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第一章:偽りの招待状
偽りの招待状 4
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八月一日、火曜日。午前十時三十分。
海上に広がる水平線は、普段の生活では全く馴染みのない斬新な光景としてあたしの目に映った。
宮崎県にある漁港から用意されていたチャーター船に乗り込み、波に揺られ始めて三十分。
船に乗る、ということ自体が初体験なあたしはさっきまで船酔いするかもしれないと不安になっていたことすら忘れて、ついついはしゃいだ声を出してしまう。
「海だよお兄ちゃん。あたしたち、今海の上にいるよ! 砂浜とかじゃなくて、完全な海の上だよ!」
「それはそうだろう。船に乗って陸上を走られても困る」
あたしが想像していたよりも二回りくらい大きなチャーター船。
その甲板の手摺にもたれながら、お兄ちゃんは潮風に白髪を揺らしながら無感情な声を漏らす。
「もう! 船だよ船! あたしたち初めて乗ったんだからさ、もう少しくらい感激したりしないかなぁ」
あまりにつまらなすぎるお兄ちゃんの反応に頬を膨らませるあたしを、側に立っていた絵馬さんが笑いながら見つめる。
「本当に、マリネちゃんは恭一のこと好きなのね。兄妹だって知らない人から、見たら少し年の離れた恋人同士みたい」
「うぇ……!? こ、こい、恋人って、そんな……、い、いきなり何を言い出すんですか! あたしとお兄ちゃんは別にそんなやましい関係とかじゃ全然ないですから! 何か微妙に頼りなくてほっとけないから、世話してあげてるだけで……」
いきなり変なことを言われてテンパってしまうあたしを横目に、お兄ちゃんは深くため息をつき、絵馬さんは浮かべていた笑みをさらに強くした。
「あの……、こんにちは。皆さん仲が良さそうですけど、お知り合い同士なんですか?」
くだらないやり取りをするあたしたち三人の元へ、いつの間にか近づいてきていた女性が一人。
若い。たぶんだけど、お兄ちゃんとそう変わらない年齢かと思う。
細身にジーンズ、青いシャツ姿が妙に健康的に映り、つい見とれてしまった。
「あ、ええ。学生時代からの友人で。本当は私一人で来る予定だったんですけど、不安だから一緒についてきてもらったんです」
現れた女性に社交辞令の笑みを返しながら、絵馬さんはお兄ちゃんを手で示した。
「白沼 恭一。こっちは妹のマリネだ」
すっごいどうでも良さそうに、あたしを顎で紹介するお兄ちゃん。
「月美坂 葵です。普段は海外ボランティアの活動をしています。あ、これどうぞ」
無邪気と言った表現がピッタリな笑顔で、葵さんと名乗った女性はペットボトルのお茶を差し出してきた。
「この船に積んであったんです。招待した人が用意してくれていたみたいで」
そう説明をしてくれながら、葵さんの目が絵馬さんへ向けられる。
「えっと、失礼ですけどお名前は?」
「あ、ごめんなさい。私は絵馬 詩織です。都内の高校で現国の教師をしています」
「教師? すごい、教養のある方なんですね」
感心したような声を漏らし、葵さんは絵馬さんにもお茶を渡す。
「いえ、別にそんなことはないですけど……」
苦笑しながらそれを受け取り、絵馬さんは船の進む先を一瞥した。
「でも、こんな本州から離れた場所にテーマパークなんて作って、お客さんが集まるんですかね? 何か大きな目玉でもあるのかしら」
「テーマパーク?」
世間話をするつもりで口にしたのだろう絵馬さんの言葉に、葵さんは不思議そうに首を傾げる。
「テーマパークって、何のことですか? 娯楽施設でも併設されてるんですか?」
「え? いえ、テーマパークのモニターに選ばれて来られたんでしょう?」
