。床に散らばる空き缶や菓子袋。

 それらを軽く一瞥してから、俺はゆっくりと歩みを再開した。

 手前の部屋から順番に調べ、少しずつ先へ進んでいく。

 やがて、ちょうど通路の中央に設けられたトイレの中までを調べ終えると、俺は疲れを滲ませた息を吐いた。

“ぬいぐるみはすぐ見つけられるように置いてきたから、せいぜい頑張ってこいよ”

 友人が笑いながら告げた言葉を思い返す。

「あいつら、人のこと騙したんじゃねぇだろうな……」

 部屋の一つ一つは、ほとんど何も残されていないため中はがらんとしている。そのために、探し物をするにはそれほど手間がかかるわけでもなくスムーズに進んではいるのだが。

 これで最終的にどこにもありませんでしたとなったら、明日にでも悪友達を締め上げるしか選択肢はない。

「運が悪いのか何なのか……。そろそろ見つかってくれても良さそうなもんだけど」

 残り半分の通路を見つめ、一人肩を竦める。

 もう、さっさと終わらせてしまおう。そう思い、再び足を動かしかけたときだった。

 どこか、すぐ近くの部屋からコトリッという僅かな物音が鳴ったのが耳に届いた。

 「……?」

 既に探索を済ませた方向ではない。

 まだ自分が調べていない部屋のどこか。それも、かなり近い。せいぜい、二つか三つ先の部屋からだ。

 まさか、誰かいるのだろうか。そんな不安が胸に広がる。

 懐中電灯の明かりを消して、しばらく気配を探ってみる。

 だが、一分ほど動くことなく立ち尽くしていても、特別何も異変は起こらない。
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