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第二章:断罪決行
断罪決行 9
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「なるほど、それは良いアイディアだ。できればそれで頼みたい」
コクリと頷きお兄ちゃんが同意をみせると、みんなはぞろぞろと立ち上がる。
談話室の造りは、名前とは裏腹にシンプルなものとなっている。
学校の教室よりも、ちょっとだけ広い空間。その真ん中に大きな長テーブルが置かれ、左右向かい合うようにして六人分の椅子が並べられているだけ。
壁には一枚の絵もかけられておらず、設置された棚にも金魚鉢の他には空の花瓶や百均にでも売ってそうな安っぽい置物が少々。
たったそれだけで、本の一冊もありはしない。
もしもこんな場所で一人時間を潰せなんて言われたら、やることがなさ過ぎて一時間もせずに飽きてしまうだろう。
せいぜい、金魚を眺めてぼんやりするくらいのことしか思いつけないし。
「……これで合ってるよな?」
席の移動が終わり、みんな改めて腰を落ち着ける。
現在立っているのは、川辺さんとお兄ちゃんのみ。
川辺さんはみんなに今後の説明をしたりコーヒーを配る立場であったため、元から座っていた席は存在しない。
そして、それを踏まえての席順。
まず廊下側にあたる椅子には、前から順に花面さん、木ノ江さん、美九佐さん、笠島さん、伊藤さん、空席という配置に。
そして向かい側。教室で言えば窓側にあたる列には、空席、あたし、お兄ちゃん、絵馬さん、貴道さん、葵さんの順で座っていた。
この中で絵馬さんに近い位置に座っていたのは、左右にいたお兄ちゃんと貴道さん。
そして、正面に座っていた笠島さんの三人。
お兄ちゃんと貴道さんは絵馬さんまでの距離はゼロと言って良いくらいに近いけど、笠島さんはテーブルを挟んでいるため身を乗り出し手を伸ばしでもしない限り届くことはない。
つまり。
「この配置だと、絵馬のコップに毒を入れるチャンスが一番あったのはオレとあんたら二人ということになるが……、ここでそんな不審な行動を取れば、すぐ誰かが気がつくような状態だな。難しいと言えば難しいか」
と言う感じ。
お兄ちゃん、貴道さん、笠島さんの三人ですら、さり気なくを装ってもばれずに他人のコップに細工するのは難しいのに、それ以外の人は尚更不可能な状態だ。
どう頑張っても目立つ。
「おっと、まさかここで私が疑われるのかい?」
驚きよりもきょとんとした表情で、貴道さんがお兄ちゃんを見上げる。
「ふざけるなよ。あのとき、俺もその男も絵馬と言う女のコップになんぞ触ってはいないぞ。真正面に座っていたんだ。もし誰かがそんなことをすれば嫌でも気づく」
笠島さんもお兄ちゃんを見上げて――と言うか睨んで――、むっつりとした口調で言葉を吐き出した。
「そう。それはオレも考えていた。あのとき、コーヒーが各自に行き渡ってから先は、誰一人絵馬のコップに触れた者はいなかったと記憶している。そうなると、今度は絵馬がコップを手に取るより前に、毒が入れられたと考えなければいけなくなるわけだな」
「は? 配られる前に毒って……そしたら、犯人は一人しかいないじゃないか。あのときそのコーヒーを用意して持ってきたのは、川辺さんだぜ?」
伊藤さんの指摘に、全員が壁際に立つ川辺さんへ視線を向けた。
「な……っ? いえ、待ってください。わたくしはそんな、絵馬様に毒を飲ませるような真似はしておりません。わたくしはただ、事前に渡されておりました文書の指示通りに行動をさせていただいただけでして……」
慌てたように両手を胸の前で掲げ、川辺さんは早口になりながら弁明する。
「文書……既に処分したやつのことか?」
「はい、そうです」
確認するお兄ちゃんへ頭を下げ、川辺さんは助けを求めるように視線を送ってくる。
「あの、その文書の指示ってどんな内容だったんですか?」
一番奥の席。黙ったまま話を聞いていた葵さんがどこか警戒でもするような、慎重な口調で問いかけてきた。
コクリと頷きお兄ちゃんが同意をみせると、みんなはぞろぞろと立ち上がる。
談話室の造りは、名前とは裏腹にシンプルなものとなっている。
学校の教室よりも、ちょっとだけ広い空間。その真ん中に大きな長テーブルが置かれ、左右向かい合うようにして六人分の椅子が並べられているだけ。
壁には一枚の絵もかけられておらず、設置された棚にも金魚鉢の他には空の花瓶や百均にでも売ってそうな安っぽい置物が少々。
たったそれだけで、本の一冊もありはしない。
もしもこんな場所で一人時間を潰せなんて言われたら、やることがなさ過ぎて一時間もせずに飽きてしまうだろう。
せいぜい、金魚を眺めてぼんやりするくらいのことしか思いつけないし。
「……これで合ってるよな?」
席の移動が終わり、みんな改めて腰を落ち着ける。
現在立っているのは、川辺さんとお兄ちゃんのみ。
川辺さんはみんなに今後の説明をしたりコーヒーを配る立場であったため、元から座っていた席は存在しない。
そして、それを踏まえての席順。
まず廊下側にあたる椅子には、前から順に花面さん、木ノ江さん、美九佐さん、笠島さん、伊藤さん、空席という配置に。
そして向かい側。教室で言えば窓側にあたる列には、空席、あたし、お兄ちゃん、絵馬さん、貴道さん、葵さんの順で座っていた。
この中で絵馬さんに近い位置に座っていたのは、左右にいたお兄ちゃんと貴道さん。
そして、正面に座っていた笠島さんの三人。
お兄ちゃんと貴道さんは絵馬さんまでの距離はゼロと言って良いくらいに近いけど、笠島さんはテーブルを挟んでいるため身を乗り出し手を伸ばしでもしない限り届くことはない。
つまり。
「この配置だと、絵馬のコップに毒を入れるチャンスが一番あったのはオレとあんたら二人ということになるが……、ここでそんな不審な行動を取れば、すぐ誰かが気がつくような状態だな。難しいと言えば難しいか」
と言う感じ。
お兄ちゃん、貴道さん、笠島さんの三人ですら、さり気なくを装ってもばれずに他人のコップに細工するのは難しいのに、それ以外の人は尚更不可能な状態だ。
どう頑張っても目立つ。
「おっと、まさかここで私が疑われるのかい?」
驚きよりもきょとんとした表情で、貴道さんがお兄ちゃんを見上げる。
「ふざけるなよ。あのとき、俺もその男も絵馬と言う女のコップになんぞ触ってはいないぞ。真正面に座っていたんだ。もし誰かがそんなことをすれば嫌でも気づく」
笠島さんもお兄ちゃんを見上げて――と言うか睨んで――、むっつりとした口調で言葉を吐き出した。
「そう。それはオレも考えていた。あのとき、コーヒーが各自に行き渡ってから先は、誰一人絵馬のコップに触れた者はいなかったと記憶している。そうなると、今度は絵馬がコップを手に取るより前に、毒が入れられたと考えなければいけなくなるわけだな」
「は? 配られる前に毒って……そしたら、犯人は一人しかいないじゃないか。あのときそのコーヒーを用意して持ってきたのは、川辺さんだぜ?」
伊藤さんの指摘に、全員が壁際に立つ川辺さんへ視線を向けた。
「な……っ? いえ、待ってください。わたくしはそんな、絵馬様に毒を飲ませるような真似はしておりません。わたくしはただ、事前に渡されておりました文書の指示通りに行動をさせていただいただけでして……」
慌てたように両手を胸の前で掲げ、川辺さんは早口になりながら弁明する。
「文書……既に処分したやつのことか?」
「はい、そうです」
確認するお兄ちゃんへ頭を下げ、川辺さんは助けを求めるように視線を送ってくる。
「あの、その文書の指示ってどんな内容だったんですか?」
一番奥の席。黙ったまま話を聞いていた葵さんがどこか警戒でもするような、慎重な口調で問いかけてきた。
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