この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 戦争 】

魔王デビュー

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 相和義輝あいわよしきは腰を抜かしそうに驚いていた。魔人スースィリアがここまでやるとは思っていなかったのだ。正直やりすぎだ!

 だが、この静寂はこの戦場で唯一の機会。しかも想定すらしていなかったチャンスである。このため、これをするために、わざわざ軍勢を率いてきたのだ。そして人間と戦ったのだ。

 ――失敗は出来ない。

「エヴィア、ルリア、石獣と不死者アンデッドに戦闘を止めて下がるように伝えてくれ。それとやるぞ!」

 相和義輝あいわよしきの合図で蠢く死体ゾンビ達が一斉に旗を振り、赤と黒の発煙筒が炊かれる。

 ――さあ、今だ!

「聞け! 人類よ。我は魔王なり!」

 だが全然声が通らない。どう考えても聞こえているのは最前列の少しだけだ。これじゃ村役場の集会だよ!
 だがリンッと鈴の鳴るような音がし、体に一瞬銀の鎖の様なものが現れて消える。

「これで届くずに。さあ、目的を果たすずげ」

 魔人ウラーザムザザが魔法か何かをかけてくれたようだ。本当に博識で感謝してもしきれないよ。


『聞け、人類よ! 我は魔王! 魔族の王である!』

 争いの止まった戦場に、相和義輝あいわよしきの声が響く。

 ――さあ、カルター王、どう返す! ……無視だけはしないでくれよ。




 すぐさまカルターの前に通信士の リベンダーが通信機を捧げひざまずく。

『アイワヨシキ! 貴様には聞きたいことが山ほどある! こちらに来い! ぶっ殺してやる!』

 通信機を通しカルタ―の怒声も戦場に響く。
 その怒りはすさまじいが、動揺していることも明らかだ。

 ――乗った! 乗ってくれた! 言葉は物騒だけどありがとうカルター王。
 後は続け通すだけだ。最後まで!

『アイワヨシキ? フフ……フハハハ、フハハハハハハ! 何を寝ぼけているカルター! 我は魔王である!』

 小さな音で”真実です”と聞こえてくる。

 ――やっぱりエンバリ―さんも来ていたんだな。骸骨オブジェ、グッジョブ!

『魔王だと……! ふざけるな、ヤツは死んだ! 俺たちが倒したんだ! 貴様は何者だ!』

 カルタ―の怒りが大気を震わし相和義輝あいわよしきの全身の毛を逆立てる。もし皆が居なければ、ここで腰を抜かしてへたり込んでいたかもしれない。

 ――魔王は死んでなどいない……これはダメだ。

 ――それがどうしたフハハハ……いや、これもダメだ。

 この返答を間違えたらだめだ……本能が警鐘を鳴らす。
 ごまかしても、はぐらかしても説得力を失う。言葉から意味が消え、肝心なことが伝わらなくなってしまう。

『そうだ、君達は魔王を倒した。おめでとうカルタ―、いや人類の諸君』

 わざとらしくパチパチと拍手。
 それに合わせ、数十万将兵達の怒りと憎しみが相和義輝あいわよしきに集中する。
 只の視線、見ているだけ。だがそれは見えない圧力となって相和義輝あいわよしきの心身をえぐる。
 そうか、人の憎しみとはここまで魂を刺すのか。だが、もう退けないのだ。

『だが……ククク、笑わせてくれる。君達にはあの空が見えないのかな? 全ては無駄だったのだよ、君達の尊い犠牲はな。ハーッハッハッハッハッハ!』

「相当怒ってるかな。いつ突っ込んできてもおかしくないよ」

 エヴィアがそっと教えてくれるが、下手に出たら意味がない。オルコスの時の二の舞だ。
 こちらが一方的に話し合いのテーブルを用意しても、彼らはそれを蹴飛ばして剣を振り下ろしてくるのだ。
 多少怒らせても、いや怒らせるだけの余裕を見せなければいけない。こちらが強大でなければ、人間側に話を聞く理由が無いのだから。

『だが私は寛大だ。一度は魔王を倒した事に敬意を表し、ご褒美を上げようと思う』

 もう突撃させようと思っていたカルタ―であったが、少しだけ魔王の話に興味がわいた。我々から全てを奪った魔王が、いったい今度は何を与えようと言うのか。

『君たちが作った壁……フハハハ、実に壮観だったよ。ご苦労な事だ。だがせっかく作ったのだ、アレを線引きとする。今後は壁を越えない限り、我々魔族は君たち人類に干渉しないと約束しよう』

 リベンダーの通信機が“真実です”と小さな音を拾う。

『さあ、祖国へ帰って伝えたまえ。私の気が変わらぬうちにな。ハハハハハハハハハッ!』

 周囲の兵達の様相が一変する。戦場がざわつき始め、様々な意見が飛び交っている様子が判る。戦っていた心が、何をしたら良いのか分からなくなる空気。彼らはもう、自分の意志だけでは戦えない。
 頼む! これで退いてくれ!

『この……俺を……、ティランド連合王国国王、カルター・ハイン・ノヴェルド・ティランドをメッセンジャーにするだと……』

 だがカルタ―の怒りは、さながら噴火直前の火山の様だ。やばい、何か想定外のツボをついて怒らせてしまったか!?

「全軍! 突げ……」

 だがカルタ―は突撃の号令をかけようとした所でバッタリと倒れる。決して怒りすぎて気を失ったわけではない。魔法……? エンバリーが何かしたんだ。

 そのエンバリーは眠りの風の魔法をカルターに掛けた。もう勝敗は決してしまったことを理解したのである。
 そしてカルタ―を他の兵に預けながら、貫くような、本当に視線だけで殺しそうな憎悪の目を向けて下がって行く。それに合わせ、本隊と後衛の残存兵力はゆっくりと退いていった。

 良かった……これでひとまず終わりだ。思わず力が抜けそうになる。
 しかし――、

「陛下の事、よろしくお願いいたします。皆の者、我に続け! 魔王を討つ!」

 ミュッテロン将軍はエンバリーに挨拶すると、残る前衛の僅かな残存兵力を糾合し、最後の突撃を敢行した。
 魔王の言葉に怒りを感じたからではない。そんな安っぽい挑発で動くほど、ミュッテロンは愚かではない。
 だが彼は、魔王が素直に自分達を帰すなどとは信じていなかった。そんな言葉に預けられるほど、王の命は軽くはないのだ。

 ――まだやるのかよ! そこまで殺し合いたいのかよ!
 チクショウ! チクショウ! チクショウ!




 ティランド連合王国兵の最後の一人が倒されたとき、魔王、相和義輝あいわよしきは泣いていた。ただひたすら、この無駄な殺戮に泣いていた。
 だが終わったのだ。この遠征の目的は果たしたのだ。
 伝えられたのだ、和平への想いを……。

 これであっさりと解決するとは思わない。だが魔王健在と判明した今、人類は様々な思惑を巡らせるだろう。大規模な軍事行動に出る可能性もあるが、逆に様子見をしてくれる可能性だってある。
 もし前者だった時に備えなければいけない。だが、平和への想いを人類が持っていることを信じたい……。

 さあ帰ろう……人類軍の撤退を見送り、そう思った時だった。

「それでは、ウラーザムザザはもう行くずに。達者でなずこ」

 ――え!? あまりの驚きで言葉が継げない。だがそうだ、初めて会った時にエヴィアが言っていたんだ。もうじき居なくなってしまうと……。

 魔人の生態は判らない。だが魔人ウラーザムザザの巨大な目玉はもうここを見ていない。遥か彼方、遠い遠い場所、俺の知らない世界を見つめている。

「今まで……今まで本当にありがとうございました!」

 頭を限界まで下げ、ただそれだけしか言えなかった。
 もっと話したい事があった。これからも教えてもらいたい事が沢山あった。だけど、引き留められない事も分かってしまったから……。
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