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第一章:偽りの招待状
偽りの招待状 22
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「どうだった?」
木ノ江さんの検死は三十分くらいの時間をかけて終了した。
部屋へ飛び込んできたときよりも明らかに顔色を悪くした木ノ江さんは、深いため息をつきながらふるふると首を横に振る。
「駄目ですね。既に亡くなっていました。わたしもはっきりと正確な検死ができたわけではないですけど、亡くなったのは大体今から約二時間前くらいでしょうか」
「二時間……」
部屋の時計を確認すると、現在は午後の二時四分。
つまり、絵馬さんが亡くなったのは正午前後ってことになる。
「確か、談話室で全員が解散したのは……十一時半の少し前くらいだったか。その時点で、絵馬は体調不良を訴えていた。死因は何だかわかるか?」
まるで不機嫌そうに腕を組み、お兄ちゃんは瞳だけを木ノ江さんへ向けて訊ねる。
「……まず、外部に何らかの傷や打撲のような痕跡は見当たりませんでしたので、外的要因は何もなかったと言えるでしょう。その上でですが、死体の状況からして恐らくは呼吸困難による呼吸停止。簡単に言えば、窒息死ではないかと」
そう返答する木ノ江さんの眉間には、何故か不審そうというか釈然としないとでも言いたげに皺が寄っていた。
「絵馬さんは、何か持病を患ったりはしていたんですか?」
「わからない。荷物やポケットには、特に薬のようなものは見当たらなかった。常に何かを服用していたわけではなさそうだが」
呻くように答えて、お兄ちゃんは暫く床へ視線を落とす。
それから、再び木ノ江さんに向き直り、
「絵馬の死因が毒殺的なものだとしたら、どんな毒物を使ったと考えることができる?」
「お兄ちゃん?」
いきなり飛び出したその台詞に慌てて腕を掴んで止めようとするも、気づいていないのかと思うくらいに無視されてしまった。
「どんなって、色々種類はありますけど、有名なのはテトロドトキシンとかでしょうか。フグなどに含まれている毒で吐き気や頭痛などの症状が出た後、血圧低下や運動障害、呼吸困難に陥り最終的には呼吸停止。死亡してしまいます。個人差がありますけれど、発症の早い人では二時間もかからずに亡くなるケースもある非常に危険な毒です」
「テトロドトキシン……それは、液体に溶かすことは?」
「溶けますよ。と言うより、性質上溶けやすいです」
お兄ちゃんの表情が、一段と険しくなる。
「世話人。オレたちがここへ到着してからすぐ、全員にアイスコーヒーを配ったな?」
「え? ……あ、はい。そうでしたね。それが、どうかいたしましたか?」
急に話を振られたせいか、川辺さんは少しだけ不意を突かれたようになりながら小さく首肯した。
「そのときのコップは?」
「は?」
「コップだ。コーヒーを飲み終えた後のコップ。もう洗ってしまったのか?」
「あ、いえ。色々とやることが立て込んでいまして、昼食の片付けと一緒に洗おうと思いそのままに……」
なまけていたのがばれたバイトみたいな歯切れの悪い口調で川辺さんが告げると、お兄ちゃんは即座に部屋の入口へと身体を反転させた。
「コップがあるのは調理場か?」
「はい、そうですが……」
「どこに置いてある? 今すぐに教えてくれ」
振り返ることなく言って、ドアを開け廊下へ出るお兄ちゃん。
「そのコップを調べれば、絵馬に毒が盛られたかどうかを確かめることができるかもしれない」
「どうだった?」
木ノ江さんの検死は三十分くらいの時間をかけて終了した。
部屋へ飛び込んできたときよりも明らかに顔色を悪くした木ノ江さんは、深いため息をつきながらふるふると首を横に振る。
「駄目ですね。既に亡くなっていました。わたしもはっきりと正確な検死ができたわけではないですけど、亡くなったのは大体今から約二時間前くらいでしょうか」
「二時間……」
部屋の時計を確認すると、現在は午後の二時四分。
つまり、絵馬さんが亡くなったのは正午前後ってことになる。
「確か、談話室で全員が解散したのは……十一時半の少し前くらいだったか。その時点で、絵馬は体調不良を訴えていた。死因は何だかわかるか?」
まるで不機嫌そうに腕を組み、お兄ちゃんは瞳だけを木ノ江さんへ向けて訊ねる。
「……まず、外部に何らかの傷や打撲のような痕跡は見当たりませんでしたので、外的要因は何もなかったと言えるでしょう。その上でですが、死体の状況からして恐らくは呼吸困難による呼吸停止。簡単に言えば、窒息死ではないかと」
そう返答する木ノ江さんの眉間には、何故か不審そうというか釈然としないとでも言いたげに皺が寄っていた。
「絵馬さんは、何か持病を患ったりはしていたんですか?」
「わからない。荷物やポケットには、特に薬のようなものは見当たらなかった。常に何かを服用していたわけではなさそうだが」
呻くように答えて、お兄ちゃんは暫く床へ視線を落とす。
それから、再び木ノ江さんに向き直り、
「絵馬の死因が毒殺的なものだとしたら、どんな毒物を使ったと考えることができる?」
「お兄ちゃん?」
いきなり飛び出したその台詞に慌てて腕を掴んで止めようとするも、気づいていないのかと思うくらいに無視されてしまった。
「どんなって、色々種類はありますけど、有名なのはテトロドトキシンとかでしょうか。フグなどに含まれている毒で吐き気や頭痛などの症状が出た後、血圧低下や運動障害、呼吸困難に陥り最終的には呼吸停止。死亡してしまいます。個人差がありますけれど、発症の早い人では二時間もかからずに亡くなるケースもある非常に危険な毒です」
「テトロドトキシン……それは、液体に溶かすことは?」
「溶けますよ。と言うより、性質上溶けやすいです」
お兄ちゃんの表情が、一段と険しくなる。
「世話人。オレたちがここへ到着してからすぐ、全員にアイスコーヒーを配ったな?」
「え? ……あ、はい。そうでしたね。それが、どうかいたしましたか?」
急に話を振られたせいか、川辺さんは少しだけ不意を突かれたようになりながら小さく首肯した。
「そのときのコップは?」
「は?」
「コップだ。コーヒーを飲み終えた後のコップ。もう洗ってしまったのか?」
「あ、いえ。色々とやることが立て込んでいまして、昼食の片付けと一緒に洗おうと思いそのままに……」
なまけていたのがばれたバイトみたいな歯切れの悪い口調で川辺さんが告げると、お兄ちゃんは即座に部屋の入口へと身体を反転させた。
「コップがあるのは調理場か?」
「はい、そうですが……」
「どこに置いてある? 今すぐに教えてくれ」
振り返ることなく言って、ドアを開け廊下へ出るお兄ちゃん。
「そのコップを調べれば、絵馬に毒が盛られたかどうかを確かめることができるかもしれない」
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