復讐の技を磨くため、俺は大都会静岡へと征く

ばたっちゅ

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【 来栖亜梨亜 】

少女との別れ

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 そのなんだか無礼な言葉を吐いた少女が銃を担いだままこちらにやって来る。
 よく見たら、他にも大きなバッグを持っているな。旅行者? 彼女もまた、他の土地から来たのだろうか。

「さっきはごめんなさいね。まさか銃を持っているとは思わなかったのよ。でもまあ、こんなご時世だし十分に考えられる事よね」

「こんなご時世と言われてもねえ」

 ピンとこないが、あんなものがホームに現れた事を考えると微妙に納得してしまう。
 いったいどうなっているのやら。

「それよりも……これは何なの?」

 そう言って顎でリニアを示す。
 ちょっと無礼にも見えるが、片手は銃、もう片手は大荷物で塞がっている。
 銃を向けるよりマシと考えると、悪意があるわけでもなさそうだ。
 ただなあ……。

「見ての通り、群馬エクスプレスだよ。さっき言っただろう」

「……本当に……群馬? なんなの? 意味が分からないわ」

 こっちも何が分からんのか分からんわ。
 というか、ガチでネットに毒された口か?
 見た感じは高校生って所だな。その歳でネットに影響されるとか、ちょっと痛い子なのかもしれん。

『ピー、当車両は、これより発車いたします。駆け込み乗車はおやめください』

「動くの!?」

 本当に失礼な奴だな。
 まあ線路の上にいる俺たちも、大概迷惑だが。

「あれに乗って来たんだから動くよ。当たり前だ。ただ20分は停車するはずなんだけどな。さすがにさっきの事があったからか」

 そう言いながらも、それなりに異常さは感じる。
 あんな事があったからこそ、車両や線路の全点検が必要だと思うのだが。
 まあ、リニアは専門外だ。気にしても仕方がない。それより――、

「反対側のホームへ行こう。いつまでも線路にいるのもな」

「た、確かにそうね」

 そう言いながらも、まだ動き出したリニアを凝視している。
 そんなに気になるものなのだろうか?
 案外、リニアの無い所から来た田舎者だったりして……と、田畑と神社しかないド田舎から出て来た俺が考えるのも変な話だ。

 去って行くリニアを見ながら、俺たちは反対側のホームへと移動した。
 あれだけの事があった後だ。駅員が来るかもと思ったが、来るとしたら警備員か警察か、あるいは俺の様に狩猟免許を持っている人間か……うん、当分来ないな。
 ただそれよりも、終点なのに誰も降りた様子が無いのが気になった。
 俺が下りている間に、ホーム側から一斉に脱出したのだろうか?
 もしくは、あれを見てそのまま降りない選択した可能性もありそうだ

「それにしても、貴方には聞きたい事が色々あるわね。取り敢えず、私は来栖亜梨亜くるすありあ。静岡県立敵性生命体対策訓練校に入学予定よ。その銃……だよね? それを持っているって事は貴方もそうなんでしょ?」

「いや、俺は――あ、そうだ。俺の名前は佐々森勇誠ささもりゆうせい。静岡県立狩猟技能専門学校に入る予定なんだ」

「そっか、残念。貴方の腕なら立派な兵士になれたでしょうに」

「悪いが、俺はハンターになるんでね。それにしても、なんで何処かに入学すると?」

「あはは。そりゃ、そんないかにも田舎から出て来ましたって顔をしていたらそう思うわよ」

「それは少し酷いな」

 ただ否定は出来そうにないな。事実だし。

「それとさっきの――あ、やっぱいい。そっちは思考が追い付いていないわ。それじゃ、長生きしなさいよ」

「100までは死ぬ気はないな」

「あはははは。それじゃあね」

「あ、まった」

「ん? 何かあったの?」

「さっきは群馬エクスプレスを守ってくれてありがとう。そのつもりだったかは怪しいが」

 そう言って右手を差し出す。
 なんか一瞬だけ『え?』という顔をしてほんのわずかな躊躇があったが、俺たちは固く握手を交わした。
 共に戦ったのだ。ちょっと無礼な点もあるが、そんな事は関係無いさ。

 こうして、彼女は荷物を抱えたまま手を振って去って行った。
 最初見た時は少しきつそうかと思ったが、笑顔は子供のように可愛らしかった。案外気さくな子なのかもしれない。
 というかさ、この翼竜もどきの死体どうするんだ。
 そんな事を考えながらも、俺の足はアラルゴスの残骸に向かっていた。

 とっくに粉々だが、こいつらは死ぬとこんなものだとじいさんから聞いている。
 僅かに残った破片は鋭利な刃物のよう。そしてたとえ巨大なハンマーで叩こうが、プレス機で潰そうが傷一つ付かない。これが溶鉱炉でも爆薬でも結果は同じ。
 死してなお迷惑な奴だが、この固さを生かして武器にするそうだ。
 もっとも形は加工できないが、細かな破片を弾頭に混ぜたり、粉状になった部分は固めて装甲版にしたりと色々だ。

 だけどそんな事をしに来たわけではない。
 見た所単体。それに体は黒く角も一本。あれでもまだまだ幼体だった。
 今の状態でも十分に脅威だが、こいつらは完全に成長するまで群れで行動する。
 必ず率いている奴や他の個体がいるはずだが……ここまで来ても気配はしない。ただのはぐれだろうか。
 だが当面は危険が無いならそれでいい。そろそろ目的地に向かおう。
 そういえば彼女とはまた会う事になるのだろうか?
 何か聞きたい事とかが幾つもありそうだったが、その度に言葉を飲み込んでいた感じがあった。
 どうにも気になるが、同業者――というか、似たような道を辿っているみたいだし、また会う事もあるだろう。

 俺もまた静岡駅を出ると、そこはバスターミナルだった。
 これが都会のバスターミナルか。
 半円形に歩道と車道が並び、歩道の部分位には定期的にバス停がある。
 行く場所は様々だろうが、あんなに沢山の行き先があるのか。
 しかも1つの場所から何本ものバスが出ている。ここは方向を決めるだけで、ここから血管の様に広がっていくのだろう。
 凄いところだ。正に首都の心臓部という言葉にふさわしい。

 ただ金属製の屋根は所々破損し、柱にも傷がある。修理が間に合っていないのだろうか。
 駅での事もあるが、こちらもこちらで大変なんだな。
 実際、バス停で待つ人たちは、これだけの規模の大都会からすると多くない感じがする。
 結構ガラガラだ。
 ただ俺の姿を見ても気にする様子はない。どう見てもライフルケースを担いでいるんだけどな。
 聞いたことがあるが、都会の人間はあまり人に関心が無いのだろう。
 確かに人が多すぎて、イチイチ関心を向けていたらきりがないのだろうな。
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