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【 戦争 】
ホテルに行こう 後編
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「それはそうとして、お前は早く服を着ろ!」
「昨日流しちゃったかな。過去を振り返ってもどうにもならないって、誰かが言ってたよ」
元々ボロ布2枚を体に巻いていただけだったが、今日は完全に朝からマッパ。
土左衛門になる時に千切れて失ったらしい。
まったく……。
「ほら、これでも着てろ」
ゲロ拭き用の布となってしまった俺のシャツだが、今はきちんと洗ってある。無いよりはマシだろう。
だがなんだろう――失敗した。
手は指まで完全に隠れ、太腿が半分ちょっと隠れる程度の丈。風に揺れて裾がひらひらとする度に、白い肌がちらちら見える。
逆に着せた方がエロかった!
どうしてだ? さっきまでの真っ裸の方が何も感じなかった。なんかマネキンに服を着せた方がグッとくる感じか?
そういえば、今の今まで人としての意識は無かったような気がする。
まずい、まずい、まずい。おそらくこの感情に魔人達も気が付いているだろう。
あぁ、スースィリアがちょっと固くなってきた。
どうしよう、とにかく落ち着け、落ち着け、落ち着け……。
「なんだ、発情しているそれは魔王か。見るからに弱い。何の力も感じない。ホテルはこの先だ。さっさと行って来い」
なんだ!? 鉄のバケツに顔を入れてしゃべっているような、そんな金属の響きがする低い声。
辺りを見渡す……いた! 水路の影に、それは、その巨大な塊は佇んでいた。
巨大だ。勿論80メートルのスースィリアに比べれば小さいが、それでも見知った姿で考えるそれよりは遙にデカい。
全高6メートル、横幅8メートル。2匹の蟹を異次元で融合させた様に重なった姿。下は普通の姿勢だが、上は少し左に傾いている。それぞれの胴体からは3メートルの腕に5メートルの鋏。それが2匹の蟹から生えて合計4本だ。体全体は珊瑚の様な石灰質の赤と白の斑模様の外皮に覆われており、その姿はとても美味しそ……綺麗だった。
「なあ、あれはどっち?」
見た瞬間、それが魔人だと分かった。魔人ヨーツケール、それがあの蟹の名だ。
「食べられない方かな」
だよね、食べないよ……つか質問の意味が違うわ。
「始めまして、魔人ヨーツケール。俺は相和義輝。今度新しい魔王になった。よろしく」
スースィリアから降ろしてもらって挨拶する。しかし見上げるとものすごい迫力だな。
特に鋏がすごい。自分の身長より大きな鋏なんて初めて見た! 身がぎゅうぎゅうに詰まってそうな感じとかが凄く良い!
「お前からは不穏な気配がする。さっさとホテルに行け」
「大丈夫かな。魔王は蜜蟻の蜜しか食べないよ」
――いつからそうなった!
「つかホテルホテルって、いい加減教えてくれよ。俺はそこへ行って何をすればいいんだ?」
「その建物を曲がればすぐだ。初めに言っておく、魔王よ。ヨーツケールは深くは係わらない。人の世界には干渉しない。お前が何をしようともヨーツケールは何もしない。だがお前の持つ知識には興味がある。お前を観察する。それだけだ」
お互い不干渉か。あれは人を嫌った姿なのだな。
だけど会話は出来る……やはりどうしてもスースィリアの事を考えてしまう。
他の魔人に聞くのは筋違いだろう。いつか……そうだな、スースィリアが話せる魔人になったら、そして話せる事だったら聞いてみよう。
魔人ヨーツケールの言う通り、大きな廃墟を曲がるとそれはすぐにあった。
白い柵に囲われた大きな空間。周りは庭のようになっており、他とは違い整然と手入れされた植木が並んでいる。誰かが手を入れているのだろうか?
中央には3階建ての立派な洋館。
他の廃墟よりも少し白いコンクリートの壁で、そこには一面に蔦が生い茂っている。庭はかなり広く、スースィリアの巨体でも悠々と入れるほどだ。
柵には入り口らしい鉄門があり、そこには『ホテル幸せの白い庭』と書かれた木の看板が取り付けていた。
「何というか、空の色と相まってすごく不気味なホテルだな」
コンクリートのヒビや蔦が無ければ、すごく綺麗なホテルなのではないだろうかとも思う。だが、どんよりとした油絵の具の雲の下に佇む廃墟的なホテル。正直、ホラーやなんかに出てきそうな外見だ。
「何も出ないから早くいくかな」
スースィリアが顎肢で器用に両開きの鉄門を開け、そのまま庭へと入っていく。
するとホテルの入り口――そこにはメイド姿の女性が立って、こちらをじっと見つめていた。
体が透けて、後ろが見えているのがものすごく気になる。
「ようこそ魔王様。こちらはホテルしわわせの白い……」
「あ、噛んだ」
「噛んだかな」
「ブシュウウゥゥゥ……」
三者三様、言葉は違えど想いは一緒だった。
「昨日流しちゃったかな。過去を振り返ってもどうにもならないって、誰かが言ってたよ」
元々ボロ布2枚を体に巻いていただけだったが、今日は完全に朝からマッパ。
土左衛門になる時に千切れて失ったらしい。
まったく……。
「ほら、これでも着てろ」
ゲロ拭き用の布となってしまった俺のシャツだが、今はきちんと洗ってある。無いよりはマシだろう。
だがなんだろう――失敗した。
手は指まで完全に隠れ、太腿が半分ちょっと隠れる程度の丈。風に揺れて裾がひらひらとする度に、白い肌がちらちら見える。
逆に着せた方がエロかった!
どうしてだ? さっきまでの真っ裸の方が何も感じなかった。なんかマネキンに服を着せた方がグッとくる感じか?
そういえば、今の今まで人としての意識は無かったような気がする。
まずい、まずい、まずい。おそらくこの感情に魔人達も気が付いているだろう。
あぁ、スースィリアがちょっと固くなってきた。
どうしよう、とにかく落ち着け、落ち着け、落ち着け……。
「なんだ、発情しているそれは魔王か。見るからに弱い。何の力も感じない。ホテルはこの先だ。さっさと行って来い」
なんだ!? 鉄のバケツに顔を入れてしゃべっているような、そんな金属の響きがする低い声。
辺りを見渡す……いた! 水路の影に、それは、その巨大な塊は佇んでいた。
巨大だ。勿論80メートルのスースィリアに比べれば小さいが、それでも見知った姿で考えるそれよりは遙にデカい。
全高6メートル、横幅8メートル。2匹の蟹を異次元で融合させた様に重なった姿。下は普通の姿勢だが、上は少し左に傾いている。それぞれの胴体からは3メートルの腕に5メートルの鋏。それが2匹の蟹から生えて合計4本だ。体全体は珊瑚の様な石灰質の赤と白の斑模様の外皮に覆われており、その姿はとても美味しそ……綺麗だった。
「なあ、あれはどっち?」
見た瞬間、それが魔人だと分かった。魔人ヨーツケール、それがあの蟹の名だ。
「食べられない方かな」
だよね、食べないよ……つか質問の意味が違うわ。
「始めまして、魔人ヨーツケール。俺は相和義輝。今度新しい魔王になった。よろしく」
スースィリアから降ろしてもらって挨拶する。しかし見上げるとものすごい迫力だな。
特に鋏がすごい。自分の身長より大きな鋏なんて初めて見た! 身がぎゅうぎゅうに詰まってそうな感じとかが凄く良い!
「お前からは不穏な気配がする。さっさとホテルに行け」
「大丈夫かな。魔王は蜜蟻の蜜しか食べないよ」
――いつからそうなった!
「つかホテルホテルって、いい加減教えてくれよ。俺はそこへ行って何をすればいいんだ?」
「その建物を曲がればすぐだ。初めに言っておく、魔王よ。ヨーツケールは深くは係わらない。人の世界には干渉しない。お前が何をしようともヨーツケールは何もしない。だがお前の持つ知識には興味がある。お前を観察する。それだけだ」
お互い不干渉か。あれは人を嫌った姿なのだな。
だけど会話は出来る……やはりどうしてもスースィリアの事を考えてしまう。
他の魔人に聞くのは筋違いだろう。いつか……そうだな、スースィリアが話せる魔人になったら、そして話せる事だったら聞いてみよう。
魔人ヨーツケールの言う通り、大きな廃墟を曲がるとそれはすぐにあった。
白い柵に囲われた大きな空間。周りは庭のようになっており、他とは違い整然と手入れされた植木が並んでいる。誰かが手を入れているのだろうか?
中央には3階建ての立派な洋館。
他の廃墟よりも少し白いコンクリートの壁で、そこには一面に蔦が生い茂っている。庭はかなり広く、スースィリアの巨体でも悠々と入れるほどだ。
柵には入り口らしい鉄門があり、そこには『ホテル幸せの白い庭』と書かれた木の看板が取り付けていた。
「何というか、空の色と相まってすごく不気味なホテルだな」
コンクリートのヒビや蔦が無ければ、すごく綺麗なホテルなのではないだろうかとも思う。だが、どんよりとした油絵の具の雲の下に佇む廃墟的なホテル。正直、ホラーやなんかに出てきそうな外見だ。
「何も出ないから早くいくかな」
スースィリアが顎肢で器用に両開きの鉄門を開け、そのまま庭へと入っていく。
するとホテルの入り口――そこにはメイド姿の女性が立って、こちらをじっと見つめていた。
体が透けて、後ろが見えているのがものすごく気になる。
「ようこそ魔王様。こちらはホテルしわわせの白い……」
「あ、噛んだ」
「噛んだかな」
「ブシュウウゥゥゥ……」
三者三様、言葉は違えど想いは一緒だった。
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