「……何の話です? あたしは新設したボランティア団体のシンポジウムがあるからって、案内状が届いて出席をしたんですけど」
八月一日、火曜日。午前十時三十分。
海上に広がる水平線は、普段の生活では全く馴染みのない斬新な光景としてあたしの目に映った。
宮崎県にある漁港から用意されていたチャーター船に乗り込み、波に揺られ始めて三十分。
船に乗る、ということ自体が初体験なあたしはさっきまで船酔いするかもしれないと不安になっていたことすら忘れて、ついついはしゃいだ声を出してしまう。
「海だよお兄ちゃん。あたしたち、今海の上にいるよ! 砂浜とかじゃなくて、完全な海の上だよ!」
「それはそうだろう。船に乗って陸上を走られても困る」
あたしが想像していたよりも二回りくらい大きなチャーター船。
その甲板の手摺にもたれながら、お兄ちゃんは潮風に白髪を揺らしながら無感情な声を漏らす。
「もう! 船だよ船! あたしたち初めて乗ったんだからさ、もう少しくらい感激したりしないかなぁ」
あまりにつまらなすぎるお兄ちゃんの反応に頬を膨らませるあたしを、側に立っていた絵馬さんが笑いながら見つめる。
「本当に、マリネちゃんは恭一のこと好きなのね。兄妹だって知らない人から、見たら少し年の離れた恋人同士みたい」
「うぇ……!? こ、こい、恋人って、そんな……、い、いきなり何を言い出すんですか! あたしとお兄ちゃんは別にそんなやましい関係とかじゃ全然ないですから! 何か微妙に頼りなくてほっとけないから、世話してあげてるだけで……」
いきなり変なことを言われてテンパってしまうあたしを横目に、お兄ちゃんは深くため息をつき、絵馬さんは浮かべていた笑みをさらに強くした。
「あの……、こんにちは。皆さん仲が良さそうですけど、お知り合い同士なんですか?」
くだらないやり取りをするあたしたち三人の元へ、いつの間にか近づいてきていた女性が一人。
若い。たぶんだけど、お兄ちゃんとそう変わらない年齢かと思う。
細身にジーンズ、青いシャツ姿が妙に健康的に映り、つい見とれてしまった。
「あ、ええ。学生時代からの友人で。本当は私一人で来る予定だったんですけど、不安だから一緒についてきてもらったんです」
現れた女性に社交辞令の笑みを返しながら、絵馬さんはお兄ちゃんを手で示した。
「白沼 恭一。こっちは妹のマリネだ」
すっごいどうでも良さそうに、あたしを顎で紹介するお兄ちゃん。
「月美坂 葵です。普段は海外ボランティアの活動をしています。あ、これどうぞ」
無邪気と言った表現がピッタリな笑顔で、葵さんと名乗った女性はペットボトルのお茶を差し出してきた。
「この船に積んであったんです。招待した人が用意してくれていたみたいで」
そう説明をしてくれながら、葵さんの目が絵馬さんへ向けられる。
「えっと、失礼ですけどお名前は?」
「あ、ごめんなさい。私は絵馬 詩織です。都内の高校で現国の教師をしています」
「教師? すごい、教養のある方なんですね」
感心したような声を漏らし、葵さんは絵馬さんにもお茶を渡す。
「いえ、別にそんなことはないですけど……」
苦笑しながらそれを受け取り、絵馬さんは船の進む先を一瞥した。
「でも、こんな本州から離れた場所にテーマパークなんて作って、お客さんが集まるんですかね? 何か大きな目玉でもあるのかしら」
「テーマパーク?」
世間話をするつもりで口にしたのだろう絵馬さんの言葉に、葵さんは不思議そうに首を傾げる。
「テーマパークって、何のことですか? 娯楽施設でも併設されてるんですか?」
「え? いえ、テーマパークのモニターに選ばれて来られたんでしょう?」
「……何の話です? あたしは新設したボランティア団体のシンポジウムがあるからって、案内状が届いて出席をしたんですけど」
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