復讐の技を磨くため、俺は大都会静岡へと征く

ばたっちゅ

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【 杉林ポレン 】

やる気なら仕方がない

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 俺と杉林すぎばやしが険悪なのは今に始まった事ではないが、正直こうなってしまうと哀れだと思う。
 だけと笑いがこみあげてしまうのは、普段の行いというものだ。
 まあ来栖くるすが睨んでいるからこれ以上はそちらに関しては突っ込まないが、

「それで杉林は戦えるのか?」

「一般人ごときに心配される筋合いはない!」

「ダメでしょ、ポレンちゃん。もっとお行儀良くしないと」

「ガキ扱いするな!」

 なんか高円寺こうえんじは高円寺で、なんか杉林の保護者みたいになっているし。
 改めて状況を考えるとなかなかにカオスだ。
 だが需要なのはそういった問題ではないだろう。
 来栖も高円寺も今は言えない様だから、俺が言うしかないか。

「一般人だろうがタイプCだろうが関係ない。お前の意地だのプライドだのにも興味はない。ただ一緒に戦ったお前の腕は信じている。その上でもう一度聞こう。これはお前の問題だ。本当に今までと同様のパフォーマンスで戦えるのか?」

 杉林は下を向いて黙りこくってしまった。
 実際に、ここまで相当な検査をしたはずだ。
 何せ内蔵した人工物までまとめて退行させる。これはもう毒とかじゃない。魔法だわ。
 その検査の中に、戦闘力の調査も当然あっただろう。
 しかしその結果は大体察しが付く。
 というか、この身長の時点でもうダメだ。

 俺たち男と違い、女性の装備は優遇されている。
 シャツやジャケットは軽量だが強靭。
 銃なんかも特別なカスタム品だ。
 訓練で見たが、軽量で制度も良い。その分、継戦能力には劣る
 それに対して、男は重装備。武器も耐久性と継戦能力を求めた結果ゴツイ。
 防弾チョッキなんかは分厚く頑丈だが、造りは粗末なものだ。

 この差は女性が優遇されているという訳じゃない。
 少なくとも来栖や高円寺は別格なのだろうが、彼女たちは根本的に例外。
 多弾頭ロケット弾を片手でトラックに積み込む人は置いておこう。

 これは普通の女性兵士が、戦場で負傷者が出た時にどうするかって問題だ。
 基本的に男は負傷した女性を安全圏まで運ぶことが出来る。
 では女性は? よほどのゴリマッチョでない限り、男性を運ぶだけで一苦労だ。
 だから女性の装備は軽量化し、男の装備は捨てても良いように粗末なものを使う。
 それでも対格差は埋めきれない。長距離の移動は無理だ。
 そして男性だけ、女性だけで編成できるほど兵士は多くは無いらしい。
 となれば、負傷した仲間を運べるかはそのままその相手への信頼に直結する。
 自分は負傷したそいつを運べるのに、自分が負傷したら置き去りというのでは共に戦うことは出来ない。これは狩りでも戦場でも同じだろう。
 そういった意味で、今の杉林は戦友となり得るか? 背中を預けられるのか?
 これは単に本人の戦闘力が優れているとか劣っているとかとは別次元の話だ。

「良いだろう。一般人ごときがここにいる事自体がおかしかったんだ。ここではっきりと格の違いを教えてやる」

 いや、知りたいのはそんな事じゃない。

「良いんじゃない。勇誠ゆうせいもいつまでも一般人呼ばわりは嫌でしょう? 群馬人の力を見せてあげなさいよ」

 群馬県民でも静岡県民でも同じ人間だ。普通に一般人だよ。
 というか、今こいつナチラルに俺を名前で呼んだな。

「訓練場の申請、終わりました」

 止めてください高円寺さん。
 その手際の良さはなんですか?

「よし、行くか。群馬人だろうが何だろうが、TYPE―Cには通用しない所を見せてやるぜ」

 だから群馬県身も普通の人間だって。
 だがそんな抗議の間も無く、3人はさっさと行ってしまった。

「準備があるなら遅れて来てもいいわよ」

「はん! 銃だろうがナイフだろうが好きな武器を持ってくるがいいさ。俺は素手で相手してやる」

 だめだ、もう完全にやる流れだ。
 仕方がない、付き合うか。

「あら、武器は良いの?」

「こいつが素手なのに武器は使えないだろ」

「何処までも馬鹿にしやがって!」

 そんなつもりはないんだけどなあ。




 ◆     ◆     ◆




 訓練場は射撃場以外にも、当然近接戦闘を訓練する場所もある。
 つかはコンクリのタイル。
 天井は多数のライトの間に光を拡散するカバーがかけられ、まるで全体が光っているかのように見える。
 足元を見ても殆ど影が無い。これは光の強さも影響しているな。初めて入った時はかなり眩しく感じたものだ。

「さあいつでも良いぜ。始めるとしよう」

「子供とけんかをする趣味は無いんだが、仕方ないな」

 といいつつも、これは強がりだ。
 相手はこんな姿になってもちゃんと戻ってきた相手。
 動けるようになってから様々な検査を受けてここまで時間が経ったと聞いたが、当然ながら戦闘能力の有無も確認していただろう。
 その上で、もし戦えないと判断されたのならここに杉林の居場所はない訳で。

「本当に武器はいらないんだな。後で言い訳にするなよ」

 右手を上げて低い姿勢で構えている。
 その構えから、無いはずのナイフを感じられる当たり、相当慣れているな。

「それじゃ、始め」

 やる気のない来栖くるすの声が響くと同時にその姿が消えた。
 速さは今までよりも上がった気がする。単に装備が軽いだけかもしれないが。
 ただ何というか、分かりやすすぎる。
 先ず下から喉を切り裂き、背後に回って心臓か脳天にナイフを刺す。
 実際には手刀だろうが、動きは同じだ。

 普通にやったらどうやっても届かない。
 だからさっきよりももっと低い姿勢からの急なジャンプ。
 当然狙いは喉。分かりやすすぎだ。
 その攻撃が届く前に、正拳突きを体のど真ん中に打ち込む。
 さすがに完全に予想外だったのか、ストレートにクリーンヒット。軽い杉林は5メートルはすっ飛んだ……が、空中で回転して着地する。さすがだな。
 とはいえ――、

「お前さ、人間相手の実践ってやった事ないだろ。動きが単調すぎだ」

「まぐれ当たりでふざけるな。対人戦の練習は、それこそ血反吐を吐くまでやらされたよ。俺が軍隊経験者だって事を忘れているんじゃないのか」

 忘れる以前に聞いてねーし。
 そういえば、こいつとはほとんど会話らしい会話は無かったな。
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