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第二章:断罪決行
断罪決行 20
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ゴクリと、喉が鳴る。
見るなとは言われていないが、自重した方が身のためだと本能で思う。
だけど、怖いもの見たさの好奇心か、自分の目で事実を確かめてみたいという欲求か。
ほんの少しだけならドアの隙間から覗いても大丈夫かもしれないという考えが頭をよぎり、あたしはドキドキと脈打つ心臓の音を聞きながらドアノブに手をかけた。
そっとドアを開けて隙間を作り、そこから中を覗き込み――。
「――――っ!」
あたしは即座に、自らの取った行動を後悔する羽目になった。
ドアから逃げるようにして離れ、食堂の隅にある手洗い場へ駆けて胃の中身を吐き出す。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
隙間から見てしまった、忌まわし過ぎる光景。
奥の方にあった調理台の上に、貴道さんの生首が乗せられた大皿が置かれていた。
苦悶に見開いた目は白目を剥き、歪む口元には血が流れた跡。
そして、その生首の周囲には数種類の肉料理の盛られた小皿。
じっくりと観察するような余裕はなかったけれど、瞼の奥に焼き付いた残像には、ステーキと野菜炒めのようなものが残っている。
そして、それらと一緒に紛れるようにして並べられていたのが、人間の手足の丸焼き。
こんな陳腐な表現で合っているのかわからないけど、そんな表現の仕方しか思い浮かばない。
ローストチキンの人間手足バージョンみたいなものを想像すれば、一番しっくりくるだろうか。
そんなものが、台の上に用意されていたのだ。
――偽物……じゃないよね、あれ。
精巧に作られた人形とか、そんな風にはとても見えなかった。
よくもあんなグロテスクなものがある場所へお兄ちゃんは入っていけるものだと、妹ながらその根性に戸惑ってしまう。
「こちらです!」
廊下からバタバタと足音が近づいてきたかと思うと、勢いよく入口が開き川辺さんが飛び込んできた。
その後ろには、招待客たちがぞろぞろと続いている。
「マリネさん、大丈夫ですか?」
男性陣が調理場へ向かう中、葵さんと花面さんの二人はあたしの元へ駆け寄ってきてくれる。
「川辺さんから、貴道さんが亡くなってるって聞かされたんですけど……」
中扉の先へと進んでいく川辺さんを横目で見ながら、花面さんが呟く。
「殺されてました。ドアの隙間から少し覗いただけですけど、ちょっと普通じゃない状況で……」
葵さんに背中を擦られながら、あたしはどうにか声を絞り出す。
「普通じゃないって、それはどういう……?」
花面さんの強張った顔が、視界の端に映った。
「何だこれは!? おい、ここで一体何が起きた!」
同時に、調理場から笠島さんの怒声じみた声が響き、あたしの背に置かれた葵さんの手がビクリと震えるのが伝わってくる。
「ほ、本物なのかこれ? 嘘だろ……」
愕然としたような、伊藤さんの呻き。
花面さんと葵さんは動くのを忘れたように調理場へと首を曲げ、様子を窺うように聞き耳を立てる。
「……絶対、見ない方が良いですよ」
そんな二人へ、あたしは水が流れていく排水溝を睨んだまま忠告した。
「どういうことですか?」
背中に感じる葵さんの手の熱が異様に高まったような錯覚を覚え、あたしは一度大きく深呼吸をした。
「貴道さん、料理されてて……」
「え? 料理?」
訝し気に、花面さんはあたしの言葉を繰り返す。
こんなことを言われても、ピンとこないのは当然だろう。
事前に死んでいることを把握していなかったら、貴道さんが料理を作っていると勘違いされそうな内容だ。
でも、現実は違う。
「身体をバラバラにされてて……手足とか、そのまま焼かれてお皿の上に……」
言いながら死体の光景を思い出してしまい、また胃液が上がってくる。
「何ですそれ。殺されて料理されてるって意味ですか? それじゃあまさか、この匂いは……」
