この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

空を覆う怨念

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 魔王相和義輝あいわよしきは、ホテルに戻って情報の整理をしていた。
 魔人ゲルニッヒらに人間との会談を頼んだはいいが、それまでに改めて交渉内容を纏めておかねばならないからだ。
 もし内容に不備があったとしても、「では持ち帰って検討します」とは言えない立場である。
 これ1回で全てが決まるわけでは無いにせよ、可能な限りスムーズにやり遂げたい。

「こちらが求める物は和平ただ一つ……シンプルだ。当然恒久的なものにはなり得ないだろうが、長ければ長いほど良い」

 ホテルの部屋には魔王一人だけ。ユニカは魔人ヨーツケールを伴って、食料の調達に出かけていた。結局ホテルに戻ってから、お互い一言も口を利かない関係だ。冷え切った状態だが、今は仕方がない。
 魔人エヴィアは1階。魔人スースィリアは庭に居て、たまに様子を覗きに来る。
 そんな訳で、ぶつぶつと独り言を言ってはメモし、また考えるとういう悶々とした時間を過ごしている。

「こちらから出せるのは、金と太陽と……」

 寿命の件を考えて思考が止まる。これはプラスの意味での交渉材料足り得るのか? 普通に考えればむしろマイナスだ。産まれた時から寿命が無い人々にとっては、「俺が代わりに殺してやる」と言っているのと同義だからだ。

 たが土地は無限ではない。繁殖も止まらない。結局、増え続ける人間には死ぬ理由が必要なのだ。そして今のその理由は……。

「魔族を倒す事なんだろうな……」

 誰かのために死んだのだ、その死は無駄じゃないんだ……だが、それで殺される魔族があまりにも可愛そうではないのか。増えすぎた事が苦であるのなら、素直に自害してくれたらどれほど楽な事かと思う。

 それに、人類は本当にその先を考えているのだろうか? 壁へ行く道中でノセリオさんに聞いた話では、魔族領が終わったら東に残っている領域を滅ぼす。それで終わりのような口ぶりだった。
 だがそうだろうか? 実際には何も変わらない。時間が経てば戦争で失われた数は戻り、魔族領だって人間で溢れてしまうだろう。次は海か? だがこれは、俺の知る限り今の人類には不可能だ。

「そうなったら、結局人類同士で殺しあうんだろうな。ご苦労な事だ」


 そう言えば、ゼビア王国とやらが主人である帝国に反旗を翻したと聞いた。魔族領の撤退と時期が重なるところを見ると、やはりそうなのだろう。魔族を倒せなかったから、人間同士の戦争に戻ったと言う事だ。

「それでいいんだろうか?」

【いいさ、それが人間の本質だよ】

「人間同士の戦争に疲れたら、結局またこちらに攻めてくるんだろ?」

【そうさ、ずっとそうしてきた。次も殺せばいい】

「そうだな。向こうが人間同士で戦っている間に、こちらは力を付けておけばいい。そして追い返せば、また人類同士で勝手に始めるだろ」

【【【そうだよ……それがいい……賛成だ……】】】

「魔王様、お茶が入りましたわよ」

 突然聞こえてくる死霊レイスのルリアの声。普段聞きなれているはずなのに、突然聞こえた気がして少し驚いてしまう。どうにも頭がぼんやりする。疲れていたのだろうか。

「ああ、ありがと……」

 礼を言いながら振り向いた瞬間、目の前に飛び込む真っ白い布。輝くような純白に、精緻な技で織り上げた美しいレース。そしてそこから飛び出す太腿は、透けて奥の壁が見えるとはいえ十分すぎるインパクトを与えた。

 しまった――だがそう考える余裕もなく、ごそっと――それこそドバーと擬音が付きそうな勢いで、貯めていた魔力を根こそぎ持って行かれてしまった!

「くそっ、油断した……」

 実際にお茶を持ってきた屍喰らいグールが一礼して下がる一方で、ルリアは他の死霊レイス達と嬉しそうにハイタッチ。まるで子供の様にキャッキャとはしゃいでいる。
 上半身はいつもと同じで、胸元が大きく空いたフリルの付いたメイド服。だがスカートがやばい。股下0センチと言った、モロ見えのフレアの超ミニスカート。

 魔力もかなり貯まっていたので、そろそろ精霊の皆に渡そうと思っていた頃合いだ。それを横取りしようと、この瞬間の為に入念に準備して来たのだろう。本当に油断のならない連中だ。

 だが取られたものは仕方が無い。こいつらに怒っても効かないしなー。やれやれと思いつつ再び思考を戻し……体から一気に血の気が引く。
 何を考えていたのか、それはしっかりと覚えている。だが、あれは本当に俺の頭から出てきた答えなのか? それに、誰かが相槌を打っていた気がする。しかし実際にはそんな相手はいない。あれは、俺自身が自分の考えを補強していたのだ……それも悪い方向へ。

 窓から見上げた空に広がる油絵の具の空。
 以前にも考えたことがある。この体は俺であり、あの雲も俺だ。だがあちらは俺だけじゃなく、歴代魔王の意志や記憶も混ざっている。
 そしてそれは、さっきの様に魔力の支払いで使わない限り、どんどん俺の内に貯まってくるわけだ。

「魔王様、難しい顔をなされていますわ。もしかして、怒ってます?」

 珍しくルリアが心配そうに覗き込んでくる。だが――今回は助かったのかもしれない。

「いや、良い機会だったよ。むしろ感謝する。だけどもうやるなよ」

 ――まあ、言っても無駄なのだが。
 それよりもと……改めて空を眺める。
 あれは消さなければいけない。透明にするのではなく、根本的にだ。あそこに漂う魔力は、俺であるがやはり違う。何千何万年と、人類と戦い続けた魔王達の意識。それは怨念であり怒り、また諦め、虚無……絶望。
 何時かは俺の次の魔王が呼ばれるだろう。だが、その誰かにアレは残せない。

「まおー、ダメなのであるぞ。吾は寂しいのであるぞ」

 いつの間にか、窓からスースィリアが覗き込んでいる。大きなムカデの顔に表情は無いが……ああ、判る。かなり悲しませてしまっているな。
 だけど……いずれは何かしらの手は打たねばならないだろう。そう感じていた。
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