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【 大火 】
拒絶 後編
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夜、ユニカの部屋の扉がギィっと開く。
ビクッ! 慌てて扉に目をやりながら庭で拾った短剣を握る。多少はこの生活に慣れてはいる。だが魔族領来てから、そしてここに連れて来られてから、本当の意味で気が休まる余裕なんて一度も無い。周りは全て敵なのだから。
だが入ってきた人影を見て、なんだ……と思いながら安心した。
部屋に入ってきたエヴィアは、何も言わずに同じベッドへと潜り込んでくる。そしてすぐに寝てしまうのだった。
最初の内は床で寝ていたが、散々ベッドについての説明を聞いてからは、こうして一緒に寝るようになった。
自分の仲間を殺した魔族。自分を攫ってきた怪物。
最初に出会った時は、表情も無くもっと恐ろしい魔族に見えた。だけど色々と話をする内にどんどん表情や仕草を覚え、僅かの間に人間とさほど見分けがつかない程に成長……いや、学習した。
今では、この世界で唯一まともに話が通じる相手だ。
だからだろうか? こうしてこの魔族が横で寝ている時が、この世界で一番安心できる。
あたしの味方? 一瞬過った変な考えを振り払う。これは敵。あたしの敵であって、当然人類の敵。そう、これは敵なんだ!
そう考えながらも、寝ているエヴィアの頭を撫でながら眠りについた。
◇ ◇ ◇
朝、相和義輝が出発の支度をしていると、一階の厨房から芳しい香りが漂ってくる。死肉喰らい……じゃないな。最近料理を作っているのはユニカだ。衛生面を気にしているのか、不死者は一切立ち入らせないからな。
さてどうしよう……これから朝食を食べてから出立なのだが、今ここで挨拶するべきだろうか。お腹の子の父親としては、やはりもっと仲良くなりたい。だが彼女はこちらを徹底的に拒否している状態だ。下手に刺激しない方が良いのかも……。
だがそんな風にいつまでも逃げていても仕方がない。これから当分は会えないのだし、せめて少しは和解しておきたい。
「おはよう、ユニカ」
そんな訳でさりげなく朝の挨拶をして様子を見ようと思ったのだが、彼女の反応は予想以上……いや、ある意味予想通りだった。
一瞬で振り向くと、手にした包丁をこちらに向けて構える。紺色の瞳は親の仇でも見るように鋭く睨みつけ、刃を持つ細く白い手はふるふると震えている。
「いや、大丈夫だよ。何もし……」
「来ないで!」
話しかけながら一歩踏み出そうとするが、その小柄な体からは想像もつかないほど大きな声で拒絶される。
何と言うか――辛い。
何処でこうなったのだろう……いや、そもそも出会いからして悪かったのだ。一番最初にボタンを掛け間違えたからだ。そういった考えが頭をよぎる。
だが違う。そんな近い所からではない。もっともっと根本から、俺達はズレていたのだ。魔王と人間、それは互いに敵同士。本来なら殺しあう関係だ。
これが、本来の俺と人との距離なのだろう。どうあったって変えられない……それこそ、悠久の時をかけて築き上げてきた関係の、延長線上に立っているのだ。
だがここで諦めたら、俺は何のために戦っているのだろうか。倒す相手は人類じゃない、この関係をこそ壊さなければいけないんだ。
勇気をもって一歩進む。
「ユニカ、聞いてくれ」
「お願いだから来ないで!」
ユニカの顔面は蒼白になり、その瞳は恐怖に完全に染まる。そこまで憎いのか……。
悔しさのあまり、怒りが滲みだしてくる。握った拳が震えているのが自分でも分かる。そんなこちらの様子を察してか、彼女はじりじりと、逃げ場を求めて下がって行く。
ギュっと、後ろから誰かが俺の袖をつかむ。エヴィアだ。
そして無言で首を横に振ると――、
「今はダメかな」
そう小さな声で呟く。悲しそうな、だが非難するような眼差し……まさか魔人に人の心の機微に関して窘められるとは思っていなかった。だが、少しだけ冷静になれた。ここは退散だ。