一気に葵さんの顔が引きつり、まるで条件反射のように口元を押さえる。
見るなとは言われていないが、自重した方が身のためだと本能で思う。
だけど、怖いもの見たさの好奇心か、自分の目で事実を確かめてみたいという欲求か。
ほんの少しだけならドアの隙間から覗いても大丈夫かもしれないという考えが頭をよぎり、あたしはドキドキと脈打つ心臓の音を聞きながらドアノブに手をかけた。
そっとドアを開けて隙間を作り、そこから中を覗き込み――。
「――――っ!」
あたしは即座に、自らの取った行動を後悔する羽目になった。
ドアから逃げるようにして離れ、食堂の隅にある手洗い場へ駆けて胃の中身を吐き出す。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
隙間から見てしまった、忌まわし過ぎる光景。
奥の方にあった調理台の上に、貴道さんの生首が乗せられた大皿が置かれていた。
苦悶に見開いた目は白目を剥き、歪む口元には血が流れた跡。
そして、その生首の周囲には数種類の肉料理の盛られた小皿。
じっくりと観察するような余裕はなかったけれど、瞼の奥に焼き付いた残像には、ステーキと野菜炒めのようなものが残っている。
そして、それらと一緒に紛れるようにして並べられていたのが、人間の手足の丸焼き。
こんな陳腐な表現で合っているのかわからないけど、そんな表現の仕方しか思い浮かばない。
ローストチキンの人間手足バージョンみたいなものを想像すれば、一番しっくりくるだろうか。
そんなものが、台の上に用意されていたのだ。
――偽物……じゃないよね、あれ。
精巧に作られた人形とか、そんな風にはとても見えなかった。
よくもあんなグロテスクなものがある場所へお兄ちゃんは入っていけるものだと、妹ながらその根性に戸惑ってしまう。
「こちらです!」
廊下からバタバタと足音が近づいてきたかと思うと、勢いよく入口が開き川辺さんが飛び込んできた。
その後ろには、招待客たちがぞろぞろと続いている。
「マリネさん、大丈夫ですか?」
男性陣が調理場へ向かう中、葵さんと花面さんの二人はあたしの元へ駆け寄ってきてくれる。
「川辺さんから、貴道さんが亡くなってるって聞かされたんですけど……」
中扉の先へと進んでいく川辺さんを横目で見ながら、花面さんが呟く。
「殺されてました。ドアの隙間から少し覗いただけですけど、ちょっと普通じゃない状況で……」
葵さんに背中を擦られながら、あたしはどうにか声を絞り出す。
「普通じゃないって、それはどういう……?」
花面さんの強張った顔が、視界の端に映った。
「何だこれは!? おい、ここで一体何が起きた!」
同時に、調理場から笠島さんの怒声じみた声が響き、あたしの背に置かれた葵さんの手がビクリと震えるのが伝わってくる。
「ほ、本物なのかこれ? 嘘だろ……」
愕然としたような、伊藤さんの呻き。
花面さんと葵さんは動くのを忘れたように調理場へと首を曲げ、様子を窺うように聞き耳を立てる。
「……絶対、見ない方が良いですよ」
そんな二人へ、あたしは水が流れていく排水溝を睨んだまま忠告した。
「どういうことですか?」
背中に感じる葵さんの手の熱が異様に高まったような錯覚を覚え、あたしは一度大きく深呼吸をした。
「貴道さん、料理されてて……」
「え? 料理?」
訝し気に、花面さんはあたしの言葉を繰り返す。
こんなことを言われても、ピンとこないのは当然だろう。
事前に死んでいることを把握していなかったら、貴道さんが料理を作っていると勘違いされそうな内容だ。
でも、現実は違う。
「身体をバラバラにされてて……手足とか、そのまま焼かれてお皿の上に……」
言いながら死体の光景を思い出してしまい、また胃液が上がってくる。
「何ですそれ。殺されて料理されてるって意味ですか? それじゃあまさか、この匂いは……」
一気に葵さんの顔が引きつり、まるで条件反射のように口元を押さえる。
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