この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 大火 】

先手

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 元々マリクカンドルフは戦術家に属する人間だ。こういった方面で名を残す人間は、得てして人情家が多い。
 戦場に立った人にはそれぞれ拠るところがある。金であったり名誉であったり、また上官の能力への信頼であったりだ。だが自分の命が失われようとする時、それらが一体何になるのか。そんな最後の線を繋ぐ要素が、自分の死後の世界であり、残してきた家族や友の行く末を託せるかどうかだ。たとえ自分が捨て駒であっても、そこから先を信用できる相手。
 戦場において最初に捨てるように言われる人間性が、結局のところ、極限状態に置かれた兵士の心を繋ぎ止めるのだ。

 だが一方彼――リッツェルネールは戦略家に属する。
 彼らは兵士達の先にある生活や家族は見ない。兵達とは単なる数字であり、最終目標までにどれだけ減って良いかを冷徹に判断して計算する。負うべき責任は対局の結果であり、人ひとりの生死などに心を動かす人間には務まらない。しかもその中でも、特に軍略のみに特化した存在。
 個人として見ても、人間の繋がりで避けては通れない、国家、民族、宗教等から隔絶した商人という人種。合わせて考えてみれば、この世で最も人から遠い位置にいる人間だ。

 だがそれでも、以前リアンヌの丘で出会った時は、そこはかとなく人間性を滲ませていた。彼の心を社会に繋ぎ止める何かがあったのだ。
 商人らしく金か? だが彼が贅沢を志向する人間とはとても思えない。

「君は何のために戦っている?」

 マリクカンドルフは聞かずにはいられなかった。

「今日という日が明日も続くためですよ」

 彼の返答の意味をどう取るべきか暫し悩んだが、結局それ以上は言葉を発せずにマリクカンドルフは出陣した。




 ◇     ◇     ◇




 カルタ―は執務室で、送られてきた報告書を読みながら頭を掻いていた。その顔には、苦虫を噛み潰したような表情が浮かんでいる。

「やられたな……先手を取られたか……」

「陛下、いかがなさいましたか?」

 カルタ―の言葉に反応し、ハーバレス宰相が声をかける。

「コンセシールが、ハルタール帝国で軍事行動を起こしやがった」

 イラつくように報告書を机に放り投げる。実際、彼の怒りは凄まじく、少し前だったら机を叩いて怒り狂っているところだ。

「それは条約違反ではありませんか? いっその事、それを口実に攻め込む手もありますが……」

 既にティランド連合王国の軍勢450万人と民兵2千万人が、コンセシール商国に攻め込む支度は整えてある。
 だがそれは、あくまで商国の軍事力が帰国し、正式に独立を表明してからの予定だった。
 一度は従属させた国に圧力をかけ、更に攻め込むというのは、さすがに国家としての体面が立たない。
 たかだか一つの小国を潰すのにそんな悪歴を残しては、他の従属国家との関係だけではなく、今後の国際的な信用にも響きかねないのだ。

「それは話にもならん。潰せば良いと言うだけの話じゃねぇ」

 実際、その程度の事はハーバレス宰相も分かっている。一応、王の考えを確かめておこうという意図の提言であった。

 それに四大国同士の介入が条約違反と言っても、そもそもがコンセシール商国は世界連盟に加盟していない。より正確に言うなら、かつては加盟していたが、属国になり外交権を失った時点で脱退しているのだ。他国の国境を超える事に、条約上の制限はない。

 本来であれば連合王国の認可が必要だが、交易封鎖を行った時点で双方の関係は壊れている。もう実質的には戦争に突入しているのだ。だからその行為を咎める権限も無い。

「ハルタール……どう見る?」

「おそらくは、商国軍を容認するでしょう。我々は、常に北面を脅かされることになるでしょうな」

「だろうな。一応、北方諸国には援助物資を送れ。いつ始まっても良いようにな……いや、飛甲騎兵隊も送るとしよう。歩兵じゃどうにもならぬ相手だ」

 今の段階で商国本土を落としても、工場などは全て破壊されるだろう。手にするものは、精々1千万人が暮らせるかどうか程度の焦土となった土地。
 一方で、ハルタール内部には飛甲騎兵隊という実働部隊が残る。今回の一件で、帝国はそれを保護せざるを得ない。
 世界各地に残る商国の莫大な財、そして技術力。今後何年……いや、何十年と、隣接する北方の連合加盟国は、神出鬼没なゲリラ戦闘に苦しめられる事になる。

「小さな国と侮っていたことは認める。だがあまりにも早い……手際が良すぎる」

「先ほど、ランオルド王国郊外に駐屯していた商国軍隊はダミーであったと報告がありました。相当早くから……おそらくは開戦前から移動していたと考えられます」

 もしかしたら、この内乱の裏で糸を引いていたのが奴、リッツェルネールではないのだろうか? そんな考えが頭をよぎる。
 だとしたら、終結点はどこに設定されている? 何を目標にしてこの戦いを起こしたのか。単なる金儲け、そんな単純な理由だけでここまでの事を計画するだろうか。

 コンセシールの独立……それを目論んでいるのは前々から察しがついている。
 しかしこちらが攻め込んだとして、主力部隊は北方にあるから国家は守れない。しかも貿易封鎖を解除しそれなりの違約金を払えば、ビルバックなら直ぐに再度の従属に従うだろう。

「考えても解らねぇな。今のまま南と北に戦力を集中させて様子を見る。出来る限り早くオスピア帝との会談を開けるように調節しろ……それとだな、それは何だ」

「ああ、これでございますか」

 ハーバレス宰相のスーツには、いくつもの略式勲章が刺繍されている。金属の勲章をジャラジャラとぶら下げていては面倒なので、こうして簡略化しているのだ。だがその中に、毛色の違うものが混ざっている。

 それは1枚のワッペン。3頭身くらいにデフォルメされたウインクをしている女性の図柄で、服装は蝙蝠柄のチューブトップブラにビキニパンツと扇情的だ。全体はピンク色で、ハートの形をしている。
 とても軍属の人間が付けるようなものではないが……。

「これは巷で流行りの物です。不思議なもので、とても良い夢を見た後に枕元に置かれているのですよ。シールは比較的多いのですが、ワッペンは希少です。今では金貨60枚前後で取引されております。何と言いましょうか、とても強い愛着がわきまして、こうして身につけておる次第です」

「随分と胡散臭い話だな。魔族がらみではないのだろうな?」

 カルターはハーバレス宰相をジロリと睨むが、当の本人は涼しい顔だ。

「こちらは人間の世界です。どうぞご安心を。これは神の恩恵に属する類でしょう」

「まあいい。世の中、何が流行るか分からんものだな」

 そう言って、カルターはこの話題を打ち切った。
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