46 / 58
【 三保松原の激戦 】
88ミリ砲
しおりを挟む
全員、俺が逃げると思っているらしい。
まあ少し弱気な事を言ったしまった自覚はあるけれども。
「そう結論を急ぐなよ。俺が言ったのは、この状況をどうするかだ。対処法があるなら一緒に戦うし、無いなら一緒に逃げる。悪いがお前たちを犬死させるつもりはないんでね。お前たちも、そうやって生き延びて来たんだろ?」
「……そう」
来栖はそう言ってそっぽを向くが、なんか恥ずかしそうだ。
俺の言葉が恥ずかしかったのか、逃げると侮った事を恥じているのか……まあそんな事はどうでも良い。
「それが分かっているのなら、残って理由も理解しろ、一般人」
「では手段を聞くとしようか」
「とにかくこの周辺に惹きつける。手段は簡単よ」
「ほお」
その方法を聞く前に、遠くのドリンクアーロンと呼ばれた黒い球体めがけて高円寺の対戦車ライフルが火を噴いた。
今は三保半島に入ってすぐなので端までは3キロメートル以上あるが、今回の距離はおよそ800メートル。高円寺なら外さない距離だ。
まあ端にいてもあのでかさだ、外さないだろうけど。
高円寺の対戦車ライフル弾は中心を違わず命中し、同時に驚くほどの大爆発を発生させた。
爆発は天を衝くほどに拭き上がるが、当然こちにも炎が来る。
全員屋上に設置された鉄板に隠れたが、激しい激流のような炎が吹き抜ける。
なんか久々に恐怖を感じたぞ。
爆炎の後、残ったのは小さなクレーターと広範囲に溶けて光を放つ土。ただそれだけだった。
「これはまた派手に拭き取んだな」
当たり前だが周辺のビーン、上空にいたギラントも跡形も残ってはいない。
「さっきも説明したけど、あれ自体が生きる爆薬のようなものなの。ただ普通の攻撃なんて通用しないけど、高円寺さんの成形炸薬弾は別」
「ああ。あれは確かに」
俺も弾は使い分けるが、彼女も使い分けている。
用宗港や道中では貫通してから爆発する徹甲榴弾を使っていた。ただどうも見た目通りあいつは純粋に固いらしい。
そこで貫通力に特化した成形炸薬弾にしたんだろう。
まあ本来は命中に難のある弾ではあるが、高円寺は外さない。
それにあの弾は純粋な貫通強化だけじゃないからな。
中に入った金属弾は高熱の液状と化し、それが敵の内側に入り込む。歩く爆発物なら、確かにイチコロだわ。
なる程ねと納得していると、これまで清水港方面に向かっていた群れが一斉にこちらに方向を変える。
「これで分かっただろう」
「分かったには分かったが……」
確かにゾロゾロと集まって来る。引き付けるという作戦はこの時点で成功しているわけだ。
「それで引き付けてどうするんだ?」
「ここは絶対防空件って言ったでしょ。ここもその一つよ」
高円寺が2体目を吹き飛ばしている間に、屋上からドーム型の機銃がせり出してくる。
というか、あれを機銃という奴はいないか。88ミリ4連装対空砲。
第二次世界大戦では、対空はもちろん対地にも使われて絶大な戦果を挙げた。
そういや学校の屋上にもあったな――って待て。
よくよく考えてみれば、あんなゲテモノが使われていたか?
