この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 それぞれの未来 】

追憶 後編

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 オスピアの落胆は分かっている。
 しかし、全てはもう何百年も前から準備はしてきたのだ。
 そしてそれは完成し、いよいよ話せるところにまで到達した。
 魔王としては、これは話し合いではない。決定を伝えているだけだ。
 オスピアもまた、それを十分に承知していた。

「結局、問題を先送りにする事しか道は無かった。だけど、見つけたんだよ……決着をつける人間を。千年以上をかけて、ようやくね。ここを逃せば、次の機会はもう無いかもしれない。いや、無いだろう」

「イヤンカイクはそれで良いのか?」

「イヤンカイクは魔王の決定に従います。我らは全てを魔王に委ねました。その決定に、異を挟みません」

「ふむ……ではその人間とやら……男であったか。それは相当の才覚を持っていると言う事か。お主を凌駕するほどの……」

「いやあ、普通の人間だよ。特別な才も無ければ知識も技術も特殊能力も無い。放っておけば、3日もあれば死んでいるだろうね」

 手をひらひらさせながら面白そうに言う魔王。
 静かに聞くつもりであったが、これでは納得しようが無い。
 再び机を叩いて立ち上がり――、

「そんな人間に、何が出来るというのかの! 冗談も大概たいがいにせよ!」

 ――怒った。当たり前だ。
 軽く話しているが、これは魔族と人間、互いの命運を決める重要な決定事項なのだ。

「必要なのは才能じゃない、人格だよ」

「人格? そんなあやふやなものが何になる!」

 人間性とでもいうのか? だがいったい自分がどれほどの人間を見てきたと思っている。
 ハルタールの女帝として、ここまで無数の人間を見てきた。歴代の魔王も見てきた。当然、魔神もだ。
 それだからこそ言える。有象無象の人間に、一体何が出来るというのか。
 優秀な人間が有能とは限らない。
 無能な人間が何も無せないとは言えない。
 だがこれは世界の命運を握る、神にも等しい力を持つ”魔王”という存在の選定だ。

「力や才など、彼らが幾らでも補える。魔人とはそういった存在だよ、こいつらは。だから、そんなものは不要さ。大切な事は、考え方、生き方、性格……そっちの方だよ」

「数百年に渡る年月、相当な人間が生まれよう。異世界まで含めるのならなおさらだの。そこまでの時間を掛けて、見出したのがごく普通の、何の取柄も無い人間か。お主、壊れているのではあるまいな?」

「酷いな、僕はいたって正気だよ。だけどね、オスピア。世界という大きな流れに対して、個人の才能なんて大した意味は無いよ。大切なのはどう考えどう動くか、そして正しく決断できるか、それだけさ。そういった意味では、彼には確かな才能があるよ」

「責任を放棄した者が言うと、それなりに説得力があるの」

「確かに、僕は先送りにしてきただけだった。彼らにも申し訳ないと思っているよ」

「そう思うのなら、今すぐ魔神達に命じよ。そして世界を思うがままにすればよい。こ奴らは何でも出来るのであろう?」

「いや――」

 魔王は、夢中でパンを食べているイヤンカイクを抱っこし、頭を撫でる。

「僕はもう、彼らにも、この世界に関わりすぎたし、愛着も持ち過ぎた。既にこちらの存在だ。今更、世界を変えようとは思わないし、その資格もない」

「結局、お主が責任から逃げているだけではないかの」

「確かにそう言われても仕方がない」

「ならば違うという事を説得してみせよ。お前の説明では、そこらの有象無象の人間でもよいではないか。力も知恵も、特別な能力も、何一つ不要なのであろう?」

「いや、それではダメなんだよ。言葉では説明できない事だけど、本当にバランスの問題さ。そう、誰でも出来るわけでもなければ、誰にでもなれるわけではない。そんな人間を見つけ出すのには、それなりに苦労したんだよ」

 全く、本当にいい加減な人間だ。だが、魔王の力にこれ程耐えられた人間はいない。精々父くらいではあるが、それは前提自体が違う。今の世界は……。
 しかしそんな人間が、不完全である故に完璧な人間を見出したのだという。
 間違っていないのであれば、それこそ神の視点ではないか。

「やはりお主を失うのは惜しいの。歴代の魔王の中でも、お主は抜きんでた力がある」

「全ての魔王を知るお方から、そう言って貰えるのは光栄だね。だけど、これはもう決めた事さ。この機会だけは逃すわけにはいかない……僕の数少ない決断だよ。次の魔王の事、よろしくお願いしたい」

「わらわがどうこうする事も無かろう。だがまあ、行く末は見守ろうぞ」 

 ……結局、先代魔王の見立て通り、人類は滅びの道へと進んでいる。だがこれは、魔族領を諦めきれなかった人間の未練と、今の魔王により引き起こされた事だ。結局、決着とは何を指すのかを言わなかった。知れば変わってしまうからと。
 だが先代魔王の性格を考えると、正直ろくでもない結果しか浮かばない。

「才能無き魔王か……」

 個人の才覚で世界は変わらないという。だが今、個人の才覚で世界を変えようとし、そして実際に変える力を持つ男が現れた。
 この先どんな未来が待っているのか、オスピアには分からない。だがおそらく、彼と現魔王の道は交わらないだろう。
 これから会う男は、果たして世界をたくすに値するのか……そんな事を考えながら、静かに次の来客を待った。
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