この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

雨中の激闘 後編

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 天に雷鳴が響き、地には激しい雨が降りしきる。
 両軍互いに譲らぬも、マリセルヌス王国軍の優勢は明らかだった。
 ジェルケンブール王国軍が弱い訳ではない。だが、やはり軍事一辺倒の国を相手では分が悪い。地の利が無い上に、雨による視界の悪さがそれに拍車をかけた事も災いした。

「奴の足を抑――」

 配下に命令を出していた漆黒鎧の指揮官が、ロイの一撃を受け首から上が吹き飛ばされる。
 もはや元の色なのか血の色なのかも分からないほど真っ赤に染まった重甲鎧ギガントアーマーは、ジェルケンブール兵にとっては魔族にも等しかった。
 しかも場は乱戦になっており、敵の数も状況も未だに把握できていない状況だ。ロイの果敢な突撃が、それを確認する時間的な余裕を与えていなかったのだった。

 だが遠くから、大地を響かせる重低音の地響きが届く。その音はジェルケンブールの兵士達に光明と余裕を与え、逆にマリセルヌスの兵士達には雷光で撃たれたかのような動揺が走る。

「陛下!」

「分かっている! やはり出してくるか」

 雨を切り裂き猛進する三体の巨兵。靄がかかったような視界の中、それは黒く巨大な死神のように映る。
 ジェルケンブール王国の人馬騎兵だ。

 戦場に落雷のような轟音が響くと同時に、1枚の浮遊式輸送板が潰れ地面に叩きつけられる。巨大な長柄戦斧ハルバードによる一撃。その一振りで、戦況は一変した。

 人馬騎兵と浮遊式輸送板の全長はさほど変わらない。むしろ幅で見れば浮遊式輸送板の方が上だ。だが高さが違う、装甲が違う、速さが違う。そして何より戦闘力では別次元の差があった。
 歩兵の上陸による斬り合いではなく、ただの一発。それだけで、悠々と浮遊式輸送板を無力化できる。彼らにとってフワフワ進む浮遊式輸送板など、宙に浮いたビニールプールでしかないのだ。

「マリセルヌス軍を蹴散らせ!」

 人馬騎兵隊に強襲された右翼軍は、瞬く間に崩壊した。
 指揮をしていたゲルトール将軍の重甲鎧ギガントアーマーはランスの一撃で穿たれ、その死骸は戦場に高々と掲げられた。
 残った残存部隊もまた、軽々と墜とされ屍を晒してゆく。懸命の応戦も、巨兵の前では無力だ。

「陛下、右翼に人馬騎兵が――」

「分かっている!」

 部下の報告を遮って、襲い掛かるジェルケンブール兵を粉砕する。その棘付メイスモーニングスターの一撃は、地面である大型浮遊式輸送板の天板を凹ませるほど。まだまだ魔力には余裕があるが、戦闘開始から既に4時間。通常の人間であれば、重甲鎧ギガントアーマーの稼働は限界に近い。
 その魔力切れに期待し、或いは人馬騎兵の援護で士気を高め、漆黒の兵士達は怯むことなくロイ王に殺到した。



 ◇     ◇     ◇



 アヴァンダ湖畔からも、その戦闘の様子は見えた。大雨で距離も遠く色合いだけでしか大勢は分からないが、人馬騎兵の姿は十分に確認できる。

「ご決断を……」

 全身鎧フルプレートを纏った兵士の一人がポレムに進言する。

「決断など、とうに出来ているわ」

 絞り出すようなか細い声。だが芯の通ったその声には、臆してる様子は微塵も無かった。
 ただ待っていたのだった。



 ◇     ◇     ◇



 右翼軍はゲルトール将軍を失ってもまだ潰走はしていなかった。ただ陣形は崩壊し、倍近い数を相手にもはや成す術はない。
 その様子を確認した人馬騎兵隊は、1機を残し、残る2騎がアスターゼン将軍率いる左翼軍へと移動を開始する。

「こりゃダメだな。一応、ワイヤーも試してみるか」

 全身真紅の全身鎧フルプレートに三日月の飾りを付けた兜を被った男。アスターゼン・ハイルドは、迫る人馬騎兵を相手にしながらも落ち着いていた。
 勝算があるわけではない。単に、死んだら死んだで良いやと思っていた程度である。だが、その前にやれることは全て済ませておく主義であった。

 遺品となるものは整理して出かけた。血族に別れも済ませた。ロイに苦言も呈した。そして今、二枚の浮遊式輸送板が人馬騎兵の左右に散る。
 間に張られたのは太さ5センチのワイヤーロープ。重機を使い、この為に必死で設置した物だった……のだが――

 ――ブチンッ!

 足に引っかかったワイヤーは、何の抵抗も与えることなく易々と千切れ飛ぶ。

「コンセシールが使ったって聞いたが、やっぱりダメだな」

 商国の飛行騎兵が出来たのは、複数、そして上空からの多種な角度、それに空中制御の柔軟性があっての事だ。単に足元に引いたワイヤーでは、5センチどころか10センチでもたいして変わりはない。

「全員敵浮遊式輸送板に乗り込め! ここでアレに殺されるよりはマシだ。各員、訓練の成果を見せろよ!」

 アスターゼンは愛用の両刃斧を掴むと、圧倒的多数が待つジェルケンブールの浮遊式輸送板へと乗り移った。


 中央のロイ王の本隊は、敵に完全に囲まれる形ながら奮戦している。
 右翼軍は風前の灯火であるが、左翼では多くの味方が敵浮遊式輸送板の上で乱戦を始めている。
 この状態であれば、暫くは人馬騎兵は遊兵化する。だが――

「陛下! 4騎目が現れました!」

 その漆黒の人馬騎兵は、突入中のロイの部隊の背後から現れた。まだ到着にはわずかの猶予があるが、あれに背後から切り込まれたら中央に斬り込んだ本隊は完全に袋のネズミとなってしまう。しかし、ロイ王に焦りは見られない。

「やっと4騎目がお出ましか。確か、この周辺で確認されている人馬騎兵は4騎のみだったな」

「飛行騎兵からの偵察によれば、その様です」

「ならば良し。あいつは臆病で小さいが、それでもやるべき事を投げ出したりはしないさ」
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