確か88ミリ砲は元々対空、対地両用に作られた高射砲だ。単純な対空砲と違い、更に高高度の相手まで撃ち落とせる奴だな。
ここが絶対防空圏というのもよく分かる。
そしてキロ単位で空に打ち出す砲弾を地上に使った時の射程と威力は言うまでもないだろう。
ただそれは単発砲だ。4連装だったのは20ミリ。まるで違う。
「あんなもの、本当に使えるのか?」
「授業で扱ったじゃない」
「動かしただけだよ。実際に撃ったわけじゃない」
あの時は興味もなかったから、訓練用の重機程度にしか考えていなかったし。
「あれで掃討するんだよ!」
杉林が意気揚々と乗り込んだ。
うん、一応俺も、授業で動かしたんだよね。だから分かる。
「あ、出て来た」
杉林がトボトボと降りてくる。
からかってやろうかと思ったが、なんか泣きそうだ。あれには口は出せん。
「私がやるわ」
まあそうなるよね。
砲身は4門だが、トリガーは1つ。
更に銃身――じゃねえな。砲身の上下は左のレバー。その点だけでいうなら杉林にも使えるんだが、問題は左右の方向転換。これ足元のペダルを使うんだよな。
残念ながら小学生には届かないのであった。
「なんだその目は! 笑いたきゃ笑えよ!」
「いや、笑わないよ」
生暖かい目で見守るが、こう強気になられるといきなり吹き出しそうになってしまう。
注意しないと。
などと考えている間に、高円寺が3体目を撃破した。
爆発の衝撃で建物がビリビリと揺れる。かなり近かったな。
というか三保松原の火が消えている。
今の爆発は新しく海岸線から出て来たのか。
これはタフな戦いになりそうだ。
そしてこの建物より後ろにいる連中に、来栖の88ミリ連装砲が火を噴いた。
というか轟音が凄い。
戦車砲クラスが分間10発。しかも4門。
弾はさすがに徹甲弾の様だが、あそこまで大口径長砲身だとどんな装甲も軽々と貫くな。
まあ元々高射砲にも使えるわけだし。
爆発したり高熱の液体金属を発する弾ではないとはいえ、そもそもの威力が桁違いだ。
1発で爆発させる高円寺の対戦車ライフル程では無いにしろ、数発も当たれば摩擦熱がどこかで引火して大爆発を起こす。
いやマジで凄いものを持ち出したものだ。
「弾頂戴、弾!」
問題はすぐに弾切れになるところだな。
というか弾? これは砲弾って言うんだよ。
しかもご丁寧にマガジンに入っているし。何キロあるんだよこれ。
まあ少し弱気な事を言ったしまった自覚はあるけれども。
「そう結論を急ぐなよ。俺が言ったのは、この状況をどうするかだ。対処法があるなら一緒に戦うし、無いなら一緒に逃げる。悪いがお前たちを犬死させるつもりはないんでね。お前たちも、そうやって生き延びて来たんだろ?」
「……そう」
来栖はそう言ってそっぽを向くが、なんか恥ずかしそうだ。
俺の言葉が恥ずかしかったのか、逃げると侮った事を恥じているのか……まあそんな事はどうでも良い。
「それが分かっているのなら、残って理由も理解しろ、一般人」
「では手段を聞くとしようか」
「とにかくこの周辺に惹きつける。手段は簡単よ」
「ほお」
その方法を聞く前に、遠くのドリンクアーロンと呼ばれた黒い球体めがけて高円寺の対戦車ライフルが火を噴いた。
今は三保半島に入ってすぐなので端までは3キロメートル以上あるが、今回の距離はおよそ800メートル。高円寺なら外さない距離だ。
まあ端にいてもあのでかさだ、外さないだろうけど。
高円寺の対戦車ライフル弾は中心を違わず命中し、同時に驚くほどの大爆発を発生させた。
爆発は天を衝くほどに拭き上がるが、当然こちにも炎が来る。
全員屋上に設置された鉄板に隠れたが、激しい激流のような炎が吹き抜ける。
なんか久々に恐怖を感じたぞ。
爆炎の後、残ったのは小さなクレーターと広範囲に溶けて光を放つ土。ただそれだけだった。
「これはまた派手に拭き取んだな」
当たり前だが周辺のビーン、上空にいたギラントも跡形も残ってはいない。
