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【 エピローグ 】
そして群馬へ
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そんな訳で俺が休んでいる間にも何度か小規模戦はあったそうだが、三保松原戦ほどの大規模攻勢はそうそう無いそうだ。
まああったらさすがに押し切られているな。
こうして動けるようになった時、サンダース教官から手紙を預かった。
「校長からだ。大切な用事だから必ず行くように。ではな」
いつになく真面目で言いながら渡したそれは、戦勝記念のささやかなパーティーと、群馬へのチケットだった。それも明日。
「随分とまた早いものな」
少し苦笑する。まるでこちらの状況が分かっているかのようだ。
まあ当然帰るさ。さすがにちょっとあず姉に聞きたい事もある。本人が知らなければ常連にでもな。
ただその前に戦勝記念のパーティねえ。
……まあ盛大にやる事は期待していなかったが、場所は3階の一室。
バルコニーがあるのはなかなかに風情があるが――、
「まあ外はいざとなったら曲輪になるのよ」
と来栖に言われて風情が吹っ飛んだ。
ちなみに曲輪っていうのは城なんかで守り手が配置する部分の事だな。
まあそれでも、いつもよりも豪華な料理と、いつもと違う来栖のお洒落な格好に驚いた。
「ドレスも着るんだな」
「一応支給はされているのよ。使うことはないと思ったけど、ちょっと意外。あ、ちなみにこれだけ薄いのに防弾・耐刃で――」
「だから胸元を大きく引っ張るのは止めろ。見える」
「ん? だから生地の薄さや構造を見せているんだけど」
こいつには一度常識ってものを教えないとダメだな。
「それで、明日には群馬に戻るの?」
「まあな。折角戻れるんだ。色々と聞いてくるよ」
「その言い方だと、帰って来る気なの?」
「おかしいか?」
「そうとは思わないけど……ふふ、初めて会った時を思い出すわ」
「何も知らないお上りさんだっただろ」
「確かに、何も知らなかったわね」
こうして二人で笑い合い、今までの日々を語り合った。
そしてささやかな戦勝会が終わって部屋に帰ろうとすると――、
「あの、これから時間、良いですか?」
高円寺に呼び止められた。
「なんだい?」
戦勝会では当然ながら高円寺とも色々会話した。
意外な事に杉林ともな。
やはりあの戦いは、それぞれ思う所があった様だ。
まあ絶体絶命の所に現れたセスナの支援。そして弾薬補給。
それを可能にしたのがアラルゴスたちとの死闘だったという事で、色々と話が弾んだものだ。
だから逆に思うのだが、他に何の用だろう?
「明日は、もう群馬に行ってしまうのですよね?」
「まあね」
「その……戻ってくるのですか?」
その心配は分かる。
というよりも、赤兜を倒した以上、俺が静岡に留まる理由が無い。
後は故郷で3姉妹と料亭を手伝うか。たまに猪や鹿なんかを狩ったりしてな。
俺だってそんな風に思っていた。
けどなあ……。
「田舎では知れなかった事を色々と知れたよ。だからこそ、故郷に沢山の疑問があるんだ。それを確認したら、必ず戻って来るよ」
「はい……待っています……いつまでも……」
大げさな。
多少の療養を兼ねるので、まあ1ヶ月程度の滞在だろう。
その間に色々と調べないと。
なんて油断していると、感極まった高円寺に抱きしめられた。
骨がベキッと嫌な音を立てる。
だがまあ、歯をくいしばって耐えよう。
その後は落ち着かせる意味も兼ねて、夜通し高円寺と話をした。
神弾についても、可能な限り細かな儀式などの作法を聞いてくると約束もしてね。
そうしているうちに朝となり……。
「そろそろ時間だな」
「はい。お見送りします」
……ちなみに夜通し話をしただけで、決して手は出していないぞ。
本当だぞ。まだ死にたくはないからな。
本当は赤兜を倒したら死んでも良いと思って生きてきたが、僅かの間に俺も変わったものだ。
◆ ◆ ◆
そして静岡駅ホーム。
「相変わらず何というか……」
「何を言いたいのか知らないが、格好いいだろう?」
「……」
「……」
高円寺も杉林も沈黙している。そんなに変か?
ホームに入って来たのは、言うまでもなく群馬エクスプレス。
来た時と同じく、ピカピカの良いリニアじゃないか。
「じゃあ行ってくるよ。まあ一ヶ月くらいで戻って来る」
「そうね。その位は故郷で療養すると良いわ。まだあるうちにね」
いきなり物騒な事を言うな。
「戻って来たら、また貴方のお話をたくさん聞かせてください」
「どうせ一般人だ。1ヵ月と言わず、2ヵ月でも3ヵ月でも引っ込んでいると良い。何ならもう帰って来るな」
「そうしたいのは山々だが、戦場に幼女を置いて行くのはさすがになあ」
「誰が幼女だ!」
杉林は突っかかって来るが、当たり前のように高円寺に止められる。
まあこいつも悪意があっての……いや、悪意の塊だったわ。
何にせよ、あの戦いで全員が生き延びたのは奇跡のようなものだ。
だけどこれからも、その奇跡は続けないとな。
こうして、皆の見送りを受けながら群馬エクスプレスは静岡を出発した。
その上空を、2機のセスナが飛行している。あいつらだな。
結局忙しいという事で戦勝会では会えなかったけど、また会う機会もあるだろう。
それに相変わらず清水港周辺を拠点にしているという3年生たちにもな。
思えば短い間だったが、群馬に居たら決して体験できなかったような激しい毎日だった。
こちらでは辛い事も多かったが、それ以上は早くまたここに戻ってきたいとも思っている。
故郷のみんなは元気だろうか?
スマホが使えるようになったら、真っ先に連絡しないと。なにせ話す事は山積みだ。
だけど今ははとにかく皆の顔が見たい。全員元気だろうか? 心配とかしていないだろうか?
遠ざかっていく真っ白い駿府城を見ながら、そんな事を考えつつも俺は深い眠りへと落ちた。
まああったらさすがに押し切られているな。
こうして動けるようになった時、サンダース教官から手紙を預かった。
「校長からだ。大切な用事だから必ず行くように。ではな」
いつになく真面目で言いながら渡したそれは、戦勝記念のささやかなパーティーと、群馬へのチケットだった。それも明日。
「随分とまた早いものな」
少し苦笑する。まるでこちらの状況が分かっているかのようだ。
まあ当然帰るさ。さすがにちょっとあず姉に聞きたい事もある。本人が知らなければ常連にでもな。
ただその前に戦勝記念のパーティねえ。
……まあ盛大にやる事は期待していなかったが、場所は3階の一室。
バルコニーがあるのはなかなかに風情があるが――、
「まあ外はいざとなったら曲輪になるのよ」
と来栖に言われて風情が吹っ飛んだ。
ちなみに曲輪っていうのは城なんかで守り手が配置する部分の事だな。
まあそれでも、いつもよりも豪華な料理と、いつもと違う来栖のお洒落な格好に驚いた。
「ドレスも着るんだな」
「一応支給はされているのよ。使うことはないと思ったけど、ちょっと意外。あ、ちなみにこれだけ薄いのに防弾・耐刃で――」
「だから胸元を大きく引っ張るのは止めろ。見える」
「ん? だから生地の薄さや構造を見せているんだけど」
こいつには一度常識ってものを教えないとダメだな。
「それで、明日には群馬に戻るの?」
「まあな。折角戻れるんだ。色々と聞いてくるよ」
「その言い方だと、帰って来る気なの?」
「おかしいか?」
「そうとは思わないけど……ふふ、初めて会った時を思い出すわ」
「何も知らないお上りさんだっただろ」
「確かに、何も知らなかったわね」
こうして二人で笑い合い、今までの日々を語り合った。
そしてささやかな戦勝会が終わって部屋に帰ろうとすると――、
「あの、これから時間、良いですか?」
高円寺に呼び止められた。
「なんだい?」
戦勝会では当然ながら高円寺とも色々会話した。
意外な事に杉林ともな。
やはりあの戦いは、それぞれ思う所があった様だ。
まあ絶体絶命の所に現れたセスナの支援。そして弾薬補給。
それを可能にしたのがアラルゴスたちとの死闘だったという事で、色々と話が弾んだものだ。
だから逆に思うのだが、他に何の用だろう?
「明日は、もう群馬に行ってしまうのですよね?」
「まあね」
「その……戻ってくるのですか?」
その心配は分かる。
というよりも、赤兜を倒した以上、俺が静岡に留まる理由が無い。
後は故郷で3姉妹と料亭を手伝うか。たまに猪や鹿なんかを狩ったりしてな。
俺だってそんな風に思っていた。
けどなあ……。
「田舎では知れなかった事を色々と知れたよ。だからこそ、故郷に沢山の疑問があるんだ。それを確認したら、必ず戻って来るよ」
「はい……待っています……いつまでも……」
大げさな。
多少の療養を兼ねるので、まあ1ヶ月程度の滞在だろう。
その間に色々と調べないと。
なんて油断していると、感極まった高円寺に抱きしめられた。
骨がベキッと嫌な音を立てる。
だがまあ、歯をくいしばって耐えよう。
その後は落ち着かせる意味も兼ねて、夜通し高円寺と話をした。
神弾についても、可能な限り細かな儀式などの作法を聞いてくると約束もしてね。
そうしているうちに朝となり……。
「そろそろ時間だな」
「はい。お見送りします」
……ちなみに夜通し話をしただけで、決して手は出していないぞ。
本当だぞ。まだ死にたくはないからな。
本当は赤兜を倒したら死んでも良いと思って生きてきたが、僅かの間に俺も変わったものだ。
◆ ◆ ◆
そして静岡駅ホーム。
「相変わらず何というか……」
「何を言いたいのか知らないが、格好いいだろう?」
「……」
「……」
高円寺も杉林も沈黙している。そんなに変か?
ホームに入って来たのは、言うまでもなく群馬エクスプレス。
来た時と同じく、ピカピカの良いリニアじゃないか。
「じゃあ行ってくるよ。まあ一ヶ月くらいで戻って来る」
「そうね。その位は故郷で療養すると良いわ。まだあるうちにね」
いきなり物騒な事を言うな。
「戻って来たら、また貴方のお話をたくさん聞かせてください」
「どうせ一般人だ。1ヵ月と言わず、2ヵ月でも3ヵ月でも引っ込んでいると良い。何ならもう帰って来るな」
「そうしたいのは山々だが、戦場に幼女を置いて行くのはさすがになあ」
「誰が幼女だ!」
杉林は突っかかって来るが、当たり前のように高円寺に止められる。
まあこいつも悪意があっての……いや、悪意の塊だったわ。
何にせよ、あの戦いで全員が生き延びたのは奇跡のようなものだ。
だけどこれからも、その奇跡は続けないとな。
こうして、皆の見送りを受けながら群馬エクスプレスは静岡を出発した。
その上空を、2機のセスナが飛行している。あいつらだな。
結局忙しいという事で戦勝会では会えなかったけど、また会う機会もあるだろう。
それに相変わらず清水港周辺を拠点にしているという3年生たちにもな。
思えば短い間だったが、群馬に居たら決して体験できなかったような激しい毎日だった。
こちらでは辛い事も多かったが、それ以上は早くまたここに戻ってきたいとも思っている。
故郷のみんなは元気だろうか?
スマホが使えるようになったら、真っ先に連絡しないと。なにせ話す事は山積みだ。
だけど今ははとにかく皆の顔が見たい。全員元気だろうか? 心配とかしていないだろうか?
遠ざかっていく真っ白い駿府城を見ながら、そんな事を考えつつも俺は深い眠りへと落ちた。
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