結局俺は、朝食も取らずに領域巡りの旅に出たのだった。
ビクッ! 慌てて扉に目をやりながら庭で拾った短剣を握る。多少はこの生活に慣れてはいる。だが魔族領来てから、そしてここに連れて来られてから、本当の意味で気が休まる余裕なんて一度も無い。周りは全て敵なのだから。
だが入ってきた人影を見て、なんだ……と思いながら安心した。
部屋に入ってきたエヴィアは、何も言わずに同じベッドへと潜り込んでくる。そしてすぐに寝てしまうのだった。
最初の内は床で寝ていたが、散々ベッドについての説明を聞いてからは、こうして一緒に寝るようになった。
自分の仲間を殺した魔族。自分を攫ってきた怪物。
最初に出会った時は、表情も無くもっと恐ろしい魔族に見えた。だけど色々と話をする内にどんどん表情や仕草を覚え、僅かの間に人間とさほど見分けがつかない程に成長……いや、学習した。
今では、この世界で唯一まともに話が通じる相手だ。
だからだろうか? こうしてこの魔族が横で寝ている時が、この世界で一番安心できる。
あたしの味方? 一瞬過った変な考えを振り払う。これは敵。あたしの敵であって、当然人類の敵。そう、これは敵なんだ!
そう考えながらも、寝ているエヴィアの頭を撫でながら眠りについた。
◇ ◇ ◇
朝、相和義輝が出発の支度をしていると、一階の厨房から芳しい香りが漂ってくる。死肉喰らい……じゃないな。最近料理を作っているのはユニカだ。衛生面を気にしているのか、不死者は一切立ち入らせないからな。
さてどうしよう……これから朝食を食べてから出立なのだが、今ここで挨拶するべきだろうか。お腹の子の父親としては、やはりもっと仲良くなりたい。だが彼女はこちらを徹底的に拒否している状態だ。下手に刺激しない方が良いのかも……。
だがそんな風にいつまでも逃げていても仕方がない。これから当分は会えないのだし、せめて少しは和解しておきたい。
「おはよう、ユニカ」
そんな訳でさりげなく朝の挨拶をして様子を見ようと思ったのだが、彼女の反応は予想以上……いや、ある意味予想通りだった。
一瞬で振り向くと、手にした包丁をこちらに向けて構える。紺色の瞳は親の仇でも見るように鋭く睨みつけ、刃を持つ細く白い手はふるふると震えている。
「いや、大丈夫だよ。何もし……」
「来ないで!」
話しかけながら一歩踏み出そうとするが、その小柄な体からは想像もつかないほど大きな声で拒絶される。
何と言うか――辛い。
何処でこうなったのだろう……いや、そもそも出会いからして悪かったのだ。一番最初にボタンを掛け間違えたからだ。そういった考えが頭をよぎる。
だが違う。そんな近い所からではない。もっともっと根本から、俺達はズレていたのだ。魔王と人間、それは互いに敵同士。本来なら殺しあう関係だ。
これが、本来の俺と人との距離なのだろう。どうあったって変えられない……それこそ、悠久の時をかけて築き上げてきた関係の、延長線上に立っているのだ。
だがここで諦めたら、俺は何のために戦っているのだろうか。倒す相手は人類じゃない、この関係をこそ壊さなければいけないんだ。
勇気をもって一歩進む。
「ユニカ、聞いてくれ」
「お願いだから来ないで!」
ユニカの顔面は蒼白になり、その瞳は恐怖に完全に染まる。そこまで憎いのか……。
悔しさのあまり、怒りが滲みだしてくる。握った拳が震えているのが自分でも分かる。そんなこちらの様子を察してか、彼女はじりじりと、逃げ場を求めて下がって行く。
ギュっと、後ろから誰かが俺の袖をつかむ。エヴィアだ。
そして無言で首を横に振ると――、
「今はダメかな」
そう小さな声で呟く。悲しそうな、だが非難するような眼差し……まさか魔人に人の心の機微に関して窘められるとは思っていなかった。だが、少しだけ冷静になれた。ここは退散だ。
結局俺は、朝食も取らずに領域巡りの旅に出たのだった。
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