「さっきも説明したけど、あれ自体が生きる爆薬のようなものなの。ただ普通の攻撃なんて通用しないけど、高円寺さんの成形炸薬弾は別」
「ああ。あれは確かに」
俺も弾は使い分けるが、彼女も使い分けている。
用宗港や道中では貫通してから爆発する徹甲榴弾を使っていた。ただどうも見た目通りあいつは純粋に固いらしい。
そこで貫通力に特化した成形炸薬弾にしたんだろう。
まあ本来は命中に難のある弾ではあるが、高円寺は外さない。
それにあの弾は純粋な貫通強化だけじゃないからな。
中に入った金属弾は高熱の液状と化し、それが敵の内側に入り込む。歩く爆発物なら、確かにイチコロだわ。
なる程ねと納得していると、これまで清水港方面に向かっていた群れが一斉にこちらに方向を変える。
「これで分かっただろう」
「分かったには分かったが……」
確かにゾロゾロと集まって来る。引き付けるという作戦はこの時点で成功しているわけだ。
「それで引き付けてどうするんだ?」
「ここは絶対防空件って言ったでしょ。ここもその一つよ」
高円寺が2体目を吹き飛ばしている間に、屋上からドーム型の機銃がせり出してくる。
というか、あれを機銃という奴はいないか。88ミリ4連装対空砲。
第二次世界大戦では、対空はもちろん対地にも使われて絶大な戦果を挙げた。
そういや学校の屋上にもあったな――って待て。
よくよく考えてみれば、あんなゲテモノが使われていたか?
確か88ミリ砲は元々対空、対地両用に作られた高射砲だ。単純な対空砲と違い、更に高高度の相手まで撃ち落とせる奴だな。
ここが絶対防空圏というのもよく分かる。
そしてキロ単位で空に打ち出す砲弾を地上に使った時の射程と威力は言うまでもないだろう。
ただそれは単発砲だ。4連装だったのは20ミリ。まるで違う。
「あんなもの、本当に使えるのか?」
「授業で扱ったじゃない」
「動かしただけだよ。実際に撃ったわけじゃない」
あの時は興味もなかったから、訓練用の重機程度にしか考えていなかったし。
「あれで掃討するんだよ!」
杉林が意気揚々と乗り込んだ。
うん、一応俺も、授業で動かしたんだよね。だから分かる。
「あ、出て来た」
杉林がトボトボと降りてくる。
からかってやろうかと思ったが、なんか泣きそうだ。あれには口は出せん。
「私がやるわ」
まあそうなるよね。
砲身は4門だが、トリガーは1つ。
更に銃身――じゃねえな。砲身の上下は左のレバー。その点だけでいうなら杉林にも使えるんだが、問題は左右の方向転換。これ足元のペダルを使うんだよな。
残念ながら小学生には届かないのであった。
「なんだその目は! 笑いたきゃ笑えよ!」
「いや、笑わないよ」
生暖かい目で見守るが、こう強気になられるといきなり吹き出しそうになってしまう。
注意しないと。
などと考えている間に、高円寺が3体目を撃破した。
爆発の衝撃で建物がビリビリと揺れる。かなり近かったな。
というか三保松原の火が消えている。
今の爆発は新しく海岸線から出て来たのか。
これはタフな戦いになりそうだ。
そしてこの建物より後ろにいる連中に、来栖の88ミリ連装砲が火を噴いた。
というか轟音が凄い。
戦車砲クラスが分間10発。しかも4門。
弾はさすがに徹甲弾の様だが、あそこまで大口径長砲身だとどんな装甲も軽々と貫くな。
まあ元々高射砲にも使えるわけだし。
爆発したり高熱の液体金属を発する弾ではないとはいえ、そもそもの威力が桁違いだ。
1発で爆発させる高円寺の対戦車ライフル程では無いにしろ、数発も当たれば摩擦熱がどこかで引火して大爆発を起こす。
いやマジで凄いものを持ち出したものだ。
「弾頂戴、弾!」
問題はすぐに弾切れになるところだな。
というか弾? これは砲弾って言うんだよ。
しかもご丁寧にマガジンに入っているし。何キロあるんだよこれ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる