この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
48 / 425
【 戦争 】

ホテルに行こう 後編

しおりを挟む
「それはそうとして、お前は早く服を着ろ!」

「昨日流しちゃったかな。過去を振り返ってもどうにもならないって、誰かが言ってたよ」

 元々ボロ布2枚を体に巻いていただけだったが、今日は完全に朝からマッパ。
 土左衛門になる時に千切れて失ったらしい。
 まったく……。

「ほら、これでも着てろ」

 ゲロ拭き用の布となってしまった俺のシャツだが、今はきちんと洗ってある。無いよりはマシだろう。

 だがなんだろう――失敗した。
 手は指まで完全に隠れ、太腿が半分ちょっと隠れる程度の丈。風に揺れて裾がひらひらとする度に、白い肌がちらちら見える。
 逆に着せた方がエロかった!

 どうしてだ? さっきまでの真っ裸の方が何も感じなかった。なんかマネキンに服を着せた方がグッとくる感じか?
 そういえば、今の今まで人としての意識は無かったような気がする。

 まずい、まずい、まずい。おそらくこの感情に魔人達も気が付いているだろう。
 あぁ、スースィリアがちょっと固くなってきた。
 どうしよう、とにかく落ち着け、落ち着け、落ち着け……。

 「なんだ、発情しているそれは魔王か。見るからに弱い。何の力も感じない。ホテルはこの先だ。さっさと行って来い」

 なんだ!? 鉄のバケツに顔を入れてしゃべっているような、そんな金属の響きがする低い声。
 辺りを見渡す……いた! 水路の影に、それは、その巨大な塊は佇んでいた。

 巨大だ。勿論80メートルのスースィリアに比べれば小さいが、それでも見知った姿で考えるそれよりは遙にデカい。

 全高6メートル、横幅8メートル。2匹の蟹を異次元で融合させた様に重なった姿。下は普通の姿勢だが、上は少し左に傾いている。それぞれの胴体からは3メートルの腕に5メートルのはさみ。それが2匹の蟹から生えて合計4本だ。体全体は珊瑚の様な石灰質の赤と白の斑模様の外皮に覆われており、その姿はとても美味しそ……綺麗だった。

「なあ、あれはどっち?」

 見た瞬間、それが魔人だと分かった。魔人ヨーツケール、それがあの蟹の名だ。

「食べられない方かな」

 だよね、食べないよ……つか質問の意味が違うわ。


「始めまして、魔人ヨーツケール。俺は相和義輝あいわよしき。今度新しい魔王になった。よろしく」

 スースィリアから降ろしてもらって挨拶する。しかし見上げるとものすごい迫力だな。
 特に鋏がすごい。自分の身長より大きな鋏なんて初めて見た! 身がぎゅうぎゅうに詰まってそうな感じとかが凄く良い!

 「お前からは不穏な気配がする。さっさとホテルに行け」

「大丈夫かな。魔王は蜜蟻の蜜しか食べないよ」

 ――いつからそうなった!

「つかホテルホテルって、いい加減教えてくれよ。俺はそこへ行って何をすればいいんだ?」

 「その建物を曲がればすぐだ。初めに言っておく、魔王よ。ヨーツケールは深くは係わらない。人の世界には干渉しない。お前が何をしようともヨーツケールは何もしない。だがお前の持つ知識には興味がある。お前を観察する。それだけだ」

 お互い不干渉か。あれは人を嫌った姿なのだな。
 だけど会話は出来る……やはりどうしてもスースィリアの事を考えてしまう。
 他の魔人に聞くのは筋違いだろう。いつか……そうだな、スースィリアが話せる魔人になったら、そして話せる事だったら聞いてみよう。


 魔人ヨーツケールの言う通り、大きな廃墟を曲がるとそれはすぐにあった。
 白い柵に囲われた大きな空間。周りは庭のようになっており、他とは違い整然と手入れされた植木が並んでいる。誰かが手を入れているのだろうか?

 中央には3階建ての立派な洋館。
 他の廃墟よりも少し白いコンクリートの壁で、そこには一面につたが生い茂っている。庭はかなり広く、スースィリアの巨体でも悠々と入れるほどだ。
 柵には入り口らしい鉄門があり、そこには『ホテル幸せの白い庭』と書かれた木の看板が取り付けていた。

「何というか、空の色と相まってすごく不気味なホテルだな」

 コンクリートのヒビや蔦が無ければ、すごく綺麗なホテルなのではないだろうかとも思う。だが、どんよりとした油絵の具の雲の下に佇む廃墟的なホテル。正直、ホラーやなんかに出てきそうな外見だ。

「何も出ないから早くいくかな」

 スースィリアが顎肢で器用に両開きの鉄門を開け、そのまま庭へと入っていく。
 するとホテルの入り口――そこにはメイド姿の女性が立って、こちらをじっと見つめていた。
 体が透けて、後ろが見えているのがものすごく気になる。

「ようこそ魔王様。こちらはホテルしわわせの白い……」

「あ、噛んだ」

「噛んだかな」

「ブシュウウゥゥゥ……」

 三者三様、言葉は違えど想いは一緒だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...