37 / 84
第二章:断罪決行
断罪決行 12
しおりを挟む
「それはないんじゃないか? おれなんて毎日工場で部品作りしてるだけだし、指揮者や医者の知り合いなんて一人もいないよ。まして、そんな人らが出席するような集まりになんか参加したこともない」
ヒョイと肩を竦めて、伊藤さんが答える。
「あたしも、皆さんとは今日初めてお会いしました。失礼かもしれませんが、お名前すら存じてなかったくらいで……」
伊藤さんの言葉に便乗するようなかたちで言葉を継いだのは花面さんだ。
他の人たちも無言のまま小さく頷くところを見ると、本当に過去に繋がりのある出来事などはないのだろう。
「絵馬とも、誰もあったことはないのか?」
そう確認の追加をするも、やはり期待するような返答はない。
「過去に接点のない者たちが集められ、その中の一人が殺された。これを素直に認めた場合、犯人の動機は一体何になる?」
僅かに目を伏せ軽く顎に手を当てるお兄ちゃんの横顔は、まるで精巧にできた人形のように見えた。
神秘的とか、そんなオシャレな単語は使いたくないけど、他人が見ればそういうイメージで映ることもあるのかもしれない。
もっとも、こんな状況の中でそんなこと考える人はいないだろうけど。
「……何が何だか、話が突然すぎて今一つ実感が持てない感じですけど。ひょっとしたら、事件ではなくて絵馬さんの自殺という推測はできませんか? 自分で毒を飲んで、それが身体中にまわる前に辞書やカードをドアに貼ってベッドへ横になったとか。その……、すごく失礼なことを言っているとは思いますけど」
「絵馬が自殺? わざわざこんな所へ来て自殺する理由なんてあるとは思えないし、現実的ではないな。一つの仮説としては認めるが」
葵さんが示した仮説に、お兄ちゃんは小さく首を振って否定する。
「まぁ、何だ。とりあえず状況はわかった。ここに集められたメンバーの一人が突然死んで、しかも毒を飲まされた痕跡が残っていた。そして、犯人はこの中にいるかもしれないし、俺たち以外に誰かが隠れている可能性もある。そして、死んだ女に毒を飲ませた方法もよくわからず、動機も不明。全てが曖昧で謎だらけ。こういうことだろう?」
面倒そうに鼻から息を抜き、笠島さんは強引に話をまとめてみせる。
ちょっとわかりにくい言い回しな気はするけど、一応合っているから異存はない。
「……わたくしたちの他に誰かがいる、というのはあり得ないと思われます。二日前からここにいて、人の気配など全くありませんでしたし、全ての部屋を確認しておりますが誰も見ておりません。食料も減るようなことはありませんでしたから、ここに集まる皆さま以外に人がいるというのは……」
壁際に立ったままの川辺さんが、釈然としないような態度で言葉を挟んできた。
それを聞いて、暫く室内には沈黙が広がる。
みんな何かを考えるかのように目を伏せ、再び誰かが話し出すのをジッと待っているように感じた。
やがて、
「念のため、全員でこの研究所を一度探索しておかないか? それほど広い建物ではないし、作りもシンプルだ。全室調べても、それほどの時間はかからないだろう」
床を凝視していたお兄ちゃんが、思いついたようにそんな提案を口にした。
「……そう、ですね。あたしはそれに賛成です。川辺さんが気づけなかっただけで、万が一知らない誰かが入り込んでいたら怖いですし、自分の目で何もないことを確かめられたら少しは安心できますからね」
「そうだな。良いんじゃないか? どうせ六日まではここから出られないんだし、できることはしておいて損することもないだろ」
数秒の間を置き、葵さんと伊藤さんが同意するように口を開いた。
他の人たちも、まだ気持ちが整理しきれていない感じではあったけれど、反対する声もなく。
「決定だな。それじゃあ早速調べてみよう。隠れている人物がいなくとも、ここへ呼び出した人間を知る手がかりくらいはあるかもしれない」
まるで仕切るようにそう言って、お兄ちゃんは顎に当てていた手を離した。
ヒョイと肩を竦めて、伊藤さんが答える。
「あたしも、皆さんとは今日初めてお会いしました。失礼かもしれませんが、お名前すら存じてなかったくらいで……」
伊藤さんの言葉に便乗するようなかたちで言葉を継いだのは花面さんだ。
他の人たちも無言のまま小さく頷くところを見ると、本当に過去に繋がりのある出来事などはないのだろう。
「絵馬とも、誰もあったことはないのか?」
そう確認の追加をするも、やはり期待するような返答はない。
「過去に接点のない者たちが集められ、その中の一人が殺された。これを素直に認めた場合、犯人の動機は一体何になる?」
僅かに目を伏せ軽く顎に手を当てるお兄ちゃんの横顔は、まるで精巧にできた人形のように見えた。
神秘的とか、そんなオシャレな単語は使いたくないけど、他人が見ればそういうイメージで映ることもあるのかもしれない。
もっとも、こんな状況の中でそんなこと考える人はいないだろうけど。
「……何が何だか、話が突然すぎて今一つ実感が持てない感じですけど。ひょっとしたら、事件ではなくて絵馬さんの自殺という推測はできませんか? 自分で毒を飲んで、それが身体中にまわる前に辞書やカードをドアに貼ってベッドへ横になったとか。その……、すごく失礼なことを言っているとは思いますけど」
「絵馬が自殺? わざわざこんな所へ来て自殺する理由なんてあるとは思えないし、現実的ではないな。一つの仮説としては認めるが」
葵さんが示した仮説に、お兄ちゃんは小さく首を振って否定する。
「まぁ、何だ。とりあえず状況はわかった。ここに集められたメンバーの一人が突然死んで、しかも毒を飲まされた痕跡が残っていた。そして、犯人はこの中にいるかもしれないし、俺たち以外に誰かが隠れている可能性もある。そして、死んだ女に毒を飲ませた方法もよくわからず、動機も不明。全てが曖昧で謎だらけ。こういうことだろう?」
面倒そうに鼻から息を抜き、笠島さんは強引に話をまとめてみせる。
ちょっとわかりにくい言い回しな気はするけど、一応合っているから異存はない。
「……わたくしたちの他に誰かがいる、というのはあり得ないと思われます。二日前からここにいて、人の気配など全くありませんでしたし、全ての部屋を確認しておりますが誰も見ておりません。食料も減るようなことはありませんでしたから、ここに集まる皆さま以外に人がいるというのは……」
壁際に立ったままの川辺さんが、釈然としないような態度で言葉を挟んできた。
それを聞いて、暫く室内には沈黙が広がる。
みんな何かを考えるかのように目を伏せ、再び誰かが話し出すのをジッと待っているように感じた。
やがて、
「念のため、全員でこの研究所を一度探索しておかないか? それほど広い建物ではないし、作りもシンプルだ。全室調べても、それほどの時間はかからないだろう」
床を凝視していたお兄ちゃんが、思いついたようにそんな提案を口にした。
「……そう、ですね。あたしはそれに賛成です。川辺さんが気づけなかっただけで、万が一知らない誰かが入り込んでいたら怖いですし、自分の目で何もないことを確かめられたら少しは安心できますからね」
「そうだな。良いんじゃないか? どうせ六日まではここから出られないんだし、できることはしておいて損することもないだろ」
数秒の間を置き、葵さんと伊藤さんが同意するように口を開いた。
他の人たちも、まだ気持ちが整理しきれていない感じではあったけれど、反対する声もなく。
「決定だな。それじゃあ早速調べてみよう。隠れている人物がいなくとも、ここへ呼び出した人間を知る手がかりくらいはあるかもしれない」
まるで仕切るようにそう言って、お兄ちゃんは顎に当てていた手を離した。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
私の優しいお父さん
有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。
少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。
昔、私に何があったんだろう。
お母さんは、どうしちゃったんだろう。
お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。
いつか、思い出す日が来るのかな。
思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる