この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
142 / 425
【 大火 】

ケルベムレンの戦い 後編

しおりを挟む
 防衛隊指揮官“歩く城塞”マリクカンドルフ・ファン・カルクーツ将軍の命が発せられると共に、民兵隊に対して防衛隊による弓矢の斉射が始まった。
 慌てて石垣から逃げ落ちる者、落とし穴に自ら飛び込む者。そして多くの者が状況を理解できずに橋に殺到するが、広いのは入り口だけだ。すぐに詰まり、落とされ、そしてそこに矢が降り注ぐ。

 阿鼻叫喚の悲鳴が上がり、石垣を登り切った部隊はパニックに陥りながら次々と討ち果たされていく。だがまだ、登って来る者は状況を把握できていない。上で戦闘が行われている程度の認識で、早く到着せねばと焦って上る。

 登ってくる民兵にも弓矢を持つ者はいるが、予想外の狭さのため味方が密集し、矢を射る事が出来ないままに撃ち倒されていった。


 守備兵達で、魔族領に行った者は僅かだ。これまでの遠征軍に参加した将兵は、殆どが死んでいるからだ。だから魔族と比べてどうかは知らない。だがマリクカンドルフは、しっかりと感じ取っている。

 ――人間とは……これほどまでに弱く、脆かったのか……。

 今までも何度も人間と戦ってきてはいる。彼の異名はその過程で付いたものだ。だが魔族領で亜人の軍団と戦った彼にとって、粗末な武器だけしか持たず、満足な統率も取れていない民兵はあまりにも脆弱だった。

 戦闘開始から4時間。ただそれだけの時間で、百万を超える民兵が虐殺される。しかも守備隊は3交代制の編成の第一陣。数百人の負傷者を出しつつも死者は0。全く戦いにもならない、一方的な殺戮であった。

「全員を一時後退させよ」

 サウル王の命令によりようやく民兵隊が後退する。だがどういう事だ、この街にあのような防衛手段が作られているなど聞いたことが無い。ゼビア王国と共に侵攻して丁度30日目。まだ、たったそれだけの日数しか経っていないのだ。

「かなり早い時期から予想していたのでしょうか?」

 長身ではあるが細くしなやかなで、猫科の獣を思わせる体に黄金色の全身鎧。
 兜は外しており、シャープな顔立ちと糸のように細い目が顕わになっている。髪は薄青色で、後ろは短く刈りあげているが、前髪は目に掛かる程に長い。
 サウル・ハム・ラッフルシルドの直系の孫である、ツェミット・ハム・ラッフルシルド将軍は、顔色を窺うように王に進言する。

「フム……それは有り得ぬだろう。分かっていればここまで侵攻はさせまい」

 こちらは身長はほぼ同じだが、その分厚い筋肉のせいでツェミットの倍ほどにも見える。やはり黄金色の全身鎧で身を包み、兜も同じく外している。
 短く揃えた白い髪、そして黒い瞳には思案の色が濃く浮かぶ。
 バロウス・バロウス。”百刃の剣聖”の異名を持ち、またバロウス血族初代党首でもある。この北国では、その名を知らぬものは居ないと言われるほどの英雄だ。

 他の諸将も、事前に情報を掴まれているとは思っていない。それは、ここまでの進軍の容易さが如実に物語っていたからだ。
 だがサウル王は、おおよその察しを付けていた。

 ――いや、やられたな……。

 おそらく早い段階から動きは掴まれていたのだ。そうでなければ、このご時世に畑を潰してまで防衛体勢を敷く必要性が無い。
 だが問題は、その理由。バロウスの言うように、分かっていればもっと万全の体制で迎え撃てるはずなのだ。
 不確かだったから中途半端な防御態勢になった……そう考えるのが妥当だろう。
 ならば、他が更に固まる前にここを突破する必要性がある……。

「防衛指揮官は誰だったか」

「領主のペニー・ダミスか、駐屯兵隊長のラウリア・ダミスだとは思われますが、どちらが総指揮をしているかは不明ですが、両名共に戦場では大した武功を上げていない人物ですな」

 王の言葉に対し、バロウスがすぐに返答する。

「これといった特色は無しか。ならば正攻法を良しとしよう。北と西を主攻とし、東と南は牽制のみで良かろう。だが手薄となれば、そのまま突破して構わぬ」


 ラッフルシルド王国軍が再度の攻撃を仕掛けたのは、翌日の昼過ぎだった。再び全方位から進軍するが、今度は正規の兵も混じる。
 先ほどまでの民兵だけとは違う、主攻部隊だ。

 ケルベムレンの街、大きな建物の中にぽつんと立つ小さな住居。そこにマリクカンドルフは本陣を構えていた。
 さほど広くない部屋には10数人の部隊長や通信士が控え、中央に置かれたテーブルには配置図が置かれている。

「今回は正規兵も含まれている様です」
「早くも出してきましたか……数日は牽制しながら囲むのみと思ったのですが」

 部隊長達としては、いきなり主攻を仕掛けてくるとは予想していなかった。確かに外は厳しい冬の寒さだ。あまり長居はしたくないだろう。だがいくらなんでも強硬策が過ぎるのではないだろうか?
 だがマリクカンドルフとしては、相手の意図ははっきりと判る。

「北と西が本軍だな。半分は東と南から3割の人員を割いて、それぞれに移動させよ」

 奴等はここの防衛が整えられている事に危機感を覚えたのだ。このままでは、この先も予想以上に防備が整えられて益々不利になると。だから急ぐ。
 今の季節は北西から強い風が吹く。山に囲まれた平野の中心にあるこの高台は、更に影響が大きい。弓矢による被害を少しでも減らすには、北と西から攻めるのが基本だ。

 ――基礎は出来ている。だがそれ故に読みやすい……。

「では、迎撃を始めよう。手筈通りにな」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

処理中です...