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雪鳴月彦

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第二章:断罪決行

断罪決行 12

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「それはないんじゃないか? おれなんて毎日工場で部品作りしてるだけだし、指揮者や医者の知り合いなんて一人もいないよ。まして、そんな人らが出席するような集まりになんか参加したこともない」

 ヒョイと肩を竦めて、伊藤さんが答える。

「あたしも、皆さんとは今日初めてお会いしました。失礼かもしれませんが、お名前すら存じてなかったくらいで……」

 伊藤さんの言葉に便乗するようなかたちで言葉を継いだのは花面さんだ。

 他の人たちも無言のまま小さく頷くところを見ると、本当に過去に繋がりのある出来事などはないのだろう。

「絵馬とも、誰もあったことはないのか?」

 そう確認の追加をするも、やはり期待するような返答はない。

「過去に接点のない者たちが集められ、その中の一人が殺された。これを素直に認めた場合、犯人の動機は一体何になる?」

 僅かに目を伏せ軽く顎に手を当てるお兄ちゃんの横顔は、まるで精巧にできた人形のように見えた。

 神秘的とか、そんなオシャレな単語は使いたくないけど、他人が見ればそういうイメージで映ることもあるのかもしれない。

 もっとも、こんな状況の中でそんなこと考える人はいないだろうけど。

「……何が何だか、話が突然すぎて今一つ実感が持てない感じですけど。ひょっとしたら、事件ではなくて絵馬さんの自殺という推測はできませんか? 自分で毒を飲んで、それが身体中にまわる前に辞書やカードをドアに貼ってベッドへ横になったとか。その……、すごく失礼なことを言っているとは思いますけど」

「絵馬が自殺? わざわざこんな所へ来て自殺する理由なんてあるとは思えないし、現実的ではないな。一つの仮説としては認めるが」

 葵さんが示した仮説に、お兄ちゃんは小さく首を振って否定する。

「まぁ、何だ。とりあえず状況はわかった。ここに集められたメンバーの一人が突然死んで、しかも毒を飲まされた痕跡が残っていた。そして、犯人はこの中にいるかもしれないし、俺たち以外に誰かが隠れている可能性もある。そして、死んだ女に毒を飲ませた方法もよくわからず、動機も不明。全てが曖昧で謎だらけ。こういうことだろう?」

 面倒そうに鼻から息を抜き、笠島さんは強引に話をまとめてみせる。

 ちょっとわかりにくい言い回しな気はするけど、一応合っているから異存はない。

「……わたくしたちの他に誰かがいる、というのはあり得ないと思われます。二日前からここにいて、人の気配など全くありませんでしたし、全ての部屋を確認しておりますが誰も見ておりません。食料も減るようなことはありませんでしたから、ここに集まる皆さま以外に人がいるというのは……」

 壁際に立ったままの川辺さんが、釈然としないような態度で言葉を挟んできた。

 それを聞いて、暫く室内には沈黙が広がる。

 みんな何かを考えるかのように目を伏せ、再び誰かが話し出すのをジッと待っているように感じた。

 やがて、

「念のため、全員でこの研究所を一度探索しておかないか? それほど広い建物ではないし、作りもシンプルだ。全室調べても、それほどの時間はかからないだろう」

 床を凝視していたお兄ちゃんが、思いついたようにそんな提案を口にした。

「……そう、ですね。あたしはそれに賛成です。川辺さんが気づけなかっただけで、万が一知らない誰かが入り込んでいたら怖いですし、自分の目で何もないことを確かめられたら少しは安心できますからね」

「そうだな。良いんじゃないか? どうせ六日まではここから出られないんだし、できることはしておいて損することもないだろ」

 数秒の間を置き、葵さんと伊藤さんが同意するように口を開いた。

 他の人たちも、まだ気持ちが整理しきれていない感じではあったけれど、反対する声もなく。

「決定だな。それじゃあ早速調べてみよう。隠れている人物がいなくとも、ここへ呼び出した人間を知る手がかりくらいはあるかもしれない」

 まるで仕切るようにそう言って、お兄ちゃんは顎に当てていた手を離